いま目が離せない、若手実力派俳優――窪田正孝の持つ不思議な引力
中性的で繊細な目鼻立ちがクシャッと崩れて笑顔になった途端、やんちゃな子どものような表情に変わる。柔らかな雰囲気と肉体派な中身。窪田正孝のギャップを発見するごとに、僕らはどうしようもなく惹かれてしまう。そして、どんな役柄にでも変身してしまう演技力――これまで演じてきた役柄は実に幅広いが、どんなキャラクターにもリアルに命を吹き込み、観る者の目を釘付けにしてきた。その仕事ぶりは、映画『ヒーローマニア-生活-』で演じた“ニートで下着ドロボウ”という、とんでもなく情けない役でも変わらない。

撮影/平岩 亨 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.
スタイリング/大石裕介(DerGLANZ) ヘアメイク/糟谷美紀

スマホも靴も…身の回りのものは全部「黒」





――『ヒーローマニア』で演じた土志田(としだ)はニートで下着ドロボウというかなり情けない設定で、ちょっとしたコミュニケーションをとるのも苦手なキャラクター。人と話すときに目が泳いでたり、仕草のひとつひとつがすごくリアルでした。

自分も人見知りなので、土志田の気持ちは分かりますね。仕事では大丈夫なんですけど、たとえば街中で知り合いとすれ違うと、下を向いちゃうとか、別のルートを行くとか(笑)。何をしゃべっていいのかわからないんです。相手のプライベートの時間を邪魔しても悪いですし…。

――ということは、土志田には窪田さんご自身の性格もけっこう反映されてる?

土志田はキョドりすぎですけど(笑)。でも、本当に仲のいい友達でないと普通にしゃべれないというところは自分にもあります。



――窪田さんは、土志田をどんな男だととらえていますか?

今回の作品は、軸になるはずの主人公・中津(東出昌大)に軸がないというか、ぶれぶれなんです。だから、中津と土志田がふたりでこのストーリーの軸になってるところがあるんです。でもふたりがどこか混じり合ってないというか。そんなイメージでやらせていただきました。土志田はコミュニケーション障害気味なところもあって、一生懸命しゃべってるんですけど、どんどんずれていったりする。そこは大事にしたいなと思っていました。

――土志田は“格闘”マニアですが、窪田さんご自身がマニアックだと思うところは?

僕は“黒”マニアですね。スマホとか色々な色があるのに、黒を選んでしまいます。何でも、黒が落ち着きます。選択肢があっても攻めるカラーにいけないというか。靴とか、赤い部分があってそこが気に入らないと、油性ペンで黒く塗っちゃったり(笑)。ただ、仕事で内面的にキャラクターのカラーをまとわなきゃいけないときもあるので、そういうときは極力透明でいて、そこから染めていく作業をします。



――いろんな作品でキレのあるアクションを披露されていますが、今作でも冒頭のアクションシーンから引き込まれます。日頃からトレーニングはされているのですか?

いえ、(インタビューに同席していた本作アクションコレオグラファーの)森崎(えいじ)さんは僕にアクションのすべてをたたき込んでくださった方で、作品でご一緒するとストイックに指導してくださるんです。土志田のアクションに関しては、今回初めてワイヤーアクションをやったのですが、そういうところにも土志田カラーを作ってくださった。森崎さんは間違いなくアクションマニアだと思います(笑)。

――とはいえ、指示を受けてできるかどうかは、やっぱり窪田さんの身体能力にかかってくると思うのですが…。

教え方が上手いんです!間違いなく。「すごいな」と思うと、すごく見ちゃうんですね。何に関しても。字がキレイだな、とか。たまに、そういう方が紙を斜めにしながら書いてる方がいまして、そうすることでキレイな字が生まれるとか、そういうのを見るのがすごく好きで。



――森崎さんのアクションも「つい見ちゃう」アクションだったんですね。

森崎さんが所属されているスタントチームゴクゥにはずっとお世話になってるんですけど、「盗みたいな」と思わせてくれるアクションをやってくれるんです。ささいなことなんですけど、殴ってないほうの手の位置とか、かわし方とか、目の位置とか、動作ひとつひとつがすごくカッコよくて。そうした動きをずっと見ながらやらせてもらっていました。

――土志田のアクションで大変だった部分は?

土志田は窮地に立たない限り無機質なタイプなので、現場は暑かったのですが、精神的に追い詰められるまでは極力、汗とか出ないように頑張っていました。必死さを出さないところが彼にとっての標準というか。人より身体能力の水準が高いので「普通にやってる」ように見えることを意識しました。

超えたくても敵わない、ひとつ年上の兄の背中





――本作は、ちょっと情けないヒーローたちのお話ですが、ヒーローに憧れていた思い出はありますか?

やっぱり「仮面ライダー」や「ドラゴンボール」の孫悟空とかはヒーローでしたね。

――いまの窪田さんにとって尊敬する人は?

ひとつ年上の兄です。年子なんですけど、兄弟のような、友達のような感じで育ってきて、ずっと背中を見てきました。一緒に野球も始めたんですけど、すごく身体能力が高くて。いまはもう結婚して子どももいて、どんどんお父さんの顔になっていくんです。昔はとんがっている部分もありましたが、丸みを帯びてきて、許容範囲も広がって。やっぱり、いまも遠いなって思います。

――いまでもお兄さんみたいになりたいなって思いますか?

思いますね。なりたいっていうよりも、超えたいですね。兄弟だとやっぱり、弟の願望として兄を超えたいというのはあったりするんですけど、兄は兄で弟には負けられないプライドもあると思います。それはずっと、子どものころから変わってないんです。兄が1年先に小学校から中学校に行って学ランを着てる姿を見てカッコいいなと思ったり、でも1年先に生まれただけで「何が偉いんだろう」とか思ったり(笑)。その1年の差ってすごく大きくて、いまでもやっぱ敵わないなって思います。



――また、本作では「人は変わるか?変わらないのか?」という話題が出てきますが、窪田さん自身、この仕事を始めてから変わったと思います?

もともと人と関わらない仕事をしたかったんです。人と極力しゃべらない仕事を…と思って。車やバイクが好きだったので、整備士になりたいとずっとガソリンスタンドでバイトしていて。車を洗ったりする時間が、なによりも幸せでした。没頭できることや、夢中になれることがあるのはすごく幸せなことですよね。

――そんな窪田さんが芸能界に入られて…

いまの事務所に入って、もう10年くらいやらせてもらっていますが、そこでやってきたことは、自分が求めていたのと真逆のものでした。1クール=3ヶ月ごとに新しい現場に入って、はじめましての方がたくさんいて。でも、そうやっていくことですごく変えてもらえたなと思います。ひとりで没頭するより、みんなで没頭できるほうが楽しい。モノがゼロから作られていくのがすごく好きなので、視野を広げてもらえたなと感じるところはありますね。

――俳優というお仕事の中にも、没頭できる部分を見つけたんですね。

いい意味でゆだねられるというか。もちろん、こちらからも出しますが、キャラを作ってもらえるというか。そういうふうに補い合って、ひとつの作品ができていくことの楽しさを知ることができたので、いまは芝居って楽しいなと思います。でも答えを求めれば求めるほど逃げていくし、底知れないところがあって、見えないものを探していく作業に没頭できることに幸せを感じています。