早くも3歳クラシックのトライアルが始まる。レースに出走できるのは生涯に一度だけ。同じ年に生まれた18頭だけだ。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、3月6日・弥生賞における中山競馬場の2000メートルを3歳馬に経験させる意味について解説する。

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 弥生賞、いいですね。

 花の甘い香りが漂っていて、パドックの雰囲気が華やいでいる。クラシック1冠目のトライアルとして注目度が高い。「祭典のスタート」という晴れやかさが横溢しています。関係者はもちろん、馬もワクワクしてくるのではないでしょうか。角居厩舎では2010年にヴィクトワールピサがここを勝って、皐月賞馬になっています。

 今年は昨年末の朝日杯FSを制し、最優秀2歳牡馬に選ばれたリオンディーズが、ここをステップにクラシックを目指す予定です。

 実はこの連載の第8回で、「朝日杯(阪神1600メートル)は翌春のクラシックに直結しない」といい切っています。2000メートルのデビュー戦で強い勝ち方をしたこの馬は、本来ならゆったり走れる距離を使っていくはずでした。ところが昨年は、有力馬の多くがホープフルSへの出走を表明、キャリア1戦のリオンディーズは関東への輸送と除外というふたつの壁を乗り越えなければなりませんでした。

 朝日杯はもちろん強い馬が出てきますが、1勝馬でも出られそうだという感触でした。自己条件にも強い馬が想定されていたので、ならばいっそのことGIを経験し、先につながるレースをと。さらにデビュー戦でやや行きたがった面もあったので、輸送の楽な阪神にしたわけです。マイルということにこだわらず、道中ゆったり運んで終いにかけるレースをと考えました。

 正直勝つまではどうか、レースでもあの位置から届くのかと思って見ていましたが驚きました。M・デムーロの見事な手綱さばきがあったものの、あらためてこの馬の能力の高さを再認識。速いマイラーが飛ばすなかで前半しっかり足をタメ、長い直線で伸びた走りから、クラシックへ行けると確信しました。

 弥生賞は同じコース・距離の皐月賞のトライアル。すでに賞金を積み上げている安心感があるので、中山の2000メートルを経験させる意味合いが大きい。中山の2000メートルは小回りには違いないのですが、最初の直線がそこそこ長いので、じっくりとポジションを取りにいける。リオンディーズの競馬に合っています。

 そう、じっくりと走らせたい。

 エピファネイアもそうでしたが、シーザリオ産駒の特徴で、筋力があるのに骨の成長が追いつかない面があります。競走馬の能力と体の強弱は別の話です。ところが根性があるので、骨の限界を超えても走ろうとする。痛みが出ても我慢してしまう。実はリオンディーズの初戦も、そういう傾向が見られました。

 リオンディーズはエピファネイアほど調教の難しさは感じられないものの、冷静に状態を見極めなければいけません。伸び伸びとした走りを期待しています。「マイルもいいけど、やっぱり2000メートルがいいな」などと感じてくれれば嬉しいのですが。

●すみい・かつひこ:1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後14年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。競馬の他、馬文化普及や障害者競馬などにも尽力している。主な管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイアなど。

※週刊ポスト2016年3月11日号