『めちゃイケ』の″原点″に大久保佳代子は出演せず 理由は「笑えないブス」だから

写真拡大

1993年4月、フジテレビの深夜に伝説のバラエティ番組が誕生する。その名は『とぶくすり』。
出演者はナインティナイン、よゐこ、極楽とんぼ、光浦靖子(オアシズ)、本田みずほの8人。全員がデビュー間もない若手芸人である。木曜深夜2時15分からの30分枠という深すぎる時間帯とあって、半年であえなく打ち切りとなるが、90年代の『オールナイトフジ』的な番組『殿様のフェロモン』への参加や4度のスペシャル番組を経て、94年10月には平日深夜0時35分(金曜は1時20分)からの10分帯番組『とぶくすりZ』として復活を果たす。
早稲田大学での学園祭イベントチケットは15分で1,000枚が完売、代々木公園でのイベントには1万人以上が集まり、視聴率も深夜では驚異の6.8%を記録するなど、お笑い新時代の到来を感じさせるパワーがそこにはあった。

この時代こそが、後の『めちゃ×2モテたいッ!』、そして土曜夜8時の不動の王者『めちゃ×2イケてるッ!』(1996年10月スタート)へと連なる系譜の原点。お笑い新時代へと続く過渡期ならではの面白さを掘り起こしたい。

大久保佳代子がいない理由は「笑えないブス」だから!?


そもそも、なぜこのメンバーが集まったのか? それは『とぶくすり』の前番組『新しい波』の果たした役割が大きい。これは若手芸人のネタ見せ番組であり、そこでの各々の実力が買われた訳だ。

当時のナイナイは雨上がり決死隊やバッファロー吾郎ら若手6組で結成されたユニット『吉本印天然素材』の中で、人気・実力ともに頭ひとつ飛び抜けており、すでにアイドル的人気を誇っていた。
よゐこは独自の世界観を持つ新感覚のシュールコントで話題。「動」のナイナイに対して「静」のよゐこといった感じで、独自のスタンスを築いていた。
極楽とんぼは3組の中ではキャリアは1番上。リアルなキレ芸が持ち味で、何をするか分からない雰囲気もあり、通好みの目が離せない存在だった。
オアシズは当時女子大生コンビだったが、『とぶくすり』には光浦のみが起用されている。「光浦は笑えるブスで、大久保は笑えないブス。ブスは2人もいらない」という番組の意向によるものだそうだ。代わりに、アイドル芸人的な存在として本田みずほが加入とは、何とも気の毒な話である。

すでにめちゃめちゃイケてるッ!? 当時の芸風を振り返る


時代に選ばれた8人の若手芸人たち、大ブレイク前の彼らを振り返りたい。

岡村隆史(ナインティナイン)
「UFO仮面カケソバン」「タイガーマスク」などでキレのあるアクションを披露したり、「4ひろみ」「シゲル・マツザキ」などでリズム&ダンスの抜群のセンスを発揮したりと、その芸風は今と変わらず。パロディが得意なのも、体を張りすぎてケガすれすれの事が多かったのもこの頃から。
根っから真面目でいつでも全力投球、そんな岡村の頑張りにメンバーたちは引っ張られていたに違いない。

矢部浩之(ナインティナイン)
青木裕子との結婚以降、セレブネタにされやすい矢部が、この時点では実家の貧乏事情や家族の個性的なキャラクターをよくネタにされていた。矢部の実の祖父・藤四郎、10歳以上年の離れた弟・たつひろは岡村が演じる「ボケ満載の」人気キャラクターとなっている。無駄のない仕切りぶりもすでにこの頃から発揮。司会能力もすでに高かった。
振り返ってみると、ナイナイの二人はそれぞれの長所をさらに磨いていた期間だった。

