クラシックの季節がやってきた。

 口火を切るのは、4月10日のGI桜花賞(阪神・芝1600m)だ。3歳牝馬によるこの一戦は、「牝馬三冠(桜花賞、オークス、秋華賞)」の一冠目という位置付けになる。

 今年の3歳牝馬で「主役」となるのは、メジャーエンブレム(父ダイワメジャー)だ。昨年のGI阪神ジュベナイルフィリーズ(2015年12月13日/阪神・芝1600m)を制した"2歳女王"は、続くGIIIクイーンカップ(2月13日/東京・芝1600m)でも、5馬身差の圧勝。同世代で、頭ひとつ抜けた存在となっている。

 その対抗馬として浮上するのが、前哨戦となるGIIIチューリップ賞(3月5日/阪神・芝1600m)を勝ったシンハライト(父ディープインパクト)だろう。同馬は、デビューから無傷の3連勝でクラシックに向かう逸材。そのキャリアは、絶対能力がなければできない芸当だ。

 しかしそれ以外にも、タイトルを狙えるポテンシャルの持ち主はいる。ジュエラー(父ヴィクトワールピサ)である。

 昨年11月の2歳新馬(2015年11月29日/京都・芝1800m)でデビューした彼女は、出遅れ気味のスタートから楽勝。素晴らしいパフォーマンスを見せた。

 そして2戦目では、いきなり牡馬相手のGIIIシンザン記念(1月10日/京都・芝1600m)に挑戦。こちらもスタートで出遅れてしまったが、直線では絶望的な位置から猛然と追い込んで2着。「出遅れさえなければ......」という強さを見せた。

 3戦目に選んだのは、チューリップ賞。ここではまずまずのスタートを切って、直線はシンハライトとの一騎打ちとなった。ぴったりと馬体を併せてゴールしたが、首の上げ下げのタイミングで"ハナ差"だけ敗れた。

 3戦1勝というキャリアは、メジャーエンブレムやシンハライトに比べると見劣ってしまう。しかし、負けた2戦のレース内容を振り返れば、戦績ほどの差はないはず。クラシックの夢を見るには、十分な実力の持ち主と言えるだろう。

 ジュエラーが生まれ育ったのは、北海道の社台ファーム。同馬に関わった人たちは、小さい頃からその素質を感じてきたという。社台ファーム事務局の青田力也氏に話を聞いた。

「馬体はアカ抜けていましたし、動きもよかったので『この子は活躍してくれるんじゃないかな』という印象を抱きました。当時、この馬に騎乗していたスタッフは、『乗ったときの背中の感触がとにかくよくて、いい馬だと感じた。それが強く印象に残っている』と話していました。いつも元気で、期待は大きかったですね」

 牝馬というと、体が小さかったり、気性が繊細だったりすることが多々ある。だが、この馬に関しては、「ジュエラーがいた厩舎スタッフによれば、性格はよく、食欲も旺盛。困らせることがなかったそうです」と青田氏。体質的にも丈夫で、とにかく手がかからなかったという。

 スタッフも認める優等生。実はその姉たちも、桜花賞を経験している。2006年生まれの姉ワンカラット(父ファルブラヴ)は、2009年の桜花賞に出て4着と健闘。同馬はその後、スプリント戦線で活躍し、重賞4勝の実績を残した。また、2009年生まれの姉サンシャイン(父ハーツクライ)も、2012年の桜花賞に出走(10着)。牝馬三冠レースすべてに参戦した。

 この姉妹としては、今回の桜花賞が3度目の挑戦となる。姉たちとの比較について、青田氏はこう語る。

「ワンカラットは最初からしっかりした体の持ち主でしたが、ジュエラーはさらにしっかりしていて、小さい頃から雄大に見えましたね。パッと見たときのシルエットや、パーツごとでは似ているところもあるのですが、基本的には姉たちと違う体つきでした」

 ワンカラットは、牝馬としては珍しく大きな馬だった。それでもデビュー当時は470〜480kgほどで、すでに500kg前後あるジュエラーは、姉をしのぐほどの雄大さがあるという。それが、レースでのパワフルな走りを担っているのかもしれない。

 また、ワンカラットは1400m以下で勝ち星をつかんだ短距離型だったが、ジュエラーについては、「1600mはもちろん、距離の融通は利くだろう」と、青田氏は考えていた。距離適性で言えば、2000mでも実績がある姉サンシャインに近いと感じたようだ。だからこそ、デビュー戦で1800m戦を快勝したときも驚きはなかったという。

 2頭の姉とは違った一面をもたらしているのが、父ヴィクトワールピサの存在だ。皐月賞、有馬記念を制し、日本馬初の世界王者(2011年ドバイワールドカップ優勝)にも輝いたヴィクトワールピサは、この世代から産駒がデビューした新種牡馬である。青田氏は、その父の影響をジュエラーのこんな部分に見出している。

「体の雄大さや穏やかな気性は、父のいいところを引き継いでいるのでしょうね。ヴィクトワールピサ産駒はそういった馬が多いですから。ジュエラーの母であるバルドウィナは、きっと父親の色をきちんと出してくれるのだと思います」

 種牡馬デビューしたばかりのヴィクトワールピサにとっては、ジュエラーの活躍が大きな"実績"となる。大舞台で「父の血の良さ」を示すことができれば、質の高い繁殖牝馬との配合が増え、種牡馬としての今後も明るくなるに違いない。青田氏も、「ジュエラーが勲章を手に入れることができれば、父の人気も高まるはず」と話す。

 ライバルたちの壁は厚いが、それでも、ジュエラーの逆転は十分に考えられる。前走のチューリップ賞でも、馬群の狭いところから抜けてくるなど、底力を見せつけた。大舞台での白星奪取を望める位置にいる。

「ジュエラーをはじめ、(社台ファームから)何頭かの馬を桜花賞に送り込むことができました。その馬たちが勝ってくれれば、僕たちの励みにもなります。みんなが育てた生産馬の1頭として、ジュエラーもクラシックでがんばってほしいですね」(青田氏)

 チューリップ賞で敗れたシンハライトにリベンジを果たすこと。そして、2歳女王のメジャーエンブレムを打ち破ること。それが、タイトルを獲得するうえでの絶対条件となる。

 牧場時代から将来を嘱望されてきた"原石"の晴れ舞台。桜の季節に最高の輝きを放つことができるのか、期待が膨らむ。

河合力●文 text by Kawai Chikara