2016年クラシック候補たち
第13回:ヴァンキッシュラン

 GI日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)を前にして、4月30日にはトライアル戦となるGII青葉賞(東京・芝2400m)が行なわれた。ダービーと同じ舞台で行なわれるこの一戦では、2着までに本番の優先出走権が与えられる。今年も、その権利を求めて数多くの有力馬が出走した。

 そして、そんな熾烈な争いを制したのは、ヴァンキッシュラン(牡3歳/父ディープインパクト)だった。

 ヴァンキッシュランは、ダービー出走にふさわしい血統の持ち主と言える。母はフランスGIを制し、GIIIでは2勝を挙げているリリーオブザヴァレー。その母に、父ディープインパクトを掛け合わせた同馬は、当然のように注目された。2013年に行なわれた競走馬のセリ市『セレクトセール』では、1億9000万円の高値で落札された。

 周囲の期待が高まる中、同馬は昨年7月にデビュー。しかし、すぐに良血開花とはならなかった。デビューから3戦して、2着、3着、2着と、なかなか勝ち切れなかったのである。

 眠っていた能力が覚醒したのは、今年に入ってからだった。年明けの3歳未勝利(1月16日/京都・芝2000m)でやっと初勝利を挙げると、走りが一変。続く条件戦こそ、他馬への妨害により2着降着(1着入線)となったものの、リベンジで挑んだ500万下のアザレア賞(4月2日/阪神・芝2400m)では中団から鋭く抜け出して快勝した。

 その後、ダービー出走を目指して青葉賞に参戦。好位を追走し、直線に入って早めに先団をとらえると、そのまま後続を寄せつけずに突き抜けた。

 もうひと伸び足りなかった昨年とは、まるで"別の馬"と言えるほどの変貌を遂げたヴァンキッシュラン。同馬を管理する角居勝彦厩舎(栗東トレセン/滋賀県)でも、その急変ぶりには驚いているという。関西競馬専門紙のトラックマンが語る。

「スタッフによると、昨年のデビューの頃は『(その能力に対して)まだ半信半疑だった。それが、1勝目を挙げてから一気に変わってきた』とのこと。さらにスタッフは、思わず笑みをこぼしながら『走りのフォームや馬体が一変した。こんなに変わる馬も珍しい』と、うれしい悲鳴を挙げていましたよ。青葉賞の勝ちタイムも、レース歴代2位。本当に力をつけていると思います」

 本番のダービーでは、さらなる強敵が待ち構える。栄冠を手にするのは決して簡単なことではないが、この馬にはそれを予感させるような"要素"があるようだ。前出のトラックマンがその詳細を伝える。

「とにかく闘争心が素晴らしいらしく、スタッフは『ガッツがありすぎるくらい』と話しています。降着になったレースも『他馬に負けまいとして、馬が自ら体を寄せていってしまった』とのこと。その精神力は、相手のレベルが上がれば上がるほど、必要不可欠なもの。最後まで食らいつくことができれば、チャンスがあるかもしれません。また、距離経験がありますし、キャリアも豊富。どんな展開にも対応できるのは強みです」

 2400m戦で行なわれるダービーだが、3歳のこの時期で同距離を経験している馬はそれほど多くない。しかし、ヴァンキッシュランはすでに2400m戦を3度も走っている。しかも、降着さえなければ、3連勝である。その実績と経験は大きな武器になるはずだ。

 競馬界最高峰の舞台にきっちりと間に合わせてきた良血馬。闘争心と距離への経験を武器に、同世代の競走馬の頂点を目指す。

河合力●文 text by Kawai Chikara