競馬において、ダートのレースが多くなる冬場はいまひとつ馬券購入の意欲がわかないというファンも多い。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、冬のダート戦ならではの妙味についてお届けする。

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 寒さ本番。馬も人間も吐く息が真っ白です。こうなると馬は元気になります。競馬でも調教でもヘバらない。カイバ食いもよく、疲労回復も早い。

 だから調教がスムーズなのですが、注意点もあります。寒さで人間の動きが縮こまる。関節や筋肉の活動域が小さくなりがちです。馬の動きを十全に引き出せず、むしろ制御してしまうこともあります。すると馬が不満を覚える。「どうしたの? こっちは絶好調なのに、なんできちんと追ってくれないの?」と。せっかくの馬の気合いを殺いで、反発されることもあるのです。

 馬に跨がる人間も元気でなければいけません。人馬の齟齬を防ぐため、ウチでは調教前にスタッフの身体をしっかりとほぐしておきます。馬以上に動いてもらわなきゃ困る。冬は鞍上の動き、配慮がカギを握るんですね。

 配慮といえば、この時期の3歳馬のデビュー。ここがとても大事です。

 3歳の管理馬は30頭いるのですが、厩舎に置いておける数は限られており、外厩などとの入れ替えが必要で、厩舎としては身体も頭もフル稼働しなければいけません。これからは2月の小倉(小回り)開催、3月の中京(左回り)開催もあるので、さらに選択肢が広がっていきます。

 以前、2歳時に2勝というのが一つの目安といいましたが、それはあくまで理想。まだまだ焦りはありません。「なんとかクラシックに間に合わせたい」という考え方もありますが、GIはあくまで勝つために臨みます。勝てない仕上がりならば、無理にトライアルに持っていくこともない、という思いがあります。

 角居厩舎は今年スタートがまずまずで5勝していますがそのうち3つが3歳戦(1月24日終了時点)、芝・ダートの両方で結果を出しています。

 ドラゴンカップは1月京都ダートの新馬戦を見事に勝ち切りました。道中をしっかりためて、最後に切れた好走でした。芝適性がありそうなので、中1週で芝2000メートルのオープン若駒Sに挑戦(7着)。こういう選択肢もあるということです。

 エルビッシュは4戦目で初勝利をあげ、1月京都の特別で2勝目。これで一息入れてクラシックのトライアルに向かうことができます。

 ディープインパクト産駒の牡馬ヴァンキッシュランは2歳時に3戦走ったものの未勝利、1月の京都でようやく勝つことができました。今後をどう走らせていくか。思案のしどころとなります。

 人気になりながら勝ちきれない馬もいますが、メドの立った走りをしてくれているので、そろそろ順番が回ってきそうです。

 迫りくるクラシックを意識するのか。それとも長い目で見るのか。

 3歳馬の寒い時期の選択肢は多岐に渡ります。

●すみい・かつひこ 1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後14年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(12月20日現在)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。競馬の他、馬文化普及や障害者競馬などにも尽力している。主な管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイアなど。

※週刊ポスト2016年2月12日号