ポカポカ陽気が心地いい春だけど【写真:Getty Images】

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季節で変わる脳の活性化

 春眠暁を覚えず……春霞が頭の中にも広がるせいか、やたら眠いし仕事にも身が入らない。悪い病気か、はたまたこの季節特有の現象なのか?

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 春めく陽気のせいか、街行く女性たちも輝いて見える。

 動物の世界は出産ラッシュのこの季節、オール電化に生きる現代人に出産の季節性はいまやほとんど見られない。

 しかし人だって動物。春夏秋冬、行動や生理機能に季節性があって当然だ。

 たとえば遺伝子。血液細胞や脂肪細胞で、季節によって働きに変化がある遺伝子が見つかっている。そのためか血圧やコレステロール値などは季節ごとに変化が見られ、冬のほうが夏よりも値が大きい。

 あまりうれしくないことだが、春は自殺率が最も高い。

 新年度になって環境が変わり悩みをかかえやすいためとも言われるが、日本以外の国々でも同様の傾向が見られる。

 ヨーロッパなど多くの国々では年度初めは秋なのに、なぜ春に自殺? 厳しい冬が終わって、張っていた気持がなんとなく緩んでしまうせいだろうか。

 最近PNASに掲載された論文によれば、脳は春になるとうっかりミスをしやすくなるらしい。

 健康な若者に季節ごとに同じ条件下でテストを行ってもらい、脳の働きをfMRIで測定した。

 テスト前には一晩徹夜してもらい、トータルで42時間を不眠のまま過ごす。その後12時間の睡眠をとった後、「単純なテスト」と「複雑なテスト」の2種類を行った。

 実験期間中の数日は、どの季節でも全く同じ温度や光条件にそろえられた、時計のない室内で過ごしてもらう。

 一年を通してテストの成績に大きな差はなかったが、季節ごとに変化が見られたのは「脳の活性化」の程度だ。

自ずと感じる春の訪れ

「単純なテスト」はゲーム機のようなものを持たされ、合図が出たらできるだけ速くボタンを押すというもの。記憶力も思考力もいらないが、集中力や反射力が試される。

 このテストで活性化する脳の領域を季節ごとに比べたところ、活性化の程度は日照時間と連動していることがわかった。

 日照時間が長くなる春から夏にかけて脳の働きは最も活性化し、秋から冬ではその逆だったのだ。

 しかし記憶力が必要な「複雑なテスト」では、異なる結果が得られた。

 複雑なテストは単語の聞き取りを行い、今聞いた単語の中に3つ前に聞いた単語と同じ子音が入っているかどうかを答えるというもの。かなりの集中力と短期記憶が必要になる。

 このテストで活性化する脳領域は判断や思考、注意などに関連する「前頭葉」、感情の制御や注意に関わる「島皮質」など。

 このテストでもやはり成績に季節性は見られなかったが、脳が最も活性化するのは秋で、最も働かないのは春だということがわかった。

 春になるとなんだか頭がぼやけるのは、脳のせいだったのか。

 日照時間の変化を感じて行動や生理的な機能を変化させることを「光周性」とよび、このおかげで生物は季節の変化に対応できる。

 被験者はテストに先立って日照時間も時刻もわからない室内で過ごしたにもかかわらず、脳の働きは周期性を示していた。

 脳にも体内時計のように、一年を刻むことが出来る「年時計」が備わっているということだろう。

 日の当たらないオフィスで過ごそうが、部屋に閉じこもっていようが、脳は春の訪れを自ずと感じることができるのだ。

 この季節にうっかりミスが多いのは、ヤル気の問題じゃなかった! 一方、即決即断の能力は春にもっとも上がる。春は大事な決断をするには向いているのかもしれない。

参考文献
Seasonality of Suicidal Behavior
Woo J-M. et al. Int. J. Environ. Res. Public Health 2012, 9, 531-547
Seasonality in human cognitive brain responses
Meyer C. et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Feb 8取材・文 工樂 真澄