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●FinTech投資に出遅れた日本
金融(Finance)とテクノロジー(Technology)から生まれた「フィンテック(FinTech)」という単語がここ1〜2年で急速に広まってきている。テクノロジーを駆使した新たな金融サービスをはじめ、家計簿サービスや企業向けのクラウド会計サービス、決済サービスなど多岐にわたって新たなプレーヤーが誕生している。

Venture Scannerが発表している業界マップでは、FinTech関連企業を19のカテゴリとしてまとめており、最新の数字でその企業数は1,434社。10月に公開した業界インフォグラフィックでは、企業の平均年数は6年。主に米国と英国、そして中国が業界をリードしている。

○日本国内のFinTech企業は?

日本にも、個人向けの家計簿ツールを提供するマネーフォワード、クラウド会計ソフト「freee」を提供するfreee、独自の生体認証技術を用いた決済手段サービスを提供するLiquid、画像を用いたスーパー乱数表でフィッシング攻撃を防ぐバンクガード、ロボアドバイザーを利用したETF特化型投資一任運用サービスを手掛けるお金のデザインなど、数え方によっても異なるが100社ほどのFinTech企業が存在する。

Accentureの調査によれば、2014年のFinTech関連ベンチャーへの投資額はグローバルで122億ドル(約1兆4,000万円)と、2013年の40.5億ドルから3倍以上に急増。一方で、日本国内でのFinTech投資額は2014年で5,500万ドル(約66億5,000万円)と出遅れが目立つ。

●注目を集めるブロックチェーン技術
そのようなFinTechの中でも、この秋頃からひときわ注目を集めるのが「ブロックチェーン技術」だ。

ブロックチェーン技術をベースとした汎用プラットフォーム「mijin」を提供するテックビューロは、先週あいついでニュース発表を行った。12月16日にはさくらインターネットとともにブロックチェーン実験環境「mijinクラウドチェーンβ」の無償提供を2016年1月から開始すると発表。12月17日には、アイリッジとの事業提携をリリースした。mijinを利用したスマートフォン向けアプリの共同開発を行うという。時期を同じく発表された野村総合研究所と住信SBIネット銀行が、ブロックチェーンの実証実験を開始するという発表では、同社のmijinの採用が明らかにされている。さくらインターネットとアイリッジはともに株価がストップ高となり、市場の関心の高さがうかがえるかたちとなった。

このブロックチェーン技術への期待には、すでに布石があった。NASDAQは5月に非公開株式の取引にブロックチェーン技術の採用を検討すると明らかにし、10月には取引システム「Nasdaq Linq」を発表した。このシステムの構築に関わったのはサンフランシスコを本拠とするChainだ。

9月には、R3 CEVが主導する、ブロックチェーン技術によって金融業界にどのような変革が起きるのかを探るプロジェクトに三菱東京UFJ銀行の参加が明らかにされた。参加する22社にはバークレイズやゴールドマン・サックス・グループ、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティ、モルガン・スタンレーなど錚々たるメンバーが並ぶ。

1年ほど前は、ブロックチェーン技術の説明に「ビットコイン(bitcoin)のベースとなっているテクノロジー」と説明されることが多く、2014年に経営破綻したMt. Gox(マウントゴックス)との記憶から"胡散くさい"などと思われた時期もあったが、すでに金融業界を中心に、取引を大きく変える可能性を持っているとの認識が定着している。12月18日、ガイアックスが主催して都内で開かれた「ブロックチェーンサミット」には、銀行や証券業界、FinTechスタートアップ関係者を中心に200名を超える参加者が集まり、改めてその関心の高さと広がりを印象づけた。

○ブロックチェーン技術とは?

注目の集まるブロックチェーンだが、どういったものかという説明はなかなか難しい。従来の中央集権型のシステムに対して分散台帳型などとも説明されるが、これではわかりにくい上にその一部しか説明しきれていない。

他社のコンテンツだが、ブロックチェーン技術の仮想通貨としての側面は「誰も教えてくれないけれど、これを読めば分かるビットコインの仕組みと可能性(TechCrunch)」がわかりやすい(が、非常に長い文章だ)。寄稿したのは、先のテックビューロ 代表取締役である朝山 貴生氏だ。

ブロックチェーン技術のメリットとしてよく挙げられるのは次の点だ。

・耐改ざん性
・耐障害性と高可用性
・コスト削減効果

だが、ブロックチェーン技術の最大の特徴は、やはり、信頼できる第三者機関を必要とすることなく所有権の移転をデジタル世界で実現可能な点である。仮想通貨(暗号通貨)の面からは、ほかにポイントシステムやゲームコインの管理などへの利用が想定され、価値の移転を指して、「(ハイパーテキストの通信プロトコル[http]やメールのプロトコル[smtpやimap]ように)ブロックチェーン技術は、マネーのプロトコル」ともされる。このほかにも、株式や証券、不動産などにも応用できる。

ブロックチェーン技術をより広範囲の取引や契約の管理システム「スマートコントラクト」として利用可能になれば、手形や小切手、より身近な例では電子書籍やデジタルクーポンといった所有権の移転をともなうサービスに対応することもできる。

さらにはIoT(Internet of Things : モノのインターネット)の広がりによって、センサーデバイスなどから収集されるさまざまなデータを、安全により低コストで管理するプラットフォームに応用する試みもある。

NASDAQの事例だけではなく、「ブロックチェーン技術はFinTechにおいて大変革をもたらすアイデア」(ドイツ銀行)、「ブロックチェーン技術によって2022年までに銀行業務のコストは(全世界で)150億ドル〜200億ドルほど削減できる可能性」(サンタンデール銀行)とするのは金融業界の期待だけではなく、焦りでもあるだろう。「インターネット」が世におよぼした変化に匹敵するともいわれるブロックチェーン技術、その中でテックビューロやOrbといった国内ベンチャー企業の活躍に期待したい。

(経営・ビジネス取材チーム)