レーシングドライバー星野一樹。『日本一速い男』の異名をとった元レーシングドライバーで現在はレーシングチームの監督を務める星野一義を父に持ち、自身もSUPER GT で2度のシリーズ・チャンピオンに輝くなど、今や日本を代表するレーシングドライバーのひとりである。そんな星野は意外にもモータースポーツの世界きっての競馬ファンという側面も持ち、競馬専門放送のグリーンチャンネルの番組出演(「競馬場の達人」)も果たすほど。馬と車、乗るものは異なるが、同じ"レース"という種目で、極限のスピードの中で戦う彼ならではの目を通して、今年の日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)を語ってもらった。

 きっかけは競馬ゲームでした。高校生の頃に流行った「ダビスタ」と「ウイニングポスト」で、特に「ダビスタ」にはのめり込みました。ああいったゲームって、レースの場面だけでなく、そのバックボーンの作り込みもしっかりしているじゃないですか。それまで、テレビとかで「ああ、競馬やってるなあ」と思うことはあったんですが、日本の競馬の仕組みをゲームを通じて知って、これは奥が深いぞ、と。血統から調教からレースの種類やローテーションまで、まだ本物の競馬も見に行く前から、ぐいぐい引き込まれました。

 そうして実際の競馬も見始めるようになって、最初に印象に残った馬が、ライデンリーダーでした。地方競馬から桜花賞トライアルに挑戦してきて、それをものすごい末脚で勝ってしまったあのシーンは、今でも強烈に頭に焼きついています。

 それからナリタブライアンの存在も大きかったです。三冠(皐月賞・日本ダービー・菊花賞)をあんな強さで制してしまうのは衝撃的でしたね。三冠なんて簡単に獲れるものではないですから、自分が競馬を見るようになって早いタイミングで、ああいった馬が出現したのは、今思えば、すごく恵まれていたと思いますね。

 ただ、その後になりますと、自分もカーレースの世界に入って、自分のことで精一杯で、しばらく競馬を見ることから離れてしまってたんです。オルフェーヴルとかも知ってはいたんですけど、「そんな馬も今はいるんだ」程度で。そんな折、今から2、3年くらい前に、チームも組んだことのあるレーサーの安田裕信選手から、「星野さん、競馬って面白いですよ」と言われて。彼も競馬ファンだったんですね。そこで、久しぶりに競馬を見るようになったら、以前とは比べものにならないぐらいのめり込むようになりました。

 というのも、自分がレーシングドライバーになった立場で競馬を見ると、昔とは見えてくるものが違ってきたんです。これは競馬も自分たちの競技も似ているぞ、と。例えば、ジョッキーは僕らドライバー、馬は車、調教師は監督、馬主はスポンサー、生産者はメーカー、厩舎スタッフはメカニック、と全部置き換えられるんですよ。だから、レースもそれだけを見るのではなく、チーム全体がレースに向けてどう準備してきたのか、というのも気になり始めました。

 そう考えると、競馬が俄然面白くなってきましたね。レースに出るまで長い時間をかけてきたものが、最後はジョッキーに委ねられる。背負うものを考えればものすごいプレッシャーですし、一瞬のミスでそれも全部ふいになってしまうこともあります。そういった点も共感します。桜花賞で断然人気のメジャーエンブレムに騎乗して負けたルメール騎手が、NHKマイルCを勝った後に見せたホッとしたような表情なんかは、僕らにとってはものすごく印象に残るものでした。

 最近はPOG(ペーパーオーナーゲーム)にも興味を持ち始めまして。そうしていろいろ本を見ていると、さらに生産者の考えや血統のトレンドとかも気になり始めて、また競馬の視野が広がって行くのを感じています。キリがないですね(笑)。

 それから、競馬そのものが血統のスポーツですし、ジョッキーでも横山典弘騎手、武豊・幸四郎騎手、福永祐一騎手など、いわゆるお父さんもトップジョッキーだった「二世」の皆さんがいますけど、実はその点については、自分も境遇が似ているわりに何か意識したということはないんですよ。改めて今そう考えてみると、逆に新鮮なぐらいで。

 でも、ここまで来るまでに、いろいろ周りから言われたり、気持ちのうえで大変だったこともあるだろうとは察します。僕も今でこそ「自分は自分、星野一義の息子であることも事実」と割り切っていますが、若い頃はそれを認められず、モヤモヤした時期もありました。父親のチームを2年でクビになったときに、すごく落ち込みましたけど、ここでちゃんと自分が「星野一義の息子だったから」ということに向き合えましたね。実際にスタートラインは恵まれていたはずなんです。それはもう受け入れよう、そこから先が自分の力なんだ、と。二世ジョッキーと言われる皆さんも、そういったものを乗り越える瞬間が何かしらあったんだろうなあとは思います。

 僕の予想のスタンスは、「そのレースで一番強い馬を探す」というものです。オッズとの比較で旨みがあるかどうか、というのはそれほど考えないので、1番人気でも「勝てる」と思えば普通に本命にします。だから、本命党でも穴党でもないですね。さまざまなファクターを取り入れつつ、いろいろな状況や展開をシミュレーションして、一番勝つ可能性の高い、言い換えれば「このメンバーで10回レースをやったら、どの馬が一番多く勝つか」という考えで予想します。ドライバーなので、ジョッキーの心理とかもかなり考えます。

 そうして考えた今年の日本ダービーは、こんな予想になりました。

◎  ディーマジェスティ
〇  サトノダイヤモンド
▲  スマートオーディン
△1 リオンディーズ
△2 マカヒキ
△3 プロディガルサン
☆  ヴァンキッシュラン

 本命のディーマジェスティは、出走を取り消したホープフルSでも▲以上に考えていた馬で、休み明けの共同通信杯でも予想の段階では軸で考えていたんです。ですが、当日のパドックを見て、ハートレーに替えちゃいまして(苦笑)。しかも、あの日は前残りが多かったので、先行するリスペクトアースを入れた分、ディーマジェスティを代わりに抜いたら、勝たれてしまうという。ただ、あのレースぶりで、改めてこの馬はちょっとモノが違うぞと思って、前のレースの後悔も踏まえて(笑)、皐月賞はこの馬から馬単を買いました。パワー型だと思っていて、皐月賞でもあれだけのキレ味を出すと思っていなかったので、ビックリしましたね。ディープインパクト産駒らしくなさと、それっぽい部分が同居していますよね。

 サトノダイヤモンドは印では対抗にしましたけど、本命にかなり近い対抗です。今年の3歳世代の中で、見た目が一番好きなタイプですね。実は、皐月賞で三連複の軸はこの馬だったんです。そのぐらい安定感があります。血統もこれからトレンドになりそうなアルゼンチンからの母系で、今までの日本の馬よりもうひとつ何かを持っていそうな印象もあります。

 あと、ドライバーの立場からすると、この2頭はデビューからずっと同じ騎手が乗っているのがいいですね。カーレースも開発の段階から同じドライバーがずっと乗って、レースも使いつつ、ドライバーも車の特性を把握しながら作り上げていくんです。これって競馬も共通していますよね。完成された古馬ならともかく、この時期の3歳馬はまさにそうした作り上げていく段階ですので、ずっと乗ってクセとかも把握しているジョッキーというのはポイントが高いです。

 スマートオーディンは前走が文句なしの内容でした。共同通信杯の敗因だけハテナマークがつきますが、ちょっと引っ掛かったのかなと思います。折り合えれば、上位に来ると思います。

 リオンディーズは、自分でレースを作って勝っていないように見えるんですよね。朝日杯フューチュリティSも、自分であの位置に下げてというよりは、能力があったから結果として勝った、という印象で、その分勝ちに行くと結果が出ていません。ダービーを押し切るまではどうかな? という感じです。

 マカヒキも能力は認めつつも距離に不安があります。マイルから2000mがベストというイメージで、2400mでこれまでのような末脚が出るのか疑問です。

 プロディガルサンは去年、芙蓉Sを勝ったときに、この馬が来年のダービー馬かなと思いました。その後はちょっと伸び悩んでいるようで、よくなるのはもっと先かなとも思いつつ、ここで走るかもしれない、走られて買ってなかったらイヤだな、と(笑)。

 ヴァンキッシュランは青葉賞がとても強かったと思います。ただ、青葉賞組は本番で勝てないんですよね。個人的にはもう1週間隔があれば、もう少し重い印を打ちたい感じです。

 日本ダービーは、僕にとっては他のGIとは段違いで、ナンバーワン中のナンバーワンのレースです。一生に一度というのは、カーレースでは例えようがないですし、小さい頃野球をやっていたので、甲子園のような重みを感じます。誰もがここをまずは目指す、ここのために頑張るというレースは他にないですからね。

 当日はドイツでニュルブルクリンク24時間耐久レースの真っ最中です。リアルタイムでは見ることができませんが、東京競馬場に思いを馳せながら、僕も頑張りたいと思います。

 【profile】
星野一樹(ほしの・かずき)
1977年生。東京都出身。99年からレーシングドライバーとして活動し、現在はスーパーGTのGT 300クラスを中心に活躍中。08年、10年にシリーズ・チャンピオン。今季もNDDP RACINGに所属し、スーパーGT第2戦富士ラウンドを優勝。

※星野一樹選手(と本山哲選手、安田裕信選手)が出演する「競馬場の達人」が、異例の前・後編の2本立てでグリーンチャンネルにて放送中!
(オンエア予定)
前編:5月22日(日) 22:00〜22:30(初回)
後編:6月5日(日) 22:00〜22:30(初回)
再放送あり。詳しくは番組HPで。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu