YouTubeのCBOが語る「動画がこの先の10年でテレビを超える4つの根拠」から動画マーケティングのヒントを探る

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テレビからオンライン動画へ

冒頭、Robert Kyncl氏は現在の動画市場を振り返りました。
テレビは50年にわたり成長を続けてきましたが、Nielsenの最新の発表によると、米国市場におけるテレビ視聴は2009年をピークに年々減少しています。さらには、米国で広く普及している有料ケーブルテレビの契約数も減少に転じ、2015年Q2では60万人が契約を解除し、過去最高の落ち込みを記録したそうです。

その一方で拡大しているのがオンライン動画です。米国のミレニアル世代においてはすでに動画の視聴がテレビを上回っており、1日あたりの動画視聴時間は1時間15分に達し、年25%のスピードで伸びていると言われています。

この動画視聴の増加は直線的な成長ではなく、加速度的に拡大すると見込むKyncl氏。10年以内にはオンライン動画がテレビを完全に追い抜き、唯一にして最大の動画視聴手段になるだろうと述べています。

一方の日本市場ではテレビは未だ大きな存在であるため、オンライン動画がテレビを超えるまでにはまだまだ年月を要するでしょう。しかし日本でも若年層を中心にオンライン動画接触時間が年々増加していることはさまざまな調査で明らかになっており、デジタルネイティブ世代の成長や通信環境の向上などにより、いずれオンライン動画がテレビと肩を並べる存在になることはほぼ間違いないと言えそうです。

それでは本題である「この先の10年で動画がテレビを超える4つの理由」について、Kyncl氏の言葉をご紹介しながら考えていきましょう。

理由その1――モバイル

動画市場が伸びる1つ目の理由としてKyncl氏はまず「モバイル」を挙げました。

 私たちの手の中にあるスマートフォンの画面は年々大きくなり、画質も向上しています。最新のiPhoneは4Kでの撮影と再生ができるほどです。それと同時に、バッテリーの持続時間も長くなり、通信速度も向上しています。音質についても同様です。
 これらの変化はモバイルデバイス上での動画体験を劇的に向上させているのです。 

そしてSnapchatのようなアプリメーカーからNewYorkTimesのようなパブリッシャーまでが動画を核に据えたビジネスを展開し、モバイル動画消費を加速させていると語るKyncl氏。

YouTubeとNielsenが共同で行った調査では、18〜34歳のユーザーのテレビ接触時間は昨年から9%減少している一方で、同世代のYouTube利用時間は48%も増えているそうです。この成長のもっとも大きな要因がモバイルデバイスからの視聴です。

モバイルデバイスからのYouTube動画視聴時間は平均40分にのぼり、1年で50%も増えています。今や毎分400時間の動画がアップロードされているYouTubeですが、その成長を支えているのがモバイルと言っても過言ではないでしょう。

しかし、モバイル動画がこれほどまでのスピードで伸びているもうひとつの要因は、単に動画をシェアしたり検索したりするだけでなく、ユーザー一人ひとりが自分で視聴する動画を選ぶことができる点にあるとKyncle氏は語ります。

 私たちが子どもの頃は、リビングにある1台のテレビで見る番組を家族に譲るケースも多かったでしょう。しかし今の子どもたちは自分の部屋に戻って好きな歌手の動画や番組を見ることができるのです。
 今やアメリカの高校生たちの間でもっとも人気があるのは、映画俳優やミュージシャンではなくYouTuberです。
 このように、スマートフォンは私たちの動画消費行動を大きく変えました。例えて言うなら、"本"のように自分が興味のある作品を選び、好きなタイミングに好きな場所で見ることができるようになったのです。 

日本でも全世代でモバイルシフトが起こっています。かつては”セカンドスクリーン”と呼ばれていたモバイルですが、もはやメインデバイスになりつつある事実をマーケターは常に意識する必要があることは間違いないでしょう。


画像参照元:http://www.nielsen.com/jp/ja/insights/newswire-j/2015/nielsen-news-release-20151110.html

理由その2――多様性

2つめの根拠として挙げた「多様性」について、Kyncl氏はこう解説します。

 多様性とは、大ヒット作が生まれなくなるという意味ではありません。しかし、同じ作品やクリエイターを好きになる人が少なくなっていることは事実です。だからこそ、YouTubeは世界最大の動画ライブラリになり得たのです。 

YouTubeは誰でも無料であらゆる動画を投稿できるオープンなプラットフォームだからこそ、まったく新しいコンテンツジャンルが生まれてきたと語るKyncl氏。YouTuberによるメイクアップ動画や、ゲーム実況動画などがその一例です。

確かに、以前movieTIMES「厳選動画」コーナーで取り上げたように、今は防犯カメラの映像でさえも動画コンテンツとして成立する時代です。

そして、さまざまな嗜好を持つ人々が集まり、無限の多様性を持つYouTubeでは、今後も新しいジャンルの動画が誕生する可能性は大いにあります。テクノロジーの進化も手伝い、マーケティング領域の動画活用においても新たな手法が開発されるかもしれません。この点もテレビにはないオンライン動画ならではの価値であり、さらなる市場成長の根拠となり得るのでしょう。

理由その3――音楽

そして3つ目に挙がったのが「音楽」です。

 YouTubeは世界最大規模の音楽ライブラリでもあります。10代の半数以上が、新しい曲やアーティストを見つけるためにYouTubeを活用しています。アーティストのライブパフォーマンスやリミックスバージョン、絶版になった音源でさえ、YouTube上で見つけることができるのです。
 しかし何よりの価値は、YouTube上のミュージックビデオは一大現象になりうるということです。すでに成功しているミュージシャンでも、新人アーティストであってもです。 

Kyncl氏はその一例として2人の歌手を取り上げました。女性歌手Adeleの代表作「Hello」はわずか5日間で100万回再生を記録し、まもなく10億回に到達する勢いです。片や、それまでほぼ無名だったSilentoは「Watch me」がYouTube上で大ブレークし、一躍スーパースターになりました。オリジナル動画は約5.5億回も再生されていますが、多くのファンやセレブたちが「Watch me」のダンス動画をアップロードしており、それらも含めると総再生回数はおよそ10億回に達します。

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 このような成功事例が数多く生まれたことにより、音楽ビジネルにおいて「動画」が欠かせない存在になりました。 

このようにYouTube上での音楽視聴が定着してきたことは、企業の動画マーケティングにも大きな影響を与えています。音楽をテーマにした企画で人気を博し、成功を収める動画事例は毎年のように生まれています。

例えばトイレ用芳香スプレーのブランドPOO-POURRIはオリジナルのミュージックビデオを公開し、3カ月足らずで1200万回以上再生されています。

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理由その4――360度動画/VR

そして最後に、テレビより高い没入感とインタラクティブ体験を実現する360度動画とVR動画が挙げられました。

 YouTubeでは早くから360度動画やVR動画の開発に着手しました。これらはモバイルが初めてPCやテレビを上回る動画体験を提供できるコンテンツだからです。モバイル動画の拡大に伴い、モバイル視聴に適した動画フォーマットも成長すると我々は見ています。 

▽ハミルトン・アイランド・リゾートとカンタス航空のタイアッププロモーションVR動画

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Kyncl氏はVRの普及に必要な4つの要素、すなわちVRや360度動画を撮影できるカメラ、これらのテクノロジーを活かしたコンテンツ企画力、視聴デバイス、そしてそのコンテンツを活かせるプラットフォームの開発にYouTubeが先頭で取り組んでいることを強調しました。

没入感の高い動画コンテンツは、動画マーケティングを展開する企業にとっても心強い存在です。しかし、カメラや視聴デバイスが普及した先に問われるのがコンテンツ企画力でしょう。大手企業を含め、効果的な企画が模索される今、360度動画やVRの特性を最大限に活かしたコンテンツを生み出せるかが、成否を分けることになりそうです。マーケターやクリエイターにとっての今後の大きなチャレンジの1つと言えるでしょう。

Kyncl氏のプレゼンテーションはこちらでご覧いただけます。

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2016年の動画マーケティング市場の展望をまとめたmovieTIMESのオリジナル白書もぜひ併せてご覧ください。