燃費偽装事件で窮地に陥っていた三菱自動車が、日産の傘下で経営再建を図ることになった。
 日産にとっては、大きな収穫と言える。ルノー・日産連合の年間販売台数は850万台で、ここに三菱自動車の110万台が加わると960万台となり、1000万台で競い合う世界の3大メーカー、トヨタ自動車、独フォルクスワーゲン、米ゼネラル・モーターズに肉薄できるからだ。
 それだけではない。日産は、三菱自動車の軽自動車製造のノウハウを吸収することができるし、三菱が強い営業基盤を持つタイやインドネシアでの業容拡大も期待できる。もちろん、日産による2370億円もの出資は、今後消費者や関連メーカーへの莫大な補償を抱えることになる三菱自動車にとっても、生き残るための命の水となる。

 しかし問題は、燃費偽装のツケを誰が払うのかという点だ。
 三菱自動車は、本社の管理職が燃費偽装の指示を出したことは認めているものの、経営陣の関与は認めていない。しかし、四半世紀も偽装を続けてきて経営陣の関与がなかったという言い訳は、通用しないだろう。少なくとも、燃費偽装をせざるを得ないほど、強い業績へのプレッシャーを与え続ける社風を作った責任から逃れることはできない。ところが、このまま行けば、経営陣はその責任を追及されることなく、逃げ切ってしまうだろう。

 一方、燃費偽装のツケは、真面目に働いてきた現場にすべて押し付けられることになる。経営権を握ったカルロス・ゴーン社長は、思い切ったリストラに踏み切るだろう。
 1999年にルノーから日産に送り込まれたゴーン社長は、1兆円のコスト削減を掲げる「日産リバイバル・プラン」を発表し、主力工場の閉鎖などで2万1000人の従業員を削減した。リストラは取引先にもおよび、大幅な発注単価のカットを提示して、それを受け入れない下請け企業は容赦なく切り捨てた。その結果、部品の取引先は半減したのだ。
 このリストラは、販売拠点にも及び、販売拠点の10%を閉鎖して、ディーラー網を効率化した。当面、三菱自動車のブランドは残されることになっているが、リストラの嵐が吹き荒れることは、ほぼ確実なのだ。

 そのとき、何が起きるのか。ゴーン社長のリストラ手法は、業者を減らして発注量を増やすことで、単価を引き下げるというものだ。その結果どうなるか。例えば、日産系と三菱系の部品メーカーがあったら、切られるのは当然、三菱系になる。
 さらには、コンピュータのシステム、業務のマニュアル、果ては伝票の一枚に至るまで、すべて日産方式に統一されていくことになるだろう。つまり三菱自動車は、日産の植民地になっていくのだ。

 私はかつてUFJ銀行系のシンクタンクに勤めていたが、UFJ銀行が東京三菱銀行に吸収合併されたことで進駐軍がやってきて、会社の風景が一変してしまった。それが会社を辞める理由にもなった。そうしたツケを現場に支払わせて、経営陣が厳格な責任追及を受けないというのでは、真面目に働いてきた社員や取引先は、とても納得できないだろう。