妊婦を演じた前田敦子

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 女優・前田敦子が、松田龍平と夫婦役で共演した沖田修一監督の最新作「モヒカン故郷に帰る」で少し世間知らずだが憎めないキャラクターの妊婦・由佳を瑞々しい感性で演じている。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

 本編冒頭、ライブを終えて深夜に帰宅した主人公の田村永吉(松田)が眉間に皺を寄せて眠る恋人の由佳を見て、込み上げてくる笑いを抑えようともせずに見入るシーンがある。永吉のみならず、見る者の凝り固まった筋肉を弛緩させるようなナチュラルな振る舞いだが、そこには沖田監督のこだわりが隠されていたと前田は話す。「監督の奥様がそうだったらしいんですよ。奥様の妊娠中の様子がすごく興味深かったみたいで、観察されていたんでしょうね。その時のことをリアルに、こと細かに教えてくれました。由佳には、それがスパイスとして入っているんですよ。演じていて、もう楽しくてしょうがなかったです」。

 そう朗らかに笑う前田は、筆者が取材で訪れた下蒲刈島の撮影現場でも笑顔を絶やすことはなかった。ウエディングドレスに身を包んだままの状態で昼食をともにしたが、「監督は私から出てくるものをそのまま受け取ってくださるんです! 『台本を気にしないでください。あるようで、ないものですから』ともおっしゃってくれました」と満面の笑みを浮かべる姿に、周囲のスタッフも安堵の表情を隠しきれない様子だった。

 映画は、瀬戸内海にたたずむ島を舞台に、由佳の妊娠を報告するため数年ぶりに帰郷した売れないバンドマンの永吉と昔かたぎの頑固おやじ・治をめぐるハートフルコメディ。今作で妊婦役にも初挑戦したわけだが、「この役に限っては、妊婦さんがどういうものなんだろうというのを知る必要がないのかなって気がしたんです。すごく前向きな女の子なので、あえて妊婦さんってどうなんだろう? という先入観は作らず、あまり探さないようにしていました」と振り返る。だが、「撮影を終えてからは、街中で妊婦さんに目がいっちゃうようになりましたね。当たり前ですけど、人によって全然違う。お腹が大きくて『ふう…』と一息つきながら歩いている方もいるにはいるのですが、普通に歩いている方のほうが多くてビックリしました」と明かす。

 前田が息吹を注いだ由佳は、料理が不得意で奔放な性格ということもあり、当初は永吉の家族たちを戸惑わせるが、次第に心を通わせて島の人とも仲良くなっていく。永吉の母・春子に扮したもたいまさこは、前田を「本当にかわいくて仕方がない。彼女のようなお嫁さんはとっても楽しいと思う」と絶賛するが、一方の前田も現場では“まさこ様”と呼び続けるなど、すっかり“嫁姑”の関係を堪能した様子だ。「もたいさんと嫁姑という立ち位置でお芝居をさせていただいて、『私もこういう感じだったら幸せだろうなあ〜』って思いながら疑似体験を楽しませてもらっちゃいました。あんな嫁姑の関係、素敵だし最高じゃないですか。なんてかわいいんだろうって羨ましくなっちゃいますね」。

 今年は今作封切り後、ドラマ出演が続く。WOWOWの「グーグーだって猫である2 good good the fortune cat」(犬童一心監督)に続き、TBSの深夜ドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」には主演し、超恋愛体質の政治記者という役どころに体当たりで挑み新境地を開拓する。「全く違う役をやれることが楽しみで、新しい挑戦ができるなあって感じています。あとは、これからもお仕事の面でいい出会いがあるんじゃないかっていう期待もしているんです。今はすごくいい感じでマイペースな私がいて、色々なことが安定してきたんでしょうね、自分のなかで」

 女優という仕事をこよなく愛する前田は、マイペースにと言いながらも演じることにどこまでも真摯な眼差しを注ぐ。7月に誕生日を迎えても、まだ25歳。淡々としているようでいて、貪欲に吸収を続ける姿は頼もしさすら感じる。本格的に女優として活動するようになってから3度目の春を迎えた前田が、どのような監督陣と現場をともにしていくのか興味は尽きない。