人生を変えた、大切なあの人との「出会いと絆」、そして今だからこそ書きたい「手紙」。TOKYO FMの「ゆうちょ LETTER for LINKS〜東日本大震災復興スペシャル」で、3月6日に放送された、宮城県名取市で養豚業を営む高橋希望さんから、ゴスペラーズ・北山陽一さんへの手紙を紹介します。

東日本大震災から、まもなく5年が経とうとしています。

5年前、2000頭もの豚を全て流されてしまった宮城県名取市の名取ファーム。

ご家族で養豚業を営んでいましたが、やむなく続けることは不可能かと思われました。

でも流された中で助かった豚がいました。

たくさんの人たちの優しい思いで命をつないだ、その奇跡の豚を、有難い豚と書いて、「有難豚(ありがとん)」と名付け、育て続けた養豚家がいます。

高橋希望さん。

今週は、そんな高橋さんが感謝してやまない、ゴスペラーズの北山陽一さんとの交流を綴ります。

「なんとか、助けようよ」

ゴスペラーズの北山陽一さま。お体の具合、いかがですか?

宮城の養豚家、高橋希望です。いつもありがとうございます。

震災から5年が経とうとしています。

たくさんの人たちに支えていただきました。

たくさんの「ありがとう」を感じてきました。

感謝したい方はいっぱいいますが、今回、僭越ながら、北山さんの名前をあげさせていただきました。

あのとき、北山さんに声をかけてもらえなかったら、養豚を続けてこられたかどうか、わかりません。

そして何より「星屑の街」という歌。

音楽って、素晴らしいですね。

たった一瞬で、時間を巻き戻すことができる。

泥に埋まったクルマの中から、ゴスペラーズさんの「星屑の街」のCDが出てきて、それがちゃんと再生できたとき、家族みんなで笑顔になりました。

すべて流されて、何も無くなってしまったけれど、あのときも、数えきれない星が夜空にありました。

皮肉なことに、地上に光がないぶん、綺麗に見えました。

曲を聴きながら星たちを眺め、私は人に「ありがとう」という道を選ぶことに決めました。



私たちは、宮城県の仙台空港すぐ近くの名取市というところで、養豚場を実家が営んでおりまして、3月11日、東日本大震災のときに、大津波で畜舎が一気に流されてしまいました。

そのときに豚が2000頭ほどいたんですけど、一緒にあっという間に流されてしまいました。

幸いにして、父も母も兄も従業員の方も、命は助かったんですけれども、あまりにも、一瞬で無くなってしまった沿岸部だったので、豚のことは最初は諦めざるをえない状況だったんですね。

でも、それから数週間が経って、被災した方から、「高橋さんのところの豚が俺のところに流れてきているから、助けに来て」と連絡があったり、また、私の両親が農場跡にやっと行けたときは、倒れた餌タンクの中に、5頭のお母さん豚が助かっているのが見つかったりしまして。

すごく嬉しかったんですけど、それはもう畜舎もないですし、ガソリンもないですし、クルマもなんにもない状態で、緊急時でしたから家畜を助ける術が全くなかったんですね。

そんな状況を知った都内の飲食店や、北山さんが、ツイッターとかメールとか電話で状況を確認してくれて、「豚が生きているんだったら、助けようよ」と言ってくれたんですね。

被災地にいる人たちは、大変なときですから、とても動物には手が回らなかったんですけど、豚を助けようって言ってくれた方たちのおかげで、1頭1頭助けて保護することができました。



私、宮城県の養豚家・高橋希望は、震災前に、ゴスペラーズの北山陽一さんと知人を介して知り合いました。

自分たちが食べるものは責任を持って幸せを尽くして食べようよ、という命の食べ方という私の活動を、北山さんは応援してくれたのです。

豚は、誤解されています。

本当は綺麗好きで、頭がよくて優しい。

本来、伸び伸びと育てれば、匂いも少なく人なつっこくて、お祝いの席には欠かせない、人間とつながりの深い生き物です。

我が畜舎では、豚にゴスペラーズを聴かせていました。

バラードが好きで、特に「星屑の街」を聴かせると、うっとりといい表情になります。

私たちは、命をいただくことによって生きています。

家畜も感受性を持った生命体。

自分たちがいただく命も幸せであってほしい、震災を機に私は強く思うようになりました。

北山さんは、「もし助かった豚が子どもを産み、やがて出荷されることになったら、僕が引き受けるから」と言ってくれました。

生産者にとって、誰のために育てるかが見えることはとっても幸せなことです。

意気消沈していた父も、やる気になりました。

生き残った豚に、私は有難い豚と書いて、「有難豚(ありがとん)」と名付け、育てる決意をしました。

私自身、豚に勇気と笑顔をプレゼントしてもらったのです。



実家の名取ファームは、2016年1月に、震災5年目にしてやっと敷地内のすべての撤去が終わりました。

私はずっと、名取ファームの広報と営業サポートをしていましたが、被災した名取ファームから新たに生みだした形で「ホープフルピッグ」という組織を立ち上げました。

震災後に、海外や全国の畜産農場を視察し、昨年10月からは、人も家畜も互いに満たされるような日本のアニマルウェルフェア畜産を推進する、牛・豚・鶏の畜産農家メンバー「アニマルウェルフェア・フードコミュニティJAPAN」の発起人となり、事務局長に就任しました。

このように、生産者自らが主体的に立ち上げる家畜福祉の推進コミュニティは、日本初の試みとなります。

ゴスペラーズの北山さんに背中を押してもらったことで、今日も私は、笑顔で星空を見上げます。

〜ゴスペラーズの北山陽一さんへ〜

震災前も震災後も、有難豚たちが過ごしている畜舎では、豚をリラックスさせるために、ゴスペラーズさんの音楽が流れています。

復興は思うようにいきませんが、その横で、私たち、人も鼻歌を歌いながら頑張っています。

覚えていますか?

震災から半年後、津波で数キロ先まで流された車がようやく見つかり、その中から土砂にまみれた「星屑の街」のCDが出てきて、家族みんなで驚きました。

泥を丁寧に落としたら、奇跡的に再生が出来、この先の不安で一杯だった皆が、一瞬で被災前の、綺麗な澄んだ星空の名取市や、のどかだった農場を思い出し、もう少し頑張ってみようと、言葉にならない励ましを受けました。

その後コンサートで、仙台に来られた5人のサインをいただくことができ、再び私たちの手元に戻ってきた「星屑の街」は、特別なCDになりました。

私たち畜産農家も、時々、立ち止まりながら原点に戻り、豚を豚らしく、人のつながりの中で大切に育てることで、食べてくれた人のところまで、感動や力まで届けられるように頑張ります。

これからも、豚たちと一緒に、特別な記念日をお祝いさせてください。

いつも応援しています。

ありがとうございます。ありがとん!



人生を変えた人との「絆ストーリー」を紹介するラジオ番組「ゆうちょ LETTER for LINKS」はTOKYO FMをキーステーションに、JFN38局で毎週日曜15:00〜15:30放送中。3月13日の放送は環境ジャーナリスト/翻訳家の枝廣淳子さんです。

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<番組概要>

番組名:「ゆうちょLETTER for LINKS」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :毎週日曜15:00〜15:30

ナビゲーター:羽田美智子

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/links/