今週6月5日(日)は、東京競馬場で3歳以上によるマイルGI・安田記念(芝1600m)が行なわれる。昨年の覇者で、香港GI2勝を含む7連勝中の最強馬モーリスと、GIドバイターフでGI初制覇を飾ったリアルスティールの対決が注目されるが、3番手以降の馬にも楽しみな馬が揃っている。その中から、今回は前哨戦のGII京王杯スプリングC(5月14日/東京・芝1400m)で重賞初制覇を果たしたサトノアラジン(牡5歳、栗東・池江泰寿厩舎)に注目してみよう。

 サトノアラジンは2歳8月、新潟芝1600mの新馬戦で3馬身半差をつける鮮やかなデビューを飾り、クラシック戦線でも注目の存在となった。だが、GIIIラジオNIKKEI杯2歳S(阪神・芝2000m)でのちのダービー馬ワンアンドオンリーの3着、GIII共同通信杯(東京芝1800m)でのちの皐月賞馬イスラボニータの3着と、2〜3歳時の重賞戦線では善戦するも勝ちきれず、春のクラシックは不参加に終わる。その後、夏に2連勝して秋にはGI菊花賞(京都・芝3000m)に出走し、トーホウジャッカルの6着に入った。

 その後は1600〜1800m戦を中心に出走。昨年からはGIIIエプソムC(東京・芝1800m)2着、GIII富士S(東京・芝1600m)2着、GIマイルチャンピオンシップ(京都・芝1600m)4着と強敵相手に善戦を続け、今年初戦のGIIIダービー卿CT3着を経て前走のGII京王杯スプリングCでようやく重賞初勝利を飾った。

 前走の内容は極めて優秀だ。勝ちタイム1分19秒6は2014年レッドスパーダの1分19秒7を0.1秒縮めるレースレコードで、コースレコードタイの好時計。4コーナー12番手から、上がり3ハロンは32秒4という素晴らしい瞬発力を披露した。

 初めての1400mでの快走から、「ベストは1400m」という印象が強いかもしれないが、GIマイルチャンピオンシップではモーリスと0.2秒差で2着馬とはクビ+ハナの僅差に入るなど、1600mは6戦して[2-2-1-1]。連対率66.7%、複勝率83.3%の高い数字を残している。距離で割り引く必要はないだろう。

 血統も素晴らしい。全姉ラキシスはGIエリザベス女王杯勝ち馬で、昨年のGII大阪杯ではキズナ(GI日本ダービー)やスピルバーグ(GI天皇賞・秋)といった牡馬の強豪を破った実力馬。母マジックストームは3歳8月に米GIIモンマスBCオークス(ダート7ハロン)を勝ち、米GIスピナウェイS(ダート7ハロン)でも3着に入った実績の持ち主だ。牝系を遡ると、ケンタッキーダービー馬で米2冠馬のシャトーゲイ、同じく米2冠馬リトルカレントなどが出た名門。代々付けられている種牡馬もストームキャット、ファピアノ、ニジンスキー、マイバブーと名種牡馬が並んでいる。姉ラキシスも4歳秋のGIエリザベス女王杯で重賞・GI初制覇を果たしているようにやや遅咲きの血統とも言えるので、この5歳春に本格化したのも頷ける。

 ディープインパクト×ストームキャットの配合といえば、仏GIイスパーン賞を10馬身差圧勝したエイシンヒカリ、前述のリアルスティールの海外GI馬2頭に加え、キズナ(GIダービー)、アユサン(GI桜花賞)、そして姉ラキシスとGI馬5頭が出ているニックス(相性の良い)配合。キズナやエイシンヒカリなど中距離馬も多いが、桜花賞馬アユサンを出しているように、マイル戦向きのスピード馬も出している。

 ちなみに、この配合は35頭がJRAで出走し、勝ち上がった25頭で計70勝。5頭のGI馬、7頭の重賞勝ち馬を出している。ニックス配合といえばオルフェーヴル(牡馬クラシック三冠)やゴールドシップ(有馬記念などGI6勝)のステイゴールド×メジロマックイーンも有名だが、そちらは24頭が出走し勝ち馬11頭で計48勝、GI馬3頭、重賞勝ち馬4頭という数字。量も確率も、ディープインパクト×ストームキャット配合が上回っているのだ。前走海外でGIを勝利したモーリス、リアルスティールと、相手は強いが、現在の日本で最強とも言えるニックス配合の持ち主であるサトノアラジンが、重賞初制覇から一気にGIホースへと駆け上がっても不思議ではない。

 また、鞍上の川田将雅(ゆうが)騎手はマカヒキで日本ダービー初制覇をしたばかりと、騎手の勢いも十分。快挙の1週後に、ダービーでハナ差負かしたサトノダイヤモンドと同じ池江泰寿厩舎、里見治オーナーの馬に乗るというのも因縁めいている。勝てば里見治氏にとってもGI初制覇。川田将雅騎手の2週連続GI制覇、里見治氏のGI初制覇なるかというアプローチからも注目したい。

 サトノアラジンに続く馬としては、フィエロ(牡7歳、栗東・藤原英昭厩舎)を挙げておきたい。こちらもディープインパクト産駒で、母の全兄がGI7勝を挙げ、全欧年度代表馬ロックオブジブラルタルという良血馬。重賞勝ちはないが、マイルチャンピオンシップでは2年連続2着。それを含め重賞2着が4回あるという堅実派の実力馬だ。昨年のこのレースは2番人気4着で、東京コースでは勝ち鞍がないが、同じ左回りの中京では4戦して3勝を挙げている。今回も十分チャンスはある。

 こちらの鞍上はサトノダイヤモンドでGI日本ダービー2着に終わったクリストフ・ルメール騎手。フィエロの馬主はマカヒキの馬主でもある金子真人ホールディングスなので、日本ダービー1、2着馬の騎手と馬主が、GI安田記念では入れ替わったということになる。この2騎手の因縁も興味深い。

平出貴昭(サラブレッド血統センター)●文 text by Hiraide Takaaki