文化庁が発表した『平成26年度 国語に関する世論調査』で、日本語の乱れを感じていると答えた人はおよそ7割。なかでも”見たことがある言葉”を正しいシチュエーションで使えない人が増えているという。

「語彙力の低下は否めませんね。塾の教室で飛び交う言葉を聞いていても、会話の反応がワンパターン。”すごい””やばい”という単語だけで会話をしているようにも感じます」

こう語るのは東大を学科首席で卒業し、現在は予備校で国語の指導に当たる日本語のスペシャリスト・吉田裕子先生。現役高校生と日々関わり、日本語力の低下を顕著に感じているというが、これは大人にも言えることだと警鐘を鳴らす。

「20歳前後では4万〜5万語の語彙を持つと言われているのですが、そのうち会話で使っている言葉は若い人で6000語程度。これは幼稚園児が知っている言葉とほぼ同等です。せっかく言葉を知っていても、使えなくては幼く感じられます」(吉田先生)

高校生は電子辞書を持っているため、意味がわからない言葉を辞書で調べる習慣があるが、大人についてこう指摘する。

「大人は新聞やテレビなどを見て知らない言葉に直面しても、いちいち辞書を引くことはせず、前後の文脈やこれまでの経験則から、わからない言葉の意味を類推します。それゆえ語彙が広がらず、間違えた意味で覚えてしまう。あげく、そのまま使ってしまう人が多いのです」(吉田先生)

例えば『意味が間違えられやすい日本語』の表に出てくる”うがった”という言葉。これは”疑った”という言葉から類推しているのではないかと吉田先生は分析する。

“やぶさかでない”も、”〜ない”という打ち消しの語句が入っているため、消極的なニュアンスとのイメージが定着してしまった。

「最近では、テレビや本もカジュアルな言葉を用いたものが多い。硬派なニュース番組や本であったとしても”難しすぎる言葉は使わない”という方針の場合も。メディアの情報も平易な表現が使われがちです」(吉田先生)

誤用された言葉が、そのまま間違った意味で世間に浸透してしまった例もある。

「新しい意味を知らないと、正しい言葉の使い方をしても、逆に教養がないととらえられることがあり、厄介。テレビで有名人が使った用法から意味が類推され、そのまま定着してしまった場合もあります」(吉田先生)

顕著なのが”潮時”という言葉。スポーツ選手が引退会見などで使い、”引き際”という意味で使われるが、”物事にちょうどいい時機”が本来の意味だ。

また、平成ノブシコブシ・吉村崇の代名詞ともいえる”破天荒”も誤用されがち。

「本来、”誰もなしえなかったことをすること”という意味ですが、新車を破壊するなどの荒々しさや大胆さを指すような意味に変わってしまいました。実際の言葉の意味とは大きくかけ離れてしまっています」(吉田先生)