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大学発ベンチャーは、大学に潜在する研究成果や技術シーズをもとに新規性の高い製品・サービスを創出することで、イノベーションを実現できるものとして高く期待されている。しかし、日本では一時期のベンチャーブームが過ぎ去り、ピーク時には年度あたり約250社まで増えた大学発ベンチャーの新設数が、2013年度時点で52社にまで減少。ここ数年は横ばい傾向にある。

こうした状況を打破すべく2015年9月、筑波大学出身経営者からなるOB会「筑波みらいの会」は、筑波大学を毎年多くの起業家を生み出す“日本のシリコンバレー”のような環境にするための活動の一環として、国内初の大学クラウドファンディングプラットフォーム「筑波フューチャーファンディング(TFF)」を立ち上げた。

TFF 代表理事 佐々木敦也氏は、大学発ベンチャーを取り巻く状況について、「アベノミクスにおいて、経済の活性化には起業家の輩出が必要だという話だが、日本では開業率が5%と、欧米に比べて半分程度。開業率が増えない理由は、自己資金が足りない場合、銀行の借り入れに頼らざるを得ないため、個人に借金が残ってしまうという大きなリスクがあるからだ。ベンチャーキャピタルによる資金調達も考えられるが、成長して上場するという大きな目標をはじめから与えられることが多いため、ハードルが高い」と指摘する。

こういった課題を解決すべく、TFFは「小さく産んで大きく育てる」というコンセプトを掲げている。起業のハードルやリスクを低くすることによって、開業率を上げていけるようなエコシステムを構築していくことが狙いだ。

同エコシステムでは、まずバージョン1.0のフェーズとして、アントレプレナー教育を行う「筑波クリエイティブ・キャンプ(TCC)」、アイディアを実現する場「T-ACT」および「Startup Weekend」により、学生たちからのアイディアを引き出す。ここから得られたアイディアに対して、購入型クラウドファンディングによって資金調達を行うというのが、これまで行ってきたバージョン2.0のフェーズだ。

そしてTFFは今回、各業界の企業と業務提携を行い、各社の協力のもと資金調達できたアイディアを本格的に事業化していくためのエコシステムバージョン3.0を3月1日にリリースすると発表している。業務提携を結ぶのは、助成金取得支援サービスを運営するライトアップ、クラウドソーシングサービスを行うランサーズ、ハードウェア開発をサポートするモノづくり施設 DMM.make.AKIBA、プレスリリース配信サービス「ValuePress!」を提供するバリュープレス、「イノベーションセンターSYNQA」を運営するイトーキ、会社設立支援などを行うアリベルタ共同会計事務所の6社。

自身が筑波大学の出身で、筑波を日本のシリコンバレーにしたいというTFFの考えに共感したライトアップ 代表取締役社長 白石崇氏は、「学生は真面目なうえ、時間もやる気もあるのに、起業の知識がないのがボトルネックとなっている」と指摘。TFFの監事も務めるアリベルタ共同会計事務所 代表の吉田光一郎氏は、「経営のためには、”名前”、”お金”、”人脈”、”人材”、そして”自分自身が立派な経営者になること”が必要。若い人たちの夢を実現するために少しでも役に立つことができれば」と今回の提携について自身の経験を踏まえて展望を語った。各社は、短期的な視点での収益は期待しておらず、当面はボランティアという形で学生たちの起業支援を行っていく考えだ。

目標は、クラウドファンディングのプロジェクトを月に1件、定期的にリリースしていき、そこからバージョン3.0へと移行できる事業を年間3社程度発掘していくこと。TFFだけでなく、ほかのクラウドファンディングサイトからバージョン3.0へ流れてくることも歓迎しているという。”筑波色が強い”プラットフォームだが、他大学の学生のチャレンジも可能だ。

さらに今後は、バージョン4.0をリリースし、同エコシステムの構築を進めていくとしている。「アメリカでは、シリコンバレーを中心に素晴らしい企業が出てきている。彼らの力強い原動力を見習う必要がある」という佐々木氏によると、シリコンバレーと筑波の交流を図るべく、ベンチャーキャピタルと協力してファンドを立ち上げる予定。またこのエコシステムを他大学、研究所、地方へ横展開していくことも視野に入れているという。

○第一弾は低価格な小型人工衛星用モジュールの開発

エコシステムバージョン3.0の第一弾として、筑波大学の亀田敏弘研究室に対して、技術支援および大企業とのコラボレーションをアレンジし、低価格な人工衛星開発・販売事業の立ち上げを行っていくことが決定している。

現在では、国際宇宙ステーション「きぼう」の実現や相乗り小型衛星の機会の提供により、宇宙における材料試験などの各種実験を計画することが可能となっているが、研究用の装置を宇宙用デバイスのみで構成することはコスト・開発期間の観点から不利な場合がある。亀田研究室では、これに替わるものとして、現在、民生用電子部品を利用した超小型人工衛星クラスの通信システムの開発と検証を行っている。今回、事業化を目指すのは、モジュールとマイコンひとつで送受信ができるという技術。これにより、通常製造に1〜3億円かかる人工衛星を最低50万円で製造できるようになるという。すでに通信モジュールのプロトタイプはできており、2019年の市販を目指すとしている。

同研究室では大学と連携し、インターンシップとして学生に経営参画体験の機会を提供するほか、授業の一環としてR&Dの実践、製造・開発・販売までを行っていく考えだ。亀田准教授は、「お金を生み出すだけではなく、人材を生み出す企業として尽力していきたい」とコメントしている。

果たして、TFFから世界へ羽ばたいていくイノベーティブな大学発ベンチャーは生まれてくるのだろうか。今後の動向に引き続き注目していきたい。

(周藤瞳美)