名前も覚えていないのに、記憶から抜け落ちない選手がいる。

 5月11日にU−23日本代表と対戦したガーナ代表は、何のインパクトも残さずに帰国した。鳥栖のピッチに立った選手たちをもう一度見ても、「ああ、あの選手か」と思い出すことはないだろう。

 ふたりを除いては。

 そのひとりは、背番号6を着けた左サイドバックである。バシル・アブドゥルという24歳の選手は、コンタクトプレーで日本人を圧倒したわけでも、快足を飛ばしてチャンスを作り出したわけでもない。標準的なレベルの選手に過ぎなかった。
ならばなぜ、僕は彼を覚えているのか。

 レフティーだったからだ。

 今回のガーナ代表は、国内のクラブでプレーする選手だけで構成されている。フル代表に招集されている選手はわずかにふたりで、来日メンバーも17人に限られていた。

 チームのレベルは決して高いものではなく、人数も絞り込まれていた。それでも、左サイドバックにはレフティーが起用されていた。バシル・アブドゥルに代わって出場した背番号13の選手もまた、左利きだった。ダニエル・ダークワーというこの24歳が、記憶にとどまっている二人目の選手である。

 ガーナと同じような状況で、日本代表がチームを編成したとする。国内組だけで、国際試合に臨むとする。

 左サイドバックには、誰が選ばれるだろう?

 そもそも、左利きかどうかが選考基準に含まれるだろうか。基準のなかで上位に上がってくるだろうか。それよりも、「国際試合で通用するか否か」と、「将来性」が、幅を利かせる気がする。

 右利きでも器用に左サイドをこなす選手はいる。近年では駒野友一、長友佑都、酒井高徳らが、非レフティーの左サイドバックとして日本代表を支えてきた。ガーナ戦で左サイドバックを務めた亀川諒史も、左右両サイドに適応する右利きのプレーヤーだ。

 彼らを否定するつもりはない。ただ、左利きと右利きでは、ボールの受けかたやボールの置きどころが違う。センターバックからパスを受けたときに、右足でトラップをするのか、左足でトラップをするのかによって身体の向きは異なり、パスを受けた際に確保できる視野も変わってくる。

 より大きな視点に立てば、チームとしての可能性が変動するということだ。サイドバックの攻撃性能がチーム全体に大きな影響を及ぼすのは、もうずいぶん以前から世界のスタンダードである。

 U−23日本代表が21日から登場するトゥーロン国際には、ヨーロッパ、南米、アフリカなどから10か国が集う。日本以外の出場国は、レフティーが左サイドバックを務めているのか。個人的な注目ポイントのひとつである。