最高の血統を背負う競走馬の育成には、並々ならぬ苦労がある。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、良血馬を預かることについてお届けする。

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 おかげさまで角居厩舎はこれまで「良血馬」を何頭も預からせていただいています。

 母が年度代表馬にもなったエアグルーヴ、父がダービー馬キングカメハメハ、半姉はエリザベス女王杯を連覇したアドマイヤグルーヴというルーラーシップは、まさに良血馬の中の良血馬でした。1歳の頃から他を圧倒するオーラがあり、人が近寄ってきても知らんぷり。悠然と周囲を眺めていました。

 ただ管理にはプレッシャーがかかります。具体的にはクラシックにエントリーすること、そしてGIのタイトルを獲ること、さらに立派な種牡馬に育てること。調教師としての義務と責任です。周囲の期待も最大級で、しんどかった。

 2009年12月のデビュー戦は単勝オッズ1.5倍。期待に応えて快勝しましたが、若駒Sでは2着。次の条件戦では圧勝しますが、毎日杯では5着に敗れ皐月賞には出られませんでした。

 エイシンフラッシュ、ローズキングダム、ダノンシャンティ、ヒルノダムールなど同世代に強い馬が多く、同厩にも皐月賞馬ヴィクトワールピサがいました。ダービーには出走させたくてトライアルはプリンシパルSを選択し圧勝。本番では5着でしたが、なんとか晴れ舞台で走らせることができました。

 古馬になって最初に選んだレースが1月の日経新春杯でした。3歳時に先着された馬を一蹴し、ビッグタイトルも視野に入ってきました。その後も翌年のAJC杯などGIIは勝つのですが、GIのタイトルに手が届かない。せこせこしたところがなく、そのせいでもないのでしょうが「出遅れ」グセが響くことがありました。

 こういう馬は騎手を替えて様子を見ます。馬を強く追える騎手ほど後方に座る傾向があるので、タイプを替えることで馬のクセを見抜こうとしたのです。それで騎手の起用も固定しなかった。ただ、ルーラーに乗った5人の外国人騎手全員が「この馬は絶対に走る」と言ってくれました。

 国内で手にできなかったGIのタイトル(香港のクイーンエリザベス2世カップ)を獲得したのは5歳の春。ここまで、長かったと安堵しました。今は種牡馬になり、子供たちが今年デビューします。

 こうして振り返るとあっけないようですが、ルートはどうあれ、目標を達成する難しさを反芻しています。順調に勝ち上がっても、生きものですから何があるかわからない。

 今年の3歳も「超」のつく良血揃いです。ルーラーシップの全弟ショパン。ブエナビスタの半弟エルプシャフト、アパパネの半妹パローマ、ウオッカの子タニノアーバンシー。ダンスインザムードの子カイザーバル……。調教師としては楽しみな半面、責任も重大です。

 そんななか、昨年暮れにリオンディーズが朝日杯FSで勝ったのはうれしい出来事でした。日米のオークスを勝ったシーザリオの子で、半兄がエピファネイア。クラシック戦線での活躍が期待できそうです。

●すみい・かつひこ:1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後14年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(12月20日現在)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。競馬の他、馬文化普及や障害者競馬などにも尽力している。主な管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイアなど。

※週刊ポスト2016年1月29日号