性別は一般的に男性と女性に分かれる。でもそれは生物学上の話で、性別認識であるジェンダーは自分自身が決めるもの。生物学上の性別に沿ってもいいし、反対だっていいのだ。そんななか、いま注目されているのは、女性、もしくは男性どちらにも分類されないノンバイナリージェンダー(non-binary gender)という存在。ダラスの児童医療プログラム「Genecis Program」で精神科医を務めるメレディス・R・チャップマン医師に、詳しく話を聞いてみた。


male and female / Shutterstock


■ノンバイナリージェンダーってどんなもの?

「ノンバイナリージェンダーとは、自身のジェンダーを男性、女性のどちらかに限定しないもの。男性、女性の両方が混ざり合っているように感じたり、男性と女性の中間にいるように感じたり、もしくはもっと違うものを感じたり……といういわゆる第3の性です。ノンバイナリージェンダーの他に、Xジェンダー、ジェンダー不適合、ジェンダー・エクスパンシブ(gender expansive)、ジェンダー・オーサム(gender awesome)など呼び方も色々あります」

もっと理解を深めるには、ノンバイナリージェンダーの3名の声も聞いてみるといいだろう。「自分はどちらの性別でもないアジェンダーと、女から男になるトランスジェンダーの中間かな」と語るのは26歳のステフ。「女性であることにすごく違和感があって、男性になることに魅力を感じているけれど、完全に男性器を持ちたいという欲求はない。体のとある部分は男性にしたいけどその他はニュートラルって感じで、心の一部は男性で、他の部分は女性。だから今は自分の性別認識を決定することができないんだ」

トランスジェンダーのジョーダンは自己の性別認識についてこう語る。「主にトランスジェンダーって認識されているけど、正確に言うと男性に生まれたことに違和感を感じるデミボーイとアジェンダーの間って感じ。女性らしいって言われるよりは男性らしいって響きが良いけれど、どちらかの性別にカテゴリー分けされない方が心地良い。つまり、男性でも女性でもないノンバイナリージェンダーってこと」

トランスジェンダーで初めてプロムクィーンとなった22歳のアンディ・ヴィヴェロは以下のように話してくれた。「必ずしも自分のジェンダーを決める必要ははないと思うけれど、私は男性も女性もどちらも感じるから、ノンバイナリージェンダーよ。私は物心ついた頃から女性らしかった。高校では特にそれが発揮されて、プロムクィーンにも選ばれたわ。その時はトランスジェンダーとして注目されたけれど、今は自分が望むなら何にだってなれると思う!」

■ノンバイナリージェンダーはトランスジェンダーと同じ?

ノンバイナリージェンダーと間違いやすいのが、トランスジェンダー。でもこのふたつ、似ているようで実は全く違う。

「トランスジェンダーっていう言葉は多様な意味をもち、多くの人に当てはまるから、みんなが入れる大きな傘みたいなもの」と説明するのは、トランスジェンダーのパフォーマンスアーティストで教育者であるレベッカ・クリング氏。「トランスジェンダーは普通、生まれた時とは別の性別を望むことを表します。対してノンバイナリージェンダーの人は、“身体と心が必ずしも別の性別というわけではなく、男性でも女性でもない”のです。だから、トランスジェンダーに含まれるとは限らない。今はまだノンバイナリージェンダーの意味がきちんと定義されていないため間違えやすいですが、当人たちにとっては“全く違う”別の意味合いを持ちます」

■性別表現でノンバイナリージェンダーを見分けられる?

次に考えたいのは、ジェンダーには自己認識と性別表現の2パターンがあるということ。チャップマン医師は「性別表現とは、ファッションや髪型、行動や作法、声といったことも含まれます」という。ステフは自身の性別表現を両性と語る。「182cmで57kgだし、男性の格好をするから、男性だと扱われることがほとんど。かといって男らしい態度や行動をあからさまにとることはないかな」

「私の性別表現はユニークよ」と語るのはジョーダン。「男性っぽい格好の方がしっくりくるけど、性格は心優しくって思いやりがあって、感情的で女性らしい。だから男らしいとか女性らしいってとかどちらに区別して欲しくない」

同じくアンディも自身をユニークだと話す。「男性っぽく着たい日もあるけど、時にはすっごくフェミニンにしたい時もある。でもどちらの時も自分は自分だし、心地良さも同じ」

■ ノンバイナリージェンダーの人へのNG行為って?

「世界の歴史を振り返ると、ふたつ以上の性別が存在することが社会的に認識され、受け入れられ、リスペクトされてきた事例はあります。ナバホ族などのネイティブアメリカン、ニュージーランドのマオリ族、オーストラリアの先住民といった例が挙げられるでしょう」とチャップマン医師が説明するように、ノンバイナリージェンダーの概念は以前から存在してきた。しかし、ノンバイナリージェンダーという言葉自体は比較的新しいものだという。

ノンバイナリージェンダーという概念は広がりつつあるけれど、だからと言って勝手に友達をノンバイナリージェンダーと決めつけたり、彼らに何でも質問したりするのはNG。

ステフは「2年前までは、セクシュアリティについて質問されるのが怖かった。時間やプロセスを経て今はもう大丈夫になったけど、その人が100%オープンにしていない限り、あれこれ質問するのはダメ」と語る。ジョーダンは「会話でジェンダーの話題が出た時、自分のことを話すのは問題ないけれど、知らない人、もしくは知り合いだとしても、突拍子もなくジェンダーの質問をしてくる人や、トランスジェンダーとして扱ってくる人と話をするのは嫌」と口を開く。「急ぎ足でジェンダーを決めつけるのではなく、時間をかけて自分のことを知ってもらう方がいい。体のことや手術に関する話題は、親しくない友人や家族以外にはあまり話したくないんだ」

では彼らに会った時、どんなことを聞けばいいのだろう? それは「私は自分に対してShe(彼女)を使っているけど、あなたは?」と、代名詞を聞くこと。

アンディは「He(彼)、She(彼女)どちらでも」という一方、ジョーダンは「They(彼ら)、もしくはHe(彼)」という。さらにステフは「もっと性別に中立的な代名詞があれば嬉しいけど、仕事関係ではShe(彼女)を使っている」と解答。格好が男性っぽいからHe(彼)、女性っぽいからShe(彼女)と勝手に使ってしまっては、結局見た目で判断していることになる。だからこそ「あなたは自分自身をどう呼んでる?」と聞くのが最低限のマナーでもあるのだ。

性の多様化が進んでいる今だからこそ、見た目や仕草だけで性別を決めつけしてまうのは、もはやタブー。そして全ての人が男性、女性どちらかに分かれるわけではないということをしっかり心に刻もう!

出典:TEEN VOGUE

TEXT:VERA PAPISOVA TRANSLATION:MARIKO PEELING