モフセン・マフマルバフ監督

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 イランの名匠モフセン・マフマルバフ監督の新作「独裁者と小さな孫」12月12日公開する。物語の舞台を架空の国に設定し、地位を追われた独裁者と幼い孫の逃亡の旅を描いたヒューマンドラマで、2014年第15回東京フィルメックスでは観客賞を受賞した。来日したマフマルバフ監督が作品に込めた思いを語った。

 ヨーロッパで亡命生活を続けるマフマルバフ監督が、平和への願い、未来への希望を込めた作品で、罪のない人々を処刑してきた冷酷な独裁者が権力を握るとある国が舞台。逃亡生活を余儀なくされた独裁者は、変装しながら幼い孫とともに国外脱出を図ろうとする。

 9年前にタリバンに制圧されたアフガニスタンの惨状を目にしたことが、本作製作のきっかけだ。「この映画の独裁者はクーデーターなのか、あるいは革命で失脚したのかわからない。また、独裁者が大統領なのかどうかももわかりません。このような撮り方をすると、どの国にも当てはまる話になります。ひとつの国のひとつの問題ではなく、どこの国でもありえる物語として撮りたかったのです」と物語の舞台を架空の国にした意図を明かす。

 ジョージア(グルジア)でオールロケを行い、役者も、スタッフもすべてジョージアの人々を起用した。「ジョージアでは革命が起き、役者やエキストラも革命を経験しています。少し自由な風が吹いたところだったので、この話が撮りやすいと思いましたし、彼らは心を込めて演じてくれると思ったのです。国民の映画に対する姿勢も熱心です」

 暴力の連鎖を断ち切るのは難しいことだが、監督自身は今の世界に希望を持って変革を信じている。「希望を失ったら生きていけません。私だけでなく人類そのものが希望を持っていると思います。なぜならば、まだみんな結婚し、家族を作ります。学校にも行きます。それは希望を持っているからだと思います。私は映画人なので、世の中のネガティブなことを映画を通じて少しでも修正できたらいいなと思うのです」

 イランから亡命し、自身の命が危ない状況でも映画を作り続ける原動力は一体どのようなものだろうか。「私は映画人なので、映画からエネルギーをもらうということはありません。映画は私にとって、道具です。私にはひとつの人生の意味は、何か人のために動くことで、そこからエネルギーをもらえるのです」と強い意志を語り、「私たちは波のようなものだ。止まってしまったら終わりなのだ」というイランの詩を朗読する。

 自身は母国で映画を撮れない状況ではあるが、イランの現在の映画産業について問うと「今アジアの中では、イラン映画はとてもよいと思いますし、才能を持った若手がよい作品を作っています。映画人は人の痛みと夢を語るもの。今のイランの映画人はみんな自国の人々の夢を描いているのです。どんなに検閲が厳しくても、彼らはがんばっています。それはとてもうれしいことです。日本は残念ながら、そういう映画人、たとえば小津安二郎監督や黒澤明監督のように、人間の心を描ける監督が少なくなっているのではないでしょうか」とイラン映画界の状況と、近年の日本映画に対しての持論を語った。

 「独裁者と小さな孫」は、12月12日から東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。