牝馬クラシック第1弾の桜花賞(4月10日/阪神・芝1600m)がまもなく開催される。注目は、2歳女王のメジャーエンブレム(牝3歳)である。今回は「1強」とも言われ、断然の人気になることは間違いない。はたして同馬は、前評判どおりの強さを見せることができるのか。鞍上を務めるクリストフ・ルメール騎手を直撃し、クラシック制覇への手応えを聞いた――。

―― 4月3日終了時点で早くも53勝を挙げて、弥生賞など重賞もすでに3勝。リーディングトップを快走し、今年は絶好調ですね。

「(JRAの騎手免許を取得した)昨年は、自らの不注意でいきなり騎乗停止。実は、その前年の暮れに落馬事故があったりして、それからよくないことが続いていて、なかなか波に乗れなかったですね。それが今年は、そういうことがまったくなくて、競馬に集中できています。精神的に余裕があるし、体調もとてもいいです。フランス時代を含めて、コンディンション的にも、競馬の成績的にも、たぶん今が、僕にとってのベストの状態だと思います」

―― 「乗れている騎手にいい馬が集まる」というのは、競馬界の鉄則。その言葉どおり、もうすぐ始まる3歳春のクラシックでは、牡牝ともにルメール騎手の騎乗予定馬が断然の主役です。桜花賞、皐月賞、オークス、ダービーと、春のクラシック「完全制覇」を期待する声まで上がっていますが、まずは牝馬クラシックの話を聞かせてください。お手馬のメジャーエンブレム(牝3歳)は、ここまで5戦4勝。GI阪神ジュベナイルフィリーズ(2015年12月13日/阪神・芝1600m)を含めて重賞2勝です。特にここ2走は「強い」というか「強過ぎる」という感じさえしますが、ルメール騎手の手応えはいかがですか。

「阪神JFは、他馬を寄せつけない、本当に強い勝ち方でしたからね。あのレースを見たとおりで、僕もこの馬の強さには自信を持っています」

―― 阪神JFに加えて、前走のクイーンC(2月13日/東京・芝1600m)の勝ちっぷりにも驚かされました。スタートしてすぐにトップスピードに乗ると、残り1400m時点からゴールまでずっと、10秒台、11秒台という速いラップを刻んでいました。あれでは、他の馬に「追いつけ」というのが無理な話。結果、5馬身差の圧勝で、時計も1分32秒5と優秀でした。実際に騎乗していての印象を教えてください。

「スタートしてからゴールするまで、楽に前に行けて、その楽に行けている状態をずっとキープできていました。だから、実際に乗っていても、そこまで自分がすごいスピードで走っている感覚はなかったんですよ。ゴール近くになって後ろを振り返ってみると、他の馬がみんなアップアップしていたから、そこでやっと、これはすごいスピードで走ってきたんじゃないか、と気づいた感じでした。馬が走り方を知っているから、僕が彼女をコントロールする必要なんて、ほとんどありません。僕はただ、(メジャーエンブレムの)邪魔をしないように乗っているだけですよ(笑)」

―― メジャーエンブレムの一番の長所は、やはりそのスピード能力、ということでしょうか。

「3歳春の段階で、ここまでトップスピードをキープして走れる馬は珍しいと思います。ただそれは、そういうことを可能にするぐらい馬体がしっかりしているからで、父親(ダイワメジャー)譲りのパワフルできれいな馬体も彼女の長所です。加えて、気持ちの面でもクレバーで、タフ。2歳の頃から、パドックを周回するときは、いつも『私がボスよ』って感じで、周りを見下していましたからね。つまり、すべての面において、現段階での完成度が高い、ということです」

―― デビュー当時から、これほどの馬になると思っていましたか。

「東京のデビュー戦(芝1800m)を勝ったとき、ゴールしたあとも、まだ走り足りないという感じで、止まろうとしなかったですからね。あのとき、『この馬は強い。絶対にGI級の馬になる』と思いました」

