チューリップ賞を皮切りに、始まった桜花賞トライアル。牝馬にとって、マイルをこなせることは大きなセールスポイントになる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、桜花賞のためだけではない牝馬トライアルについて解説する。

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 花吹雪の栄冠、桜花賞。クラシックの緒戦でもあり、注目度も高い。陣営としてはぜひとも勝ちたいGIですから、トライアルにも力が入ります。上位馬に優先出走権が与えられるのがチューリップ賞(3着まで優先出走権)、アネモネS(2着まで)、フィリーズレビュー(3着まで)。トライアルではありませんが、翌週には3歳牝馬による重賞フラワーCもあり、2着までにはいれば本賞金が加算されます。

 角居厩舎はチューリップ賞を2007年にウオッカで勝ち、2008年にはトールポピーが2着に入って優先出走権を獲得していますが、2頭とも前年の2歳チャンピオンなので、ここは本番前のひとたたきという意味合いでした。

 思い出すのは2005年のディアデラノビア。新馬戦、白梅賞と連勝。シーザリオが同期生ですが、この時点ではディアデラノビアのほうが「絶対にGIを獲る」と評価されていました。

 3月5日のチューリップ賞では1番人気に推されたものの7着。こんなはずはないと翌週のフィリーズレビューで連闘しましたが、クビ差の4着で桜花賞出走はかないませんでした。

 サンデーサイレンス産駒。とても敏感で気性も荒く、その特徴が吉と出て牝馬としては早くから体が完成されていた。そんなこともあっての連闘。今では考えられないローテーションです。1か月後、オークストライアルのフローラSでやっと勝つことができました。オークスでは3着に入り、その後は重賞のみを走りました。

 残念ながらGI制覇はかないませんでしたが、海外へも2度遠征。2010年に生まれた第2子ディアデラマドレも3つの重賞を勝ってくれました。とても思い出深い母娘です。

 フィリーズレビューには桜花賞出走とは別の意味もあります。チューリップ賞とアネモネSは本番と同じマイル戦ですが、フィリーズレビューは阪神の1400メートル。しかし、距離的な区別はないと私は考えます。

 以前、1600メートルは馬の距離適性を見る分水嶺と言いました(第5回)。道中、必ずタメを作らなければ勝てません。その点、1400メートルは融通が利く。スピードのみの一本調子でも勝てるし、マイルのように道中でタメを利かせることもできる。スプリンターかマイラー以上か、どちらのタイプなのか。体調が定まらないこの時期の牝馬にとっては、走らせてみたい距離です。

 1800メートルのフラワーCも含め、たとえ桜花賞に出られなかったとしても、秋を念頭に入れて走らせることができます。

 トライアルを桜花賞の前哨戦と見るのか、さらに先を見据えるのか。考え方でトライアルの奥行きが変わっていくのだと思います。

 さて、今春のウチの牝馬事情です。エルビッシュが2勝を挙げ、クラシック戦線に名乗りを上げています。距離を伸ばして結果を出しただけに先々が楽しみです。

●すみい・かつひこ 1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後14年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。競馬の他、馬文化普及や障害者競馬などにも尽力している。主な管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイアなど。

※週刊ポスト2016年3月18日号