交通事故に遭った時のNG行動、OK行動

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執筆:大泉 稔(ファイナンシャルプランナー)


自ら好んで事故を起こす人はいないはずです。
しかし、「起こるはずがない」と思い込んでいると、いざ事故を起こした際に動揺して身動きがとれなくなってしまう可能性があります。

ここでは、運悪く交通事故に遭った時、私たちはまず何をするべきなのかを考えてみましょう。

NG事項:事故現場から立ち去る


事故を起こしてしまった加害者、事故に遭った被害者、どちらの立場に立っても、事故現場から勝手に立ち去るのはNGです。後々、不利になる場合があります。例として、こんな場合を考えてみましょう。
日曜日の午前10時頃。
あなたは自動車を運転しています。

十字路交差点に差しかかり、青信号なのを確認し、右折のウィンカーを上げて右折を開始しました。その瞬間、横断歩道を渡ろうとしていた歩行者をはねてしまいました。歩行者用の信号も青で、歩行者は直進しようとしていたところでした。
あなたは自動車を路肩に寄せ、被害者に駆け寄って声をかけます。

「大丈夫ですか? 今、救急車を呼びますから」
被害者は苦しそうな声で答えました。

「いいえ、救急車は結構です。その代わり、あなたの車で私を国際会議場まで連れて行ってもらえないか」

なんでもそこで大事な発表を抱えているそうです。
事故現場から会議場までは、車で片道1時間ほどの距離。

さあ、こんな時、あなたならどうしますか?

(1)被害者の言う通りに、被害者を自動車に乗せて国際会議場に向かう

(2)被害者の意向を無視し、救急車を手配し、警察にも連絡する

(3)面倒臭そうなので、被害者を残して自分だけ現場から立ち去る

被害者の意向でも「ひき逃げ」に該当


まさか(3)を選ぶ人はいないと思います。
実はこの例は、私が実際に見聞した事故です。
その際、自動車の運転者は(1)を選択しました。

運転者は被害者を後部座席に寝かせ、事故現場から一路、会議場へ。
被害者は国際会議場で「大切な発表」を済ませてから、2人は再び、運転者の車で事故現場に戻りました。被害者は、国際会議場に向かう途中は意識があったようですが、国際会議場から事故現場に戻る途中は熱にうなされていたようでした。

現場に戻ったのは15時過ぎです。ここにきて運転者は、ようやく110番に電話しました。事故現場に駆けつけた警察官は、事の次第を聞いて、運転者に向けてひと言いいました。
「あなたはひき逃げです」

被害者の意向で国際会議場まで行き、その後も被害者とともに事故現場に戻り、自ら警察にも通報したのに、「ひき逃げ」と言われたことに驚いた人もいるかもしれません。
しかし、運転免許を持っている人は、教習所で学んだことを思い出してみましょう。

交通事故の加害者には「警察への通報」「現場保存」「被害者救済」などの義務があります。この事例では、被害者と共に事故現場を立ち去っているので「現場保存」と「被害者救済」の義務を怠ったことになるのです。

被害者とともに事故現場から立ち去れば、事故直後の状況が変わってしまうため、「事故を隠ぺいした」と判断されてしまうのです。

また、この事例の被害者は事故直後は捻挫で済んでいたのですが、すぐに病院に行かなかったために、3か所の不全骨折(骨にヒビが入った状態)になってしまいました。
つまり、被害者の損害を拡大してしまったわけです。

セオリー通りの行動がベストなのか?


もし、運転者がセオリー通りの行動、つまり前述のクイズで言えば(2)を選択していたならば、少なくとも、「事故現場を隠ぺいした」という疑いはなく、被害者のケガも捻挫で済んだかもしれません。

一方で、被害者は「国際会議場で大切な発表がある」と言っています。
もし、運転者がセオリー通りの行動をとり、被害者が「大切な発表」ができなかったとしたら。今度は、「大切な発表ができないこと」に対する損害賠償請求をされる可能性があり、示談交渉が困難になったかもしれないのです。

このケースでは、運転者がセオリー通りの行動をしなかったことで、示談交渉はスムーズに運びました。

それと引き換えに、法的に課せられた処分は、数十日間の免許停止と数十万円の罰金刑という、大きなものでした。この場合、運転者はどうするのが正しかったでしょうか?

事故を起こした時の対応まとめ


交通事故が起き、ケガをしている、あるいはその可能性があるならば、その場からスマホなどで救急車を手配しましょう。
事故から時間が経てば経つほど症状が悪化したり、残るはずのない後遺障害が残ったりするかもしれません。

骨が皮膚を突き破る開放性の骨折の場合は時間が経つほど感染症のリスクが高まります。また、頭を打っていれば、脳内で出血が広がってしまう恐れがあります。

この事例のような被害者も中にはいるかも知れませんが、極めてレアケースと言えるでしょう。やはり、事故を起こしたら(事故に遭ったら)、セオリー通りに行動するのが一番です。

<執筆者プロフィール>
●大泉 稔(おおいずみ・みのる)
ファイナンシャルプランナー。株式会社fpANSWER代表取締役、大泉稔1級FP技能士事務所主宰。1級FP技能士、生命保険大学課程、1種証券外務員。現在、「大人のための生命保険相談室」や「FP試験対策個別指導塾」、「交通事故被害者のための相談室」を展開中
http://cfpm.biz/   http://fp-answer.com/