ここにきて貴重な得点を連発しているビダル。ベンフィカとのCL準々決勝では2試合連続ゴールをマークした。(C)Getty Images

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 ビッグゲームが目白押しだったこの4月で、“主役”を演じたのがアルトゥーロ・ビダルだ。昨年7月にユベントスから移籍してきたチリ代表MFは、ここにきて急激に調子を上げている。

 加入当初は疲労を引きずっている印象だった。無理もないだろう。昨シーズンはチャンピオンズ・リーグ決勝まで戦い抜き、その後はほとんど休む間もないまま母国チリで開催されたコパ・アメリカに参戦したのだから。

 そして、自らを「戦士」と呼ぶファイターは今、完璧な状態にある。ベンフィカとのCL準々決勝の第1レグ、ビダルはこの試合唯一のゴールを挙げて1-0の勝利に導き、2-2で引き分けた第2レグでも1点ビハインドの38分に貴重な同点ゴールをマーク。続くブンデスリーガ30節のシャルケ戦では勝利を決定付ける3点目を奪ってみせた。78分に交代を告げられたとき、アリアンツ・アレーナの観衆はスタンディングオベーションで彼の活躍を称えた。

 ビダルがこれだけサポーターの心を掴めたのは、プレーとメンタルの両面でチームを助けているからだ。勝利への強い意志を持ち、常に全力でプレー。ピッチではほとんどボールを失わず、1対1の競り合いをまったく嫌がらない。

 どんなときもアグレッシブに振る舞い、チームにエネルギーを注入する。かつてのシュテファン・エッフェンベルク、マルク・ファン・ボンメル、バスティアン・シュバインシュタイガーのような「真のリーダー」。そう評して良いだろう。

 対戦相手からすれば、これほど厄介な選手はいないだろう。守備ではハードなマークで敵の自由を奪い、攻撃では意表を突く飛び出しから冷静なフィニッシュでゴールを陥れる。つまり、攻守のあらゆる局面でチームに貢献できるのだ。

 闘争本能を剥き出しにするそのプレースタイルは、独特の髪型からも感じとれる。彼のモヒカンヘアーはインディアンの戦士の髪型として生まれたものだという。泥臭くボールを追い回し、敵を削ることも厭わない。インディアンさながらにピッチを暴れ回っているのだ。
 バイエルンでは主にアンカーでプレー。昨シーズンまで絶対的なレギュラーだったシャビ・アロンソから定位置を奪ってみせた。本人も充実ぶりを肌で感じているようだ。

「今がシーズンで最高のときだ。目標の3冠を達成するために、毎日ハードワークしているよ」

 なかでも最大の目標が、ビッグイヤーの獲得だ。昨シーズンのCL決勝では惜しくもバルセロナに敗れた。目前で欧州制覇を逃したその悔しさが、彼の闘争心を駆り立てている。

 ただし、旺盛なその闘争心がマイナスに作用することもある。ブンデスリーガ29節のシュツットガルト戦ではイエローカードを食らい、その後も危険なファウルを繰り返したため、わずか27分で交代を命じられた。

 3-0で勝利したシャルケ戦の後、ジョゼップ・グアルディオラ監督からは「少し控えめにしたほうがいい」と忠告を受けた。そして、スペイン人指揮官はメディアに対しても冗談まじりにこう釘を刺した。「アルトゥーロをあまり褒め過ぎないように」と。

文:パトリック・シュトラッサー(アーベントツァイトゥング紙)
翻訳:円賀貴子

【著者プロフィール】
Patrick STRASSER(パトリック・シュトラッサー)/1975年ミュンヘン生まれ。10歳の時からバイエルンのホームゲームに通っていた筋金入りで、1998年に『アーベントツァイトゥング』紙の記者になり、2003年からバイエルンの番記者を務める。2010年に上梓した『ヘーネス、ここにあり!』、2012年の『まるで違う人間のように』(シャルケの元マネジャー、ルディ・アッサウアーの自伝)がともにベストセラーに。