―― そんなに強いメジャーエンブレムが、3戦目のアルテミスS(2015年10月31日/東京・芝1600m)で2着に敗れてしまいました。あのときの敗因は、何だったのでしょうか。

「アイ・ドント・ノー、わからないね(笑)。ただ、その前の2走は楽勝で、自分のリズムで気ままに走ったら、難なく勝っちゃったというところがあったんだけど、アルテミスSではペースが遅くて、勝った馬(デンコウアンジュ/牝3歳)はずっと後ろのほうで脚をためていました。それでその馬が、ゴール手前で外から一気に来た。ああいう競馬は経験していませんからね、きっと彼女もびっくりしたんじゃないかな、と思います。結果、対応できなくて、その分、負けたんじゃないかと。

 ともあれ、あのレースはグッド・エクスペリエンスでしたね。競馬では、負かされることによって覚えることもありますから。あの負けは、いい勉強でした。馬にとっても、それ以上に僕にとってもね」

―― 前に行ってゴール前で突き放すというレースぶりから、メジャーエンブレムは叔母(父の妹)のダイワスカーレットに似ているという声もあります。ルメール騎手は、どう思いますか。

「僕も同感です。レースぶりだけでなく、走り方がすごく似ていると思うし、長くいい脚を使えるところや、延々と戦う気持ちが切れないところもよく似ています。それでも、3歳春の時点での比較では、メジャーエンブレムのほうが大人だし、完成度も高いのではないかと思っています」

―― 桜花賞に向けて、何か課題とか、メジャーエンブレムに対する注文などはありますか。

「何もないです」

―― では、自信満々で桜花賞を迎えられるということですね。

「オフ・コース! メジャーエンブレムみたいな強い馬に乗るのに『自信がない』なんて言ったら、他のすべての馬に乗っても自信がない、ということになってしまいますよ(笑)。トライアル戦を勝ち上がってきた馬たちと比べても、彼女のほうが能力は上。世代トップだという自信があります」

―― ライバルとなるのは、前哨戦のチューリップ賞(3月5日/阪神・芝1600m)で上位を争った、1着シンハライト(牝3歳)、2着ジュエラー(牝3歳)といったところでしょうか。

「馬のタイプが違うし、(2頭とも)一緒に戦ったことがないから比較するのは難しいけど、あの2頭は確かにライバルになりそうです。特に、イケゾエさんの馬ね(池添謙一騎手騎乗のシンハライト)」

―― オークス(5月22日/東京・芝2400m)についてはいかがでしょうか。血統面やレースぶりから見て、距離が2400mに延びるのは、少なくともプラスになるとは思えませんが......。

「正直なところ、何とも言えませんね。ペースとか、展開とか、いろいろな要素が噛み合って彼女の走りができれば、距離は問題ないと思いますが、おっしゃるとおり、距離が延びていい、というタイプではないかもしれませんね」

―― ルメール騎手は、2005年にフランスで、ディヴァインプロポーションズという馬で、日本の桜花賞にあたる仏1000ギニーと、仏オークスの二冠を達成しました。あのときも、1000ギニーで圧勝しながら、オークスでは距離不安が囁かれていたと聞いています。

「ディヴァインプロポーションズは、現役時代の戦績が10戦9勝。負けた10戦目にしても、レース中のケガによるものでした。とにかく、すごく強い馬でしたよ。だから、3歳春の時点ではライバルなんていなかったし、オークスでも距離なんて関係なく、彼女が勝つしかなかった。そういうレースでした。とはいえ、体つきやレースぶり、それにメンタル面など、すべてにおいて本質はマイラーだったと思います。

 メジャーエンブレムもそのタイプです。でも、本質はマイラーであっても、能力で圧倒すれば、2400mのレースでも勝てるんです。その意味では、オークスも楽しみですね」

―― ともあれ、まずは桜花賞。勝利を信じていいでしょうか?

「ダイジョウブ! トラスト・ミー(笑)」

新山藍朗●構成 text by Niiyama Airo