相続税がかからない不動産の名義変更の手続きに期限がないからといって放置しておくと、後々大変なことになる可能性が大、ってご存知でしたか? 現役行政書士の山田和美さんが配信する無料メルマガ『こころをつなぐ、相続のハナシ』では、手続きを怠るとどのような悲劇に見舞われるかが詳しく記されています。

相続税がかからないなら、相続手続きは放置しても良い?

「相続の手続きに期限はありますか?」

こう聞かれたとき、答えはいくつか存在します。それは、「相続手続き」全体に期限があるわけではなく、手続きの中に「期限があるもの」が存在するためです。

例えば、プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い際に検討する、「相続放棄」。この期限は3か月です。いつもの確定申告の、相続時バージョンである「準確定申告」は4か月以内。相続税申告は、10か月以内です。

その他の、例えば銀行口座の解約や、不動産の名義変更等は、特段、期限があるものではありません。

相続税申告が必要な方は、税理士等の専門家に相談されていることも多く、また申告自体に期限もあるため、話し合いがまとまらない、等の場合を除き、名義変更など、期限のない手続きも、おおむね1年以内には済ませていることが多いように思います。

一方で、相続税申告もない、その他期限のある手続きもない、という方は、あまり急いではいません(ちなみに、相続税申告が必要な相続は、相続全体のおおよそ6%程度にすぎません)。

ただ、そうはいっても、銀行口座は、銀行側が相続が起きたことを知った時点で凍結されてしまい、手続きをしなければお金をおろすことができないので、比較的早めに手続きする方が多いです。書類を集めるのは大変ですが、でもお金をおろせないほうが困りますので、手続きされるんですね。

しかし一方で、不動産となると、ちょっと事情が変わります。例えば自宅の土地建物であれば、いま誰かに貸してるわけでもない。売るわけでもない。「同居していた長男Aがその不動産をもらう」というのは、相続人全員納得している。そうなると、預金と違って、急ぐ理由もないように思えます。

そして手続きも自分で行うのは大変そうだ、かと言ってどこかに頼むと費用がかかる。登録免許税という税金もかかる。…じゃあ、しばらく放置しておいてもいいか、と、なるわけです。で、実際にこれを数か月、数年後に思い出して名義変更の手続きをされるなら、何の問題もありません。

でも、多くのケースで、時間が経てば経つほど、そのまま忘れられていく。日常の中で、不動産の名義を調べる必要のある場面は、そう多くはありませんので。

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そして、次に名義変更をしていなかったことを思い出す・発覚するのは、その家を引き継いだはずだった長男Aが、亡くなったとき。長男Aの相続人である、Aの子どもが、名義変更をしようとして、名義を調べます。そこではじめて、父のものだと思っていた自宅の土地建物が、祖父の名前のままだったということを知るのです。

こうなると、色々な問題が出てきます。長男Aが相続することに同意してくれていたAの兄弟たちは、そのとき、元気なのでしょうか。誰か1人でも認知症等であれば、手続きは困難です。また、状況が変わり、気が変わっているかもしれません。

更に、Aの兄弟であれば、Aと近い世代。すでに亡くなっている可能性もあります。そうなると、その方のお子さんたちの同意が必要になりますが、兄弟ならまだしも、イトコ同士となると、住んでいる場所を把握していない可能性も大いにあります。であればまず、どこに住んでいるのか探すことから始めなけばなりません。国際化が進んでいる時代です。もしかしたら、日本にいないかもしれません。

また、名義変更に、すんなり同意してくれるのでしょうか。「印鑑代」と言って、多額の費用を請求されるかもしれません。自分にも権利があるといって、土地の名義を一部ほしいと言われるかもしれません。

関係性はそれぞれなので、もちろん一概には言えませんが、関係性が遠くなればなるほど、関係者が増えれば増えるほど、全員の納得を取り付けて、スムーズに手続きを進める、ということが難しくなっていきます。

一番最初の段階で、すぐに手続きをしておけば良かったものの、期限がないからといって放置した結果、このように、次世代に問題を残すことになりかねないのです。

確かに不動産の名義変更は面倒です。依頼すれば費用もかかります。しかし、それを怠ったことで起きうる問題まで、想定できていたでしょうか。

期限がないから、特に急ぐ理由がないから、といって放置してしまうと、こうした問題が起きかねません。問題が起きてしまってからの手続きは、時間も費用も、余計にかかります。後々に問題を残してしまわないためにも、相続手続きは、できるだけ早い段階で、きちんと済ませておかれることをお勧めします。

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出典元:まぐまぐニュース!