足立正生監督

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 「幽閉者テロリスト」以来9年ぶりとなる足立正生監督の新作「断食芸人」が、2月27日に公開される。フランツ・カフカの同名短編小説を基に、舞台を現代日本に置き換えて再構成し、自由に拘束された現代人の生をえぐり出す物語だ。足立監督に話を聞いた。

 街の片隅に座り込むひとりの男。男に興味を持った少年は、話しかけても反応せず虚空を見つめるだけの彼の姿を写真に撮り、SNSに投稿する。翌日から男の周りには、少年の投稿を見た者たちが続々と集まるように。人々は男の存在についてそれぞれ持論を展開し、やがて男は「断食芸人」に仕立てあげられていく。震災後の原発問題やイスラム国のテロなど、今の世界を取り巻く社会問題も物語に織り込んだ。

 題材にカフカを選んだ理由を「もともと好きな小説のひとつであったのと、現在の逼塞した社会の中で、どう生きたらいいのかを考えた時に、その状況に匹敵するシチュエーションが『断食芸人』にありました。何も食べない、話さない、その上で自分の命をさらして、見世物にして生きている、こんな強烈なメッセージはない。その中身は不明だけれど」と明かす。

 カフカの原作とともに、魯迅の言葉も取り入れた。「映画のナレーションが語るのは『阿Q世伝』『狂人日記』など。魯迅とカフカは同年代で、絶望と怒りを持っていた。その感情を魯迅はむき出しにし、カフカは内捻させている。2人には共通点があって、そこで言えるのが『絶望なんて甘い』ということ。生きていることの怨念みたいなものを訴えていると思う。それを僕は共通して受け止めて、映画にしないといけないと思った。それくらいしか、3.11以降に発言するメッセージとしては弱いだろうと。今、メッセージの何もかもが軽くなってきている時代なので、芸術で突き進むしかないと思うのです」

 劇中には引きこもりや自傷癖のある若者を登場させ、「断食芸人」との言葉のない対話を試みた。「そういう若者たちが、何も食わない、話さない人間と、そこで何が通底できるのかを考えました」といい、原作とは異なる希望を残すようなラストに仕上げた。そして最後に、現代社会を生きる若者に向けて「作り終わって完成するのではなくて、映画館で見てもらってはじめて完成するのが映画。だから、こんな下品で乱暴な映画は嫌いだ、という意見があってもいい。事前に何も考えずに見て欲しいですね」とメッセージを寄せた。

 「断食芸人」は、2月27日から全国で公開。