独身は不利なの? 手取りに差が出るサラリーマンの税金・保険料天引き額の仕組みとは

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給料日に明細を見るたび「額面の給料が振込まれたらもう少し生活がラクになのに......」と思うサラリーマンは多いと思います。サラリーマンは、所得税に限らず住民税健康保険料・年金保険料・雇用保険料と選択の余地なく給料からこれらを天引きされてしまいます。意外と知られていない給与の天引きの仕組みを「独身」と「既婚扶養家族あり」で対比してみましょう。

なぜ天引きされるの?


会社=給与支払い者は、所得税の源泉徴収義務者(※1)となり、源泉徴収税額表(※2)にし従って従業員の給料から所得税を天引きし、本人に代わって所得税を納めます。同様に住民税(※3)も前年度の所得に応じた「所得割」と所得に関わらず定額を納める「均等割(自治体により異なる)」を合わせた額の天引きが義務付けられています。

健康保険法第161条2項(※4)にて、「事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う」と定められ、厚生年金法(※5)、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(※6)といった具合に、社会保険料はそれぞれの法律で給料からの天引きが定められています。「がんじがらめ」といえばそうですが、優良な納税者・被保険者といえますね。

所得税・住民税の課税ルールは、単純に給料の金額に税率が適用されるわけではありません。所得税・住民税の所得割部分に関しては、定められている用件に該当すると各種の所得控除が適用されるため、課税される金額が差し引かれ結果的に税負担が軽減されます。「独身」or「既婚扶養あり」で差が出るのは、この所得控除における配偶者控除および扶養控除です。

以下に具体的な例を挙げてみましょう。

【各例題の前提条件】
給与所得控除は、平成27年適用分。基礎控除および社会保険料控除、配偶者控除以外の控除は原則としてないものと仮定。配偶者は収入無し。住民税は、東京都江戸川区の場合。社会保険料は、厚生年金保険料・協会けんぽの健康保険料(※東京都・40歳未満)・雇用保険料を対象。社会保険料は、月収推定のため年収を単純に12分割したものとして算出。
※法人は、一定条件を満たす従業員に対して社会保険に加入させる義務がありますが、自前で健康保険組合に加入していない法人は、全国健康保険協会(協会けんぽ)を選択。都道府県別に保険料率が定められています。

≪年収300万円の独身者の年間負担≫

所得税・・・5万4,567円
住民税・・・11万6,500円
健康保険料・・・15万5,532円
厚生年金保険料・・・27万8,116円
雇用保険料・・・1万5,000円
税+社会保険料控除後の実質手取り額(可処分所得)=238万285円≒月収20万円を下回る

≪年収300万円の既婚扶養ありの年間負担≫
所得税・・・3万5,567円
住民税・・・8万1,000円
健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料は独身者と変わらず
(勤め先により配偶者手当・家族手当・扶養手当などの各種手当てが支給される場合が多い)
税+社会保険料控除後の実質手取り額(可処分所得)=243万4,895円≒月収20万円を超える

同一年収で独身者と既婚扶養ありを比較した場合、税負担が年間5万4,500円軽減されます。所得税は、超過累進課税(※7)という仕組みで収入が上がれば上がるほど適用税率が高まるため、所得税負担は相対的に「既婚扶養あり」が有利になります。

また、社会保険料は、扶養の有無に関わらず収入額に対して保険料を負担するので、家族一人当たりの実質負担額は相対的に低減され受益が増すため、これもまた「既婚扶養あり」に軍配が上がります。

とはいえ、家族がいれば胃袋などが大きくなることに加え、子どもが誕生すれば養育費・教育費の負担は重くのしかかるでしょう。一般的に子どもの一人当たりの教育費(※8)は、公立小学校で年間約30万円、公立中学で45万円、公立高校39万円程度かかります。

この試算には含まれていない勤め先独自の手当てや公的な児童手当を受け取ったとしても、「既婚扶養あり」のケースは、金銭的な余裕は乏しくなります。
とはいえ、家族をもって喜怒哀楽を分かち合い共に生きていくことの価値は、何にも代えられるものではないでしょう。種を残すことについて、損・徳で考えてしまうのは、人間界だけの性かも知しれませんね。

<執筆者プロフィール>
石村衛(いしむら・まもる)
FP事務所:ライフパートナーオフィス代表ファイナンシャルプランニング1級技能士(CFP)東洋大学卒業。メーカー勤務の後、FP事務所:ライフパートナーオフィスを横浜市戸塚区に開設。地域に根ざしたFP活動を志向し、住宅ローン、不動産・証券投資、保険、貯蓄・など一般家庭のお金にまつわる様々なアドバイスを行っている。 お金に係わる出前授業を小・中・高校で実施。また、高等学校の保護者会などで進学費用や奨学金・教育ローンの講演多数。東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザーとして活動中。

※ 1 国税庁:タックスアンサー 納税義務者とは
https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2502.htm
※ 2 国税庁:タックスアンサー 源泉徴収税額表
※ https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/zeigakuhyo2014/01.htm
※ 3 東京都の場合:東京都主税局 個人住民税
http://www.tax.metro.tokyo.jp/shitsumon/sonota/index_j.htm
※ 4 健康保険法 第161条2項
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/T11/T11HO070.html#
※5 厚生年金法 第82条2項
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29HO115.html
※ 6 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxrefer.cgi?H_FILE=%8f%ba%8e%6c%8e%6c%96%40%94%aa%8e%6c&REF_NAME=%92%a5%8e%fb%96%40&ANCHOR_F=&ANCHOR_T=
※ 7 国税庁:タックスアンサー 所得税率
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm
※ 8 文科省:平成24年度 子どもの学習費調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/01/10/1343235_3.pdf