濱口優(よゐこ)
番組開始当時は可愛らしいルックスで、よゐこのプリンス的存在だったが、下ネタに初挑戦し汚れキャラに開眼、新たな扉を開いて行く。おバカキャラは確立前だが、どじょうすくいをするコント「どぜう」などからおバカの本質はにじみ出ていた。ピュアな性格も今と変わらず、この頃からドッキリ企画にもよくはめられている。
共演している本田みずほと付き合うなど、モテぶりもすでに発揮。ファッションセンスも高かった。失ったものは大きいが、得たものはそれ以上。この番組と出会って最もブレイクした芸人だ。

有野晋哉(よゐこ)
番組当初はキレのあるボケで盛り上げていたが、徐々に背が高いだけの影の薄い人になっていく。「桜間教授」というハゲヅラキャラが唯一ぐらいで、出番も少なめ。しゃべることさえもレアな存在だった。ゲーマーキャラとしてブレイクする前の長い潜伏期間と言えそうだ。

加藤浩次(極楽とんぼ)
番組スタート時にはお笑い芸人なのに二枚目すぎていじりにくいとの評価だったが、出身地・小樽の田舎をいじられたり、当時の彼女「クリス(日本人)」がドッキリに登場したりで素をさらけ出しまくり、それまでの二枚目キャラは完全崩壊した。ちなみに、『とぶくすりZ』の頃には彼女は「ミキ」にチェンジしている。
やしきたかじんのパロディ「かとじんさん」や、料理研究家・結城貢のパロディ「結城先生」などは、清水アキラのセロテープ芸のような感じでイケメンを台無しにして奮闘している。
番組を通じて、常にキレ気味で声も大きく、コントでの当たりも強くなって行き、「狂犬」時代に突入して行く。後に良きパパや「朝の顔」になるなど、この番組時点では誰一人として想像できなかったはずだ。

山本圭壱(極楽とんぼ)
「こぶへい」「ハクション大魔王」など体型を活かしたパロディや、華麗なるタンバリンテクニックやダンスが得意。『めちゃイケ』全盛期に比べ20キロも軽かったためか、切れ味も抜群だった。
「クイズ王・マスタニさん」「AV男優・油谷さん」など、いそうでいないキャラクターを演じるのが得意の役者タイプで、「油谷さん」では自作の名曲も多数披露するなど、マルチな才能を早くから発揮していた。この時点でのお笑い能力の高さはナンバーワンかも知れない。後に、持ち前の「危ない感じ」がリアルに出てしまったのが残念。

光浦靖子(オアシズ)
本田みずほに嫉妬し、「馬鹿だ」「ヤ○マンだ」と悪口三昧。性格の悪いブスキャラはコントよりもトークコーナーで真価を発揮していた。相方の大久保佳代子は、この頃の視聴者のほとんどが存在すら知らなかったと思われる。この時点では不遇のコンビ。

本田みずほ
関西での人気をバックに参加で、番組スタート時の知名度はナンバーワン。ただ、番組内ではコントに登場する普通の人といった役回りが多かった。濱口との交際は、『とぶくすりZ』の放送開始前から。番組終了後に週刊誌にスッパ抜かれたためか、表舞台から姿を消し、『めちゃモテ』以降は出演していない。後に一般人と結婚し、芸能活動も再開している。

『とぶくすり』には「危険な薬」と「クスリと笑う」の意味が込められている。確かに、プライベートの切り売りも盛んで過激な笑いも多く、荒削りなコントでの予期せぬハプニングにクスリとしてしまうことも多かった。
自由の利く深夜の時間帯だったから、失うものがないブレイク前の若手だったから、90年代という時代性など、成功理由は数あるが、やはりこの8人だったから最高に面白かったのではないだろうか。

フジテレビは同じような「若手お笑いチーム番組」を何度も生み出しているが、その後の栄光を見ても、この『とぶくすり』メンバーが生み出す面白さがずば抜けていたと断言したい。
今、この8人が揃ったら「劇薬」か?それとも「毒薬」か?「とぶくすり」が処方される日をいつまでも待ちたいと思う。
(バーグマン田形)
「クイック・ジャパン 113」