昨年のJRA年度代表馬が香港で2016年の始動戦を迎える。

 昨年、安田記念(2015年6月7日/東京・芝1600m)、マイルチャンピオンシップ(同年11月22日/京都・芝1600m)、香港マイル(同年12月13日/香港シャティン・芝1600m)と3つのGIを制し、JRA賞の年度代表馬と最優秀短距離馬に選出されたモーリス(牡5歳、父スクリーンヒーロー、堀宣行厩舎)がカムバックする。復帰の舞台は、5月1日、昨年の香港マイルと同じコースで行なわれるGIチャンピオンズマイル(シャティン・芝1600m)。奇しくも2戦続けて香港での出走となる見込みだ。

 香港における国際招待競走といえば、1週前に行なわれたGIクイーンエリザベス2世カップ(シャティン・芝2000m、以下QE2C)に、日本からラブリーデイ(牡6歳、父キングカメハメハ)、サトノクラウン(牡4歳、父マルジュ)、ヌーヴォレコルト(牝5歳、父ハーツクライ)の3頭が挑み、そのいずれかによる勝利が確実視されながら、ラブリーデイの4着が最先着と、地元勢の壁に阻まれたばかり。また、香港で従来から行なわれている国際招待競走のうち、日本調教馬が一度も勝利したことがないのが、このチャンピオンズマイルである。果たして、モーリスは再び昨年のパフォーマンスを発揮し、それらの不安を払拭することができるだろうか。

 モーリスは、昨年の香港マイル優勝後は、滋賀県にあるノーザンファームしがらきで調整。当初は予備登録を行なった3月26日のGIドバイターフ(メイダン・芝1800m)で戦線復帰を予定していたが、ツメの不安による調整の遅れから、照準を春の香港に改めた。美浦に帰厩してからは4月14日に時計を出し、検疫に入ってからの翌週21日にはウッドチップコースで5ハロンから67秒5−37秒7−12秒2の追い切りを順調に消化した。

 現地での評価でいうと、今年初戦にもかかわらず、先週の日本勢3頭以上に「モーリスには逆らえない」という雰囲気が、地元だけでなく、他国のメディアからも伝わってきている。何しろ、昨年の香港マイルを文句なしの強さで制圧している。コース適性と能力は証明済み。加えて今回は、香港のリーディングジョッキーであるジョアン・モレイラ騎手を鞍上に迎える。これ以上ない援軍と言っていいだろう。

 さらに今年に限っていえば、香港マイルで3着だった昨年の覇者エイブルフレンドのような強力なライバルが不在という点も大きい。水曜日時点にも関わらず海外の大手ブックメーカーでは、2倍を切るオッズが示されており、その事実からも、モーリスの一本かぶり状態であることがわかる。

 万全の態勢で4月24日未明に香港に到着したモーリスは、翌25日にはオールウェザーコースで軽めの調整を行なった。前回の香港遠征も、同じく日曜日未明の香港着だったが、最初に馬場に入ったのは翌々日の朝のこと。それもじっくりと時間をかけてきわめて軽めの調整だったのに対し、今回は速い動きこそなかったものの素軽い動きを見せた。

 さらに、前回は馬場に入った時点から激しく発汗しており、調教の軽さと相まって、筆者を含めて本番を不安視する見方もあったが、それでも圧巻のパフォーマンスでレースを制したことで、この馬の潜在能力と陣営の調整技術が改めて高く評価されるに至った。今回は調教を終える頃に若干の発汗を見せる程度で、その点からも状態の良さがうかがえる。26日朝には芝コースで軽めのキャンターを行ない、ここでも軽快な動きを見せ、当地への2回目の遠征ということでの精神的な余裕も垣間見ることができた。

 あえて不安要素を挙げるとすれば2つ。まず、久しぶりの実戦という面。だがこれは、昨年のマイルチャンピオンシップも安田記念から5ヶ月半ぶりのぶっつけだったことを考えれば、さして大きなマイナス要素とは考えにくい。むしろモーリスの場合は間隔をとったほうがいいタイプで、約5ヶ月ぶりの今回はむしろフレッシュな状態で臨めると前向きに捉えてもいいほど。

 もうひとつは、先週の日本勢3頭も苦しんだ、雨を含んだシャティン競馬場の芝のコンディションだ。この中間も、香港は毎日ように1日1回はまとまった雨が降っている。シャティン競馬場の芝コースの水はけは非常に優れている一方で、先週の日本勢の関係者も押しなべて重い馬場を敗因に挙げたように、もうひとつ別の適性が求められる馬場になっている。モーリス自身は昨年3月のスピカステークス(中山、芝1800m)でやや重を経験しているが、どこまで適応できるかは未知数だ。それだけに天候は大きなカギとなりそうだ。

 馬場が水を含んだ場合に、地元のアドバンテージは大きい。「香港勢の中で勝つチャンスがあるとすればこの馬」と地元の記者が揃って名前を挙げるのが、香港マイルでモーリスに食い下がったジャイアントトレジャー(せん5歳、R.ギブソン厩舎)である。

 昨年の今頃は、クラス2(日本の準オープンに相当)を勝った程度だったが、じわじわと実力をつけると、昨年の香港マイルで地元馬最先着の2着に好走。年が明けて、1月に出走したGIスチュワーズカップ(シャティン・芝1600m)で初重賞勝利を飾り、前走がフロックでないことを示した。続く2月のGI香港ゴールドカップ(シャティン・芝2000m)は距離が合わず9着に敗れたが、再びマイル路線に矛先を向け、今回に向けて調整が続けられた。

 このチャンピオンズマイルに出走する香港調教馬のうち、コンテトンメント(せん5歳、J.サイズ厩舎)、ビューティーオンリー(せん5歳、A.クルーズ厩舎)、ダンドネル(せん6歳、C.ファウンズ厩舎)の3頭が安田記念にも予備登録を行なっている。そのうち最もレーティングが高いコンテントメントは、昨年の香港マイルではモーリスから2馬身3/4の5着。その後、3月にはGIクイーンズシルバージュビリーカップ(シャティン・芝1400m)で初GIタイトルを手にした。これまでに17戦して6着以下がない安定感が持ち味だ。

 海外勢はモーリスのほかにゴドルフィンのボウクリーク(牡5歳、J.オシェア厩舎)とセーフティチェック(牡5歳、C.アップルビー厩舎)がスタンバイ。前者は3歳時にイギリス、アイルランドでGIIを連勝。4歳秋にオーストラリアに移籍後もGIIのピーターヤングSを勝利した。海外勢の中では最も早く香港入りし、順調に調整が進められている。

 昨年、大ブレイクを果たしたスクリーンヒーローの産駒たち。筆頭格のモーリスが香港で出走し、日本では同じ日に天皇賞・春に有馬記念馬ゴールドアクターが挑む。海をまたいで相次いでヒーローの凱歌が沸き上がるか。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu