マイル戦(1600メートル)は馬の適性がもっとも顕われる距離だ。角居厩舎では2005年に通算8勝の牝馬・ハットトリックが勝っている。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、マイル戦がどれほど競馬の基本となっているかについて、角居氏が語る。

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 マイルCSに続いて香港マイルまで勝ってくれたハットトリックは、角居厩舎が初めて手がけたサンデーサイレンス産駒でした。貴重なサンデーサイレンス産駒が開業当初の厩舎に身を寄せてくれたことは僥倖でした。キャロット(クラブ法人)初の重賞勝ち馬でもあります。

 デビューは少し遅くて3歳の5月。3戦(2勝)後、うちに転厩してきました。条件戦を連勝してオープン入りし、2005年の京都金杯、東京新聞杯まで4連勝しました。勢いを駆り、4月のマイラーズC(9着)をはさんで安田記念に挑戦。これはさすがに敵いませんでした(15着)。しかし勝ち馬との着差は1秒ジャスト。しっかりと夏を越せば逆転できると確信しました。

 秋の天皇賞で7着と善戦後、マイルCSに挑戦。後方12番手から決めた直線一気は鮮烈でした。2着はGI5勝のダイワメジャーですから、強い競馬でした。

 ただ、その後はなかなか勝てなかった。今にして思えば、調教技術が追いつかなかったのでしょう。背中がしっかりしてきてパワーが増してくると、故障のリスクも上がります。上体の成長に比べて、脚はそれほど強くないからです。それを恐れるあまり、遠慮がちの調教になっていたのかもしれません。

「ちょっとぬるくない? 力が付いてきてるんだから、もっと厳しく追ってくれてもいいのに」

 そんなことを感じていたのかもしれませんね。引退後は海外で種牡馬生活を送り、多くの活躍馬を出しています。

 さて、マイル戦について少し話します。マイルは日本人に馴染みの単位ではありませんが、競馬関係者、そしてたぶん馬もその重要性をきっとわかっています。

 マイルは馬の距離適性を見る分水嶺です。マイル以下(1200メートル、1400メートル)のレースでは、スピードだけの一本調子の競馬でも勝てる。しかしマイルはスピードも必要ですが、どこかでタメを作らなければいけない。ジョッキーの指示をきちんと聞けるかどうか。ここに適性が顕われる。ヨーロッパではマイル以下の距離の競馬は重要視されません。

 角居厩舎ではスピード豊かな新馬でも、まずはマイルを走らせます。長い距離をきちんと走れる馬に育てたい。結果的にマイラーに育つのもいいのですが、最初はそこが目標ではないということです。

 JRAの平地GIのおよそ3分の1はマイル戦です。右回りか左回りかといった違いや、コースの特徴なども差がありますが、マイルの駆け引きの重要さという面ではあまり違いはありません。

 どのコースも、ゴール前の直線が見ものです。どこでタメを作っているのか。馬がジョッキーの指示にきちんと反応しているのか。そんな視点で競馬を見ると面白いのではないでしょうか。

※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号