『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督があふれる思いを激白

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ハリウッド進出作品『ラスト・ナイツ』(11月14日公開)を手掛けた紀里谷和明監督にインタビュー。『CASSHERN』(04)、『GOEMON』(09)と、作風的には常に“攻め”の姿勢を取る一方で、映画界そのものを常に広い視野でとらえてきた映像作家だと思う。『CASSHERN』(04)からこれまでの足跡を「イバラの道だった」と言い切った紀里谷和明監督。そのインタビューの後編をお届け!

【写真を見る】クライブ・オーウェン演じるライデンと愛する妻ナオミとのキスシーン/[c]2015 Luka Productions.

初のハリウッド映画、しかもこれまでにないスケールの大作だ。クライブ・オーウェンやモーガン・フリーマンらそうそうたる俳優陣を演出することへのプレッシャー、プロデューサーとしてのファイナンスの管理など、いろんな課題が山積みとなり、紀里谷監督は、一時期まさに背水の陣に追い込まれる。そして『ラスト・ナイツ』の撮影中、遂に映画監督をやめようとまで思ってしまったが、そんな時に、モーガン・フリーマンの一言が、彼を奮い立たせた。

「モーガン・フリーマンが休み時間に、僕のところへ来てくれて、『君は大丈夫だから』と言ってくれたんです。それを聞いて救われました。もちろん、過去に追いつめられたりする局面は何度もあって、そこでは『大丈夫だ』と自分で言えていたんです。でも、いま振り返って考えてみると、『ラスト・ナイツ』での追い詰められ方は、いままでの比じゃなかった。いままでの悩みなんて、本当にちょろいものだったなあと」。

さらにせきを切ったように「一瞬、死んでしまおうと思ったこともありましたから」と、赤裸々にあふれる思いを吐露していく。

「いま自殺すれば、この苦しみから救われるのかとまで考えました。自分は監督に向いてないと思ったんです。でも、どういうわけか、モーガン・フリーマンが僕のところへ来てくれて『俺はいままでいろんな監督と仕事をしてきたからわかるけど、お前は監督を続けて大丈夫だから』と言ってくれたんです」と言って、しばらく言葉を詰まらせる。そして、ゆっくりとした口調で「なんていうか、これからも人生を映画に捧げようと思いました」と言葉をかみしめた。

「やっぱり支えられているんです」と言った後、彼の表情が晴れやかなものとなる。「クライブも、伊原(剛志)さんも、アン・ソンギさんもそうですが、あれだけのキャリアを持っている人が見ると、『こいつ、アップアップじゃないかよ』みたいなことがわかるんでしょうね。寒い環境はもちろん、撮影日数が少なすぎたんです。時々、カットカットの間に、僕があたふたしていると、アン・ソンギさんがニコッと笑ってくれたりする。そういったことにも救われました」。

『CASSHERN』や『GOEMON』の撮影時にも、三橋達也、寺尾聰、大滝秀治などのベテラン勢が、同じようにサポートしてくれたそうだ。紀里谷監督は「そういう巡り合わせの連続なので、すごくありがたいです」と心から感謝する。

「今回だって、ペイマン・モアディ(イラン)やアクセル・ヘニー(ノルウェー)など、主要キャストは全員、母国では国民的スターです。ショーレ・アグダシュルーだって『砂と霧の家』(03)でアカデミー賞にノミネートされた女優さんだし、どういうわけか、そういう方々とご縁をいただけていることが、すごくありがたい。監督とは、極めて孤独な立ち位置にいるから、誰にも相談するわけにはいかないし、口が避けても苦しいとか、わからない、迷っているなんて言えない。でも、そのクラスの方々から見ると、僕の状態なんて一目瞭然にわかるんでしょうね」。

紀里谷監督は、すべてがつながっていたと断言する。「『ラスト・ナイツ』がクランクアップした時、だから僕は、こういう人生を歩んできたのかと納得したんです。自分の親父がパチンコ屋で、工事現場では監督として土木作業員の方たちを仕切ったりもしていたんです。僕はそこで育ったようなものなので、子供の頃から、常に土木作業員の人たちがどういうふうに動くのかを見ていました。それが映画監督の仕事にも生かせたかなと。

また、1人で15歳で渡米したから、英語でのコミュニケーションが取れる。音楽をやったり、いろんな場所を放浪してボロボロになったこともあったけど、そういう経験がすべてつながっていたなあと。親父が商売人だからファイナンスの勉強もしたし、全部がこの日のためにあったんだと実感しました。だから、やり切れたという喜びと同時に、いままでの人生で、迷ったり苦しかったりしたことが、今日に結びついたんだと思いました。本当に神さまはいるんだなあと思いました」。

この10年間、ずっと映画の勉強をしてきたと語る紀里谷監督。「やっとすべてのツールが揃って、いままでなかった絵の具が手に入り、新しいブラシを変えて、スタートラインに立てた感じがします。たぶん次に作るものは、前3作と全く違うものになると思います」。

1時間超のインタビューで、たっぷりと映画監督・紀里谷和明と話せたが、私自身、いろんな発見があった。この方、実は全く敵を作らない人で、映画人すべてが同志という考え方の人なのだ。だからこそ、スタッフやキャストとも真摯に向き合い、感謝の念を忘れない。また、周りの関係者やライターで、紀里谷監督に接した人たちが、こぞって紀里谷和明監督の応援隊の一員になっていくことにも納得がいった。どうか、今後も高い志のまま、メガホンをとり続けていってほしい。【取材・文/山崎伸子】