カメレオンのようなチーム。イタリアのメディアは今のインテルを指してそう呼んでいる。なぜなら毎試合ごとに、選手の顔ぶれもシステムも変わってしまうからだ。ここまでのセリエAの16試合でインテルが使用してきたフォーメーションは16通り。一度としてスタメンに同じ11人を使ったことはない。しかし実はこれが現在セリエAの首位に立つインテルの強さの最大の秘密でもある。

 今シーズンのインテルは夏の選手放出がうまくいかず、30人の大所帯だ。ヨーロッパカップ戦もないチームにとってこれは明らかに多過ぎる人数だ。おまけに夏の移籍市場が閉まるギリギリまで選手の移動があったため、今のチームの形になったのは開幕直前。マンチーニ監督はぶっつけ本番で試行錯誤しながらチームを率いていくしかなかった。

 しかし、彼はそのハンデをアドバンテージに転換させた。毎回選手を変えて戦うことを逆手にとって、彼は選手全員にインテルへの帰属意識を持たせることに成功したのだ。大きな目標を手に入れたいのであれば、チーム全員が同じ気持ちでそれに向かわなければいけない。

 マンチーニは経験からそのことを知っている。選手時代、彼が所属していたサンプドリアは決して強豪チームではなかった。しかしチームのまとまりの良さだけはどこにも負けないものがあった。その結果。マラドーナのナポリ、オランダトリオのミラン、ドイツトリオのインテル、バッジョのユベントスを破って史上初のスクデットを獲得したのだ。

 今のインテルにはレギュラーも存在しないが、ベンチ要員も存在しない。選手たちは誰もが自分の地位が安泰ではないと知っているが、同時に自分にも必ずチャンスがあることを知っている。自分もスクデットを勝ち取るプロジェクトの一員であると誰もが感じているのだ。シーズン初めはまるで使われなかったにもかかわらず、長友佑都がインテルに留まり続けていたのは、いつか自分に出番が回ってくることをわかっていたからかもしれない。

 また逆に、長友のように控えに回された選手が次回の出場を信じて練習に励んでいるからこそ、この戦略がうまくいったとも言える。つまりこのカメレオン・インテルの成功は監督と選手たち、そして選手同士の良い関係があってこそ、なのだ。そうでなければ逆に誰もが自分の立ち位置を不安に感じ、疑心暗鬼に陥ってしまう可能性も大きい。

 昨シーズンのベニテスのナポリなどがそのいい例だ。ベニテスも今シーズンのマンチーニ同様、ほぼ週替わりのフォーメーションを使っていたが、それはあまりうまくいかなかった。ベニテスと選手の間に強い信頼関係がなかったからだ(現在率いているレアル・マドリードでも彼は選手に人気がない)。

 その点、選手たち仲の良さを表すエピソードは枚挙に暇がない。それをよく物語っているのが、今、インテルで大流行中のブロゾヴィッチ・ポーズだ。ブロゾヴィッチはこの夏、インスタグラムにバカンス中の写真をアップした。二人の美女とブロゾヴィッチが車に乗っている写真なのだが、そのブロゾヴィッチが顎に指を当て、あまりにもスカしているので、チームメイトたちがそのポーズをこぞって真似するようになったのだ。

 ゴールをしてもこのポーズ、試合に勝ってもこのポース。先日は試合後のロッカールームでマンチーニまでもがこのポーズをして写真におさまっている。興味がある人は#EpicBrozoで検索してみるといい。インテルの選手たちの親密度がわかる写真がたくさん見つかるはずだ。

 もちろん仲の良さだけがターンオーバー成功の秘訣ではない。共通意識を持って日々練習に臨んでいるので、誰がプレーしても同じインテルのサッカーができるというのも重要だ。また、今のインテルにはスーパースターといわれる選手はいないが、同じくらいのレベルの優秀な選手が揃っている。だから個々の選手の力に頼らなくてもすむ。

 たとえヨヴェティッチがゴールしなくても、イカルディがベンチでも困らないのである。その証拠に得点王ランキングのベスト10に入っているのはイカルディだけ、それも8位である。多くの選手がゴールを決めていることを物語っている。

 今シーズンのインテルのもう一つの特徴は非常に守備的なプレーにある。ここまでの得点は22とトップ5のチームの中で一番少なく、失点はといえばたった9ゴール。セリエAで失点数がひとケタなのはインテルだけである。

 とても効率的ではあるが、守備的で、華々しいスターのいないインテルのサッカーを"あまりにも地味すぎる"と非難する声も聞かれる。マンチーニもそのことは十分に承知だ。先日の記者会見でも、「我々は言うなればFiat500(チンクエチェント)だ」と、イタリアの国民的コンパクトカーにインテルをなぞらえている。しかしこう付け加えることも忘れてはいない。

「ただし最新型の、ね」

 2015年のセリエAは今度の日曜日で最後。その後選手たちはクリスマス休暇に入る。インテルはホームでラツィオを迎え撃つが、その結果を待たずして今年を首位で終えることはすでに確定している。しかしチンクエチェント・インテルは圧倒的にリードしているわけではない。追うフィオレンティーナとナポリとはたったの4ポイント差だし、スタートでは出遅れたものの、現在ユベントスがフェラーリのような猛スピードで追い上げてきている。

 インテルにとっては2016年も気の抜けない試合が続きそうだ。

利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko