ジュリー・テイモア 撮影/若林ゆり

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 ブロードウェイで大成功を収め、いまだに人気が衰える気配がまるでないミュージカルといえば「ライオンキング」。成功のカギは、誰もがアッと驚くほど大胆で独創的な演出にあった。その演出を手がけたのが、天才演出家にして映画監督のジュリー・テイモアだ。そのテイモアが、ニューヨークのブルックリンにある小劇場、Theater For A New Audience(TFANA)でシェイクスピアの「夏の夜の夢」を上演したのは2014年のこと。もちろんチケットは瞬殺で完売、大評判をとって4カ月の公演を終えた。しかし、見逃したからと悔しがるのはまだ早い。この公演がテイモア自身のメガホンで映画として完成し、日本への上陸を果たしたのだから。

 「実はこの映画は、まるでアクシデントのように突然、降って沸いた話なの」と、テイモアは語りだす。「最初は映画として撮るつもりなんてまったくなかった。そのとき、別の映画の企画をオファーしてくれたプロデューサーに『いま私が演出した舞台が上演中だから見に来て』と言ったら見てくれて。すぐに『これこそ映画にすべきだ』っていう話になったの。そのときはもう、千秋楽まであと2週間という時期だったから大慌て。5日間で準備を全部整え、1週間ですべての撮影を終えたのよ」

 しかもこの映画は上演している舞台をただ撮影しただけというものではない。映画的な手法を駆使した「映画と舞台のハイブリッド」なのだ。

 「撮影監督をしたロドリゴ・プリエトは『フリーダ』で組んだ才能あふれるカメラマンだけれど、舞台の撮影はしたことがなかった。ほかに演劇の撮影に長けている人たちも3人、入ってもらったわ。夜の公演が始まる前の昼間の時間帯に、観客にも入ってもらって撮影のための公演を4回やってね。映画と同じように途中で止めて、カメラに張りついて演出をしながら撮ったの。カメラが舞台上に上がって俳優のすぐそばに寄ったり、俯瞰で撮ったり、いろんなアングルで撮ったわ。俳優に『もっと演技を抑えて』と言ってクローズアップを撮ったし、ささやくようにセリフを言ってもらったところもある。映画的な演出ね。そうして撮った80時間分のフッテージから、ベストなところを選んで編集したわけ。編集には10週間たっぷりかけたわ。だから映画の観客は、舞台の観客よりいい席でこの作品を鑑賞できるってことになる。たとえばティターニアが長いセリフをしゃべっているシーンでは、それを聞いているオーベロンの表情をアップで映している。これは客席にいたら見えないところだけど、私のお気に入りのカットよ」

 この不思議な物語がシェイクスピア作品の中でも高い人気を誇っている理由の1つは、「愛の本質について描いているから」だとテイモアは言う。さらにテイモアの見解では「それと同時に結婚という制度についての物語」でもあるという。

 「愛というのは自然で自由なものよね? でも、結婚というのは自然ではない。愛をルールでがんじがらめに縛る制度なの。だからこれは、結婚に至る前の一瞬、愛が元来もっているクレイジーでワイルドな、ドラッグみたいな自由さをめいっぱい発揮するところを描いているの。結婚という制度に潰されてしまう前にね。これはコメディだけれど、とても悲劇的な側面ももっているのよ。シーシアスが敵国の王女ヒポリタをレイプして、征服したところから始まるんだから。一方でハーミアは、父親の決めた相手と結婚しないなら死ぬしかないなんて、悲劇でしょ? そんな真っ暗などん底から始まって、どんどんアップしていくの、明るい光の方へとね」

 この物語を、まるで舞台の客席に座って世界に入り込んでいるという気分で楽しめるのは感動的なこと。「それこそ、私がこの作品に求めたことよ。観客も写っているけれど、じきに忘れるでしょう。文楽でも3人の黒子が見えるけど、忘れるのと一緒ね。でもこれは演劇なんだという意識はあってもいいと思うの。素晴らしい二重構造だと思うわ。スタンリー・トゥッチがパックをやