2月11日、JRAから2016年度の新規騎手免許試験の合格者が発表された。新たに中央競馬の騎手免許を手にしたのは、その2日前に競馬学校騎手課程を卒業した6名の若者たちで、順調にいけば、3月にプロデビューを迎える。

 中でも注目を集めているのが、JRAでは16年ぶりのデビューとなる女性騎手の藤田菜七子(ななこ)である。1996年に3人の女性騎手がデビューしたのを皮切りに、これまでに6人がJRAからデビューしたが、2013年9月に増沢由貴子が引退して以来、生え抜きの女性騎手は不在となっていた。

 しかし、JRAにおいて、生え抜きの女性騎手は大きな活躍を残せていない。重賞では02年に中山大障害をギルデッドエージで制したロシェル・ロケット、昨年の新潟大賞典をナカヤマナイトで2着したリサ・オールプレスの外国人短期免許の2人の例がある程度である。それだけに、挑む壁は大きいが、藤田菜七子は明るい表情でこう語った。

「女性ということで、不利なこともある分、有利な点もあるはず。そこを活かして実績を残したい」

 高い壁も裏を返せば、女性騎手として「平地重賞勝利」「100勝」など、『史上初』となる記録がまだまだ残されている状況だ。卒業式当日に行なわれた模擬レースの最終戦で、積極的なレース運びで8戦目で初勝利を飾ったように、引きと運の強さに加え、小学校で空手、中学校で剣道とそれぞれ有段者となった芯の強さも持ち合わせる。

 新人となった6人のうち、半数の3人が父に騎手(引退を含む)を持つ"サラブレッド"だ。菊澤一樹は父が元JRA騎手で、現在は調教師となった菊澤隆徳。その父の厩舎所属で、父子の関係から師弟の関係となった。

「(2年生の)研修の頃から父とは呼ばず、『先生』と呼んでいます。そちらのほうがやりやすいですね」

 目標とする騎手は、そんな父ではなく、叔父にあたる横山典弘(菊澤一樹の母は横山の妹)の名前を挙げた。「父は通過点です(笑)」というコメントに、負けん気の強さを垣間見せる。

 坂井瑠星(りゅうせい)は大井競馬のトップジョッキー坂井英光を父に持つ。父からは「上を目指すなら中央競馬」と背中を押された。167.5cmとジョッキーとしては長身で、ともすれば体重面がハンデともなりそうだが、「今、44.5kgで減量の心配はありません。むしろ、恵まれた体格を活かしたい」と前向きにとらえる。昨夏には目標とする福永祐一のバレットもつとめ、間近でその技術を目にしてきた。

 木幡巧也は父が木幡初広、兄は木幡初也で、父子3人が同時に現役となる。競馬学校の同期でもっとも優秀な生徒に贈られるアイルランド大使特別賞を兄同様に手にした。賞イコール現役生活での成功が約束されたわけではないが、昨年この表彰を受けた鮫島克駿(かつま)はデビュー年に39勝を挙げて、JRA賞最多勝利新人騎手を受賞している。

 実は一度、留年しており、競馬学校での生活を4年送った。「留年してしまったのは悔しくて情けなかったけれども、その1年で得たものも多かった」(木幡)

 同じく学校生活を1年長く送った森裕太朗は、大腿骨と骨盤などの骨折で離脱を余儀なくされてのものだった。競馬に縁がない家庭に育ちながら、競馬学校入学2年前に乗馬経験を積むために母とともに仙台から栗東に移住したように、気合いの入り方がひと味違う。「一度決めたことは最後までやり抜く性格」と自身の強みを語るように、ケガのリハビリを乗り越え、模擬レースのシリーズチャンピオンの座についた。

 荻野極(きわむ)は幼少の頃から10年を超える空手歴があり、型部門で世界大会に出場した経験を持つ。それでいながら、初めてテレビ画面を通して見た競馬に「ビビッときた」と魅せられて、この道を選んだという。「名前に負けないよう、この道を極めたい」と意気込みを語った。

 晴れてデビューを迎える彼らだが、いきなり試練が待ち構える。というのも、中央競馬では外国人騎手やリーディング上位騎手の存在感がより大きくなっており、若手騎手は必ずしも有力とはいえない馬で、彼らを相手に結果を出さねばならないからだ。昨年でも3450余りの中央競馬の全レース中、1割を超えるレース数を外国人騎手が勝利している。今年も2月7日終了時点でリーディング1位はクリストフ・ルメール、2位はミルコ・デムーロ、6位がフランシス・ベリーで、彼らにいきなりデビュー1年目から挑まねばならないのだ。

 その一方で、明るい材料がないわけでもない。JRA賞最多勝利新人騎手は30勝を超えることが最低条件となっているが、昨年は鮫島克駿と加藤祥太、一昨年は松若風馬と小崎綾也がそれぞれそのラインをクリアしている。その以前の3年間が「該当者なし」だったことを考えれば、外国人騎手が常にいるような現状でも太刀打ちできるほどに、ルーキーのレベルが底上げされているとも考えられる。

 淘汰の厳しいプロのジョッキーとしてどこまで名を残せるか。デビュー戦が待ち遠しい。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu