【特集:「最強世代」の日本ダービー(6)】
◆ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今週は、いよいよ「競馬の祭典」日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)ですね。すべてのホースマンの夢であり、憧れであり......今年はどの馬、どのジョッキーが栄冠を手にするのか、本当に楽しみです。

 ところで、皐月賞(4月17日/中山・芝2000m)の際にも触れましたが、昨年の皐月賞で上位を占めた、1着ドゥラメンテ、2着リアルスティール、3着キタサンブラックは、その後のクラシックを賑わせたあと、年が明けて古馬になってからも活躍。ドゥラメンテとリアルスティールはドバイで奮闘し、キタサンブラックは先の天皇賞・春を制して、現在の競馬界のトップに君臨しています。それはつまり、昨年の3歳世代がそれほどレベルの高い世代だったという証でしょう。

 しかし驚くことに、今年の3歳世代はその昨年をしのぐほど「ハイレベル」と言われています。しかも、レベルの高い馬が1頭、2頭いるだけではありません。先の皐月賞でも、戦前から「普通の年なら皐月賞馬」というレベルの馬が何頭もいて、実際にそのとおりの結果になりました。

 勝ったディーマジェスティ(牡3歳)だけでなく、2着マカヒキ(牡3歳)、3着サトノダイヤモンド(牡3歳)、そして実質4着(5着に降着)のリオンディーズ(牡3歳)に、5位入線(4着)のエアスピネル(牡3歳)などは、普通の年なら皐月賞馬に輝いていたでしょう。時計がすべてではありませんが、そう言えるだけの走破時計を記録しましたからね。

 さらに今年は、「皐月賞組」以外からも魅力のある馬が出てきています。

 トライアルの青葉賞(4月30日/東京・芝2400m)では、ヴァンキッシュラン(牡3歳)が過去10年で最速、青葉賞史上でも2番目に速いタイム(2分24秒2)をマークして勝利しました(※)。プリンシパルS(5月7日/東京・芝2000m)でも、2000mで施行されるようになった2003年以降では、2010年のルーラーシップ(1分59秒1。その後、ダービー5着)に次ぐ1分59秒2という好タイムでアジュールローズ(牡3歳)が勝利。各トライアル戦でもハイレベルなレースが繰り広げられ、世代全体のレベルの高さが示されています。
※青葉賞における最速タイムは、2004年のハイアーゲームが記録した2分24秒1。同馬はダービーでも3着と好走。

 とにかく、今年の日本ダービーは相当見応えがあります。先の話になってしまいますが、ひとつ上の"ドゥラメンテ世代"との対決までも、今から楽しみになるほどです。

 そんな、世間的にも一段と注目度が増している今年の日本ダービー。中心となるのは、やはり王道の「皐月賞組」だと思います。確かにトライアルのレベルも高かったのですが、皐月賞こそ「最も強いメンバーで行なわれた"ダービートライアル"だった」と思うからです。

 現に皐月賞の前から、サトノダイヤモンドやディーマジェスティなどの陣営は、「最大目標はダービー」と公言していました。ということは、それらの馬にとって皐月賞は"ステップレース"だったということ。すなわち、高いパフォーマンスを見せたとはいえ、ダービーの優先出走権を得るために懸命な競馬をしてきた「トライアル組」とは、ダービーへ向けての過程や余力が明らかに違うのです。

 では、「皐月賞組」でどの馬が上位を狙えるのか。

 リオンディーズは、皐月賞では強い風の影響を受けたり、折り合いを欠いたりして、本来の力を発揮できなかったと思います。しかし、ここ最近のレースを見ていると、半兄エピファネイアの悪い頃の雰囲気に似ています。その辺りが、この短期間ではたして矯正されるのか。そんな不安を抱えている分、やや割引ですね。

 また、エアスピネルも皐月賞で上位に入線した馬とは勝負づけが済んでしまったように思います。まともな"力勝負"になったら、おそらく出番はないでしょう。

 それでも、鞍上はダービー5勝の武豊騎手。誰よりもダービーの勝ち方を知っているジョッキーです。ダービーを勝ってないジョッキーと比べたら、そのアドバンテージは非常に大きく、展開が味方して、なおかつ"ここ一番"の勝負騎乗がはまるようだと、チャンスが巡ってくるかもしれません。武豊騎手自身、今勢いがありますからね。

 とはいえ、現実的には皐月賞の上位3頭のほうが上。とりわけ、マカヒキとサトノダイヤモンドにかなりの可能性を感じます。

 ともにディープインパクト産駒ですが、その父により似ているのは、マカヒキのほうでしょうか。ローテーションもほぼ同じですし、爆発的な決め手はまさに父ディープインパクトを彷彿とさせるものがあります。ただし、父のほうがもう少し重心が低かったような気がします。その点で、距離が延びることがやや心配になってしまいますね。

 一方のサトノダイヤモンドは、マカヒキに比べて決め手の鋭さはないものの、抜け出す脚はありますし、長くいい脚を使います。皐月賞では、ハイペースで飛ばすリオンディーズを意識しすぎて早く仕掛けることになって、後方で待機していた馬に有利な展開を作ってしまいました。しかし、この馬自身、最後まで伸びていたことは大きな収穫。直線が長い東京コースはプラスに転じると思います。

 鞍上は、ルメール騎手。JRAに移籍後、大一番での勝負強さには「?」マークがついていましたが、NHKマイルC(5月8日/東京・芝1600m)では1番人気のメジャーエンブレムで勝利し、そうした懸念は払拭されつつあります。そもそも、先週は土日で10勝も挙げた桁違いのジョッキーです。ダービージョッキーとなるにふさわしい存在と言えるでしょう。

 心情的に言えば、もちろんディーマジェスティ騎乗の蛯名正義騎手に勝ってほしい気持ちがあります。悔しい経験を繰り返し、あと一歩というところまできていますからね。

 蛯名騎手の初めてのダービーは、皐月賞2着のシャコーグレイドで参戦したとき(1991年、8着)でしたか。確か3番人気でしたね。その後、キングカメハメハに勝負を挑んだハイアーゲームでの騎乗(2004年、3着)も、強く記憶に残っています。

 さらに、わずかな差で涙を飲んだフェノーメノ(2012年、2着)、1番人気で臨んだ一昨年のイスラボニータ(2着)なども印象的なレースでしたが、いまだ"ダービージョッキー"の称号を手にすることはできていません。ダービーを勝ったことのないジョッキーが、1番人気でレースを迎えるプレッシャーは尋常なものではないですしね。

 ただ、そうした経験はそう簡単にできるものではありませんし、それらの経験が今、大きな財産となっていると思います。一昨年同様、再び皐月賞馬で挑む日本ダービー。この中間の蛯名騎手からは、2年前とは違い、いい意味での緊張感がうかがえます。それが、いい結果につながることを期待しています。

 さて、今回の「ヒモ穴馬」には、「皐月賞組」でも、「トライアル組」でもない、別路線からの馬を取り上げたいと思います。京都新聞杯(1着。5月7日/京都・芝2200m)から臨戦してくるスマートオーディン(牡3歳)です。

 同馬を管理しているのは、松田国英調教師。キングカメハメハとタニノギムレットでダービーを2勝しています。そして、その2頭はともにNHKマイルC経由でした。その他、同師の管理馬であるフサイチリシャール、ブラックシェル、ダノンシャンティ(直前で出走取消)らが、同じステップでダービーに挑んできました。

 それが今回のスマートオーディンは、ダービーに出走できるだけの賞金を満たしていながら、毎日杯(3月26日/阪神・芝1800m)からNHKマイルCには向かわず、京都新聞杯をステップにしてきました。世間では、2013年に同じ臨戦過程でダービーを制した"キズナ路線"と言われているようですが、その選択には好感が持てます。

 やはり、NHKマイルCというGIの舞台となれば、GIIやGIIIといった重賞に比べれば、消耗も激しくなります。まして関西馬にとって、短期間で2度の長距離輸送は堪えます。そうしたことを懸念して、今年はこれまでとは違う路線に変更してきたのでしょう。輸送のない関西圏のレースで、GIより相手が弱い分、目いっぱいの競馬をしなくて済むので、ダービーに向けて"お釣り(余力)"も残せますからね。

 実はこの馬、京都新聞杯の"前身"である京都4歳特別を勝って、裏街道から表舞台のダービーに挑んできたシルクジャスティスのイメージに重なるんです。そう、僕がサニーブライアンで勝たせてもらった、1997年のダービー2着馬です。

 スマートオーディンからは、同様の雰囲気が漂ってきています。一発あってもおかしくないと思いますよ。

大西直宏●解説 analysis by Onishi Naohiro