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パチンコ店の床に落ちている玉を拾い、ある程度ためるとパチンコ台で遊戯する――。東京都内で働くDさん(30代・女性)は、休みの日にたまに出かけるパチンコ店で、そんなおじさんの行為を疑問に感じているという。

おじさんを観察していると、台の大当たりの履歴を見る振りをしながら、パチスロ機やパチンコ台の下皿に玉が残っていないか確認し、客が遊戯していない台に放置されていたり、通路に落ちたりしている玉やメダルを拾い集めている。

ある程度の数を拾うと、大当たりの確率が低めの台に実際に台に座って遊戯するそうだ。たまに大当たりしているのを見かけることもあるという。Dさん自身、椅子の下に落としたメダルを後で拾おうと思っていたら、そのおじさんに拾われたことがあるという。

床に落ちていたり、台に取り残された玉やメダルは、「誰のものでもない」のだろうか。拾い集めて遊戯することは法的に問題ないのか。中村憲昭弁護士に聞いた。

●パチンコ店は、客が店内で遊戯する目的に限定して玉を貸しだしている

「結論から言えば、パチンコ店で遊戯のために玉やメダルを拾い集めることは、刑法上は窃盗罪にあたり、その玉やメダルでパチンコ・パチスロ台を遊戯して大当たりを引いたとしても、店側から無効とされる可能性が十分あると思います」

中村弁護士はこのように述べる。なぜなのだろうか。

「問題を考える上で、パチンコ店で店側と客の間でどのような契約が結ばれているかを確認しましょう。

パチンコ屋の玉は、遊戯前にお金を払って受け取りますが、これは民法の条文で定められた契約類型(典型契約)に該当するものがありません。

その契約内容を一言で表すのは難しいのですが、『店が客に対して、店内で遊戯する目的に限定して玉を貸した』と評価出来ます。

賭博との評価を避けるため、直接の換金は出来ませんが、遊び終わったら店に玉を返還して、換金可能な商品と交換することができます。負けたら返さなくてもいいものの、手元に残った玉は帰るときに返還する約束で借りたものと評価できますので、消費貸借契約に類似した契約の一種と言えるでしょう」

民法上定められていないような契約を結ぶことができるのだろうか。

「契約自由の原則から、公序良俗に反しない限り、店と客との合意内容は有効です」

●落ちている玉やメダルでも、店が占有していると評価される

「遊び終わったら店に玉を返還するという契約からすると、玉は店外に持ち出すことは想定されていません。実際禁止している店がほとんどでしょう。

こうしたことからすると、客に渡した玉を直接占有しているのは客ですが、客の手元からこぼれ落ちた玉であっても、店の占有下にあるとみてよいでしょう。

さらに店は客に対し、明示か黙示かはともかく、拾った玉での遊戯を禁じている店も多いです。

したがって、落ちている玉を拾って遊戯することは、店との契約内容からみても認められていません。そのため、刑事的には窃盗罪に該当し得ます。

今まで注意されなかったのは、店が気づかなかったか、些細なこととして見逃されていたに過ぎません。逆にとがめられて『当たり』を無効とされても、文句は言えないと思います」

中村弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
保険会社の代理人として交通事故案件を手掛ける。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。そのほか、離婚・相続、労働事件、医療関連訴訟なども積極的に扱う。
事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/