ダービーが終わり、今秋からは2歳新馬戦が始まる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、重要なマイルレースの意味合いについて解説する。

 * * *
 角居厩舎は2008年、2009年とウオッカで連覇を果たしています。ウオッカは日本ダービーとジャパンカップも勝っており、血統的にもけっしてマイラーとはいえませんが、GI7勝という抜けた実績を持つ馬を、この時期に安田記念を使ったということは、そのままこのレースの近年の傾向を象徴しているといえます。

 かつての安田記念は短距離馬限定のイメージが強く、「このメンバーなら、この馬が勝つ」といった予想が容易で堅い決着が多かった。前戦はマイラーズカップや京王杯SCで、秋はマイルチャンピオンシップを目標にすることが多く、変化に乏しく、面白みの少ないレースでした。

 しかし今は違います。

 3月下旬のドバイ組も走れるし、大阪杯から天皇賞(春)には向かわずにこちらを選んだり、2006年に創設されたヴィクトリアマイルから中2週で向かう馬もいる。レース後は宝塚記念まで使う馬もいるし、夏を越えて天皇賞(秋)にもつながっています。マイルという距離に縛られず、多彩なメンバーがここを目標にします。

 マイルCSは天皇賞(秋)とジャパンカップの狭間でやや窮屈ですが、安田記念は古馬が走るマイル戦として目標にしやすい。

 やはり、東京のマイル戦というところが大きい。東京の1600メートルは広くて直線が長く、道中できちんとタメを作ることができれば、最後は鋭く切れる。馬と騎手にとっては仕掛けどころが2000メートル、2400メートルとそれほど変わらない。東京ならではの特徴で、中距離馬でもここでスピードを試したくなります。

 もちろん牡馬の場合、ここで結果を出せば種牡馬としての価値がぐんとアップします。ダイワメジャーは皐月賞と天皇賞(秋)を勝ったあとにここを勝ちましたし、少し前になりますがアグネスデジタルは天皇賞(秋)ばかりかフェブラリーSまで勝ち、種牡馬としてさまざまな可能性を持つ産駒を出しています。

 ローテーションもさまざまで、今年初産駒が生まれたジャスタウェイは天皇賞(秋)を勝った翌年、ドバイDFを勝ってここで1着、次のレースには凱旋門賞を選んでいます。

 また、スプリンターもチャレンジしてみたいレースです。速い流れの中でも4コーナーを回るまで我慢ができれば、最後の直線でもう一度競馬がやれる面がある。香港スプリント連覇など1200メートルで無敵を誇ったロードカナロアは2013年にここを勝ち、種牡馬としての可能性がさらに広がりました。

 こうして見ると、レースの位置づけの変化に気づかされます。もはや「春のマイル王決定戦」とはいえなくなっていますね。

 今年は昨年から7戦全勝、さらにマイルGIを4連勝中というモーリスが断然の中心になりそうですが、この馬もただのマイラーではないような気がしています。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年5月15日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年6月10日号