2006年に創設された、JRAでもっとも新しいGI競走「ヴィクトリアマイル」。牝馬限定ではあるが、勝ち馬は牡馬に引けを取らない強さを示している。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、牝馬の強さについてお届けする。

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 角居厩舎は2011年を除いて、毎年のように出走させています。府中の芝のマイル戦という舞台がいい。牝馬にとっては、桜花賞の次くらいによいレースだと思っています。

 一方で、1週前のNHKマイルカップには角居厩舎からはほとんど出走していません。やはり3歳ではクラシックを見据えたローテーションを組みたいからです。クラシックの狭間にあるレースなので、目標になりにくい面は否めません。クラシックは、「その旬に一度しか勝てないレース」です。その他のGIは「追いかけて勝ちにいくレース」と私はとらえています。

 そういった意味でも、この4歳以上牝馬戦は「追いかけるレース」の、まさに女神級です。

 旬には旬のよさがあるように、熟成にも妙味がたっぷりです。3歳の桜花賞でもう一歩だった牝馬が、1年たって心身ともにようやく安定してくるという位置付けです。フケの出る馬は4歳の春でもたいへんなのですが、それでも3歳時にフラフラとしていた馬体は、どっしりと落ち着いてきます。

「男馬は夏に、女馬は春に強くなる」とよく言われるように、ヴィクトリアマイルに照準を合わせて調教することで、牝馬はより強くなります。ここで強い競馬をして、秋のGI戦線に殴り込みたいわけですね。天皇賞(秋)やマイルチャンピオンシップは、夏にどれだけ成長したかが問われますが、牝馬の場合は夏前に強くなる。まさに「今!」です。

 しかし、勝利の女神が角居厩舎に微笑んだのは2009年のウオッカのみ。昨年はディアドラマドレが7着、2014年は3頭出しでキャトルフィーユ(5着)、デニムアンドルビー(7着)、ラキシス(15着)でした。

 2012年、2013年と続けて出走したオールザットジャズも跳ね返されました。いずれの年も福島牝馬Sを勝って勇躍乗り込み、特に2012年は2番人気に推されましたが、16着と期待に応えることができませんでした。3歳時にクラシック路線を歩んできた馬とは戦ってきた相手が違ったということなのでしょうか。

 どんな男馬よりも体調のよい牝馬のほうが強い。これが私の経験則です。とくにこの時期の牝馬が同世代の男馬に勝てないようでは、秋のGIは目指せません。

 ウオッカは2008年にもこのレースに出走、4歳のエイジアンウインズをとらえられず2着でしたが、続く安田記念に勝つことができました。このとき4歳牡馬は9着が最高でした。この時期の牝馬の強さを物語っています。牝馬限定だから相手関係が楽ということはなく、ここを目標にした手強い相手が揃うレースになっています。

 角居厩舎のトーセンビクトリーは賞金的に出走できるかどうか微妙ですが、できれば、この時期に強い相手と戦っておきたいところです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央G犠〕数23は歴代2位、現役では1位(2016年5月1日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年5月20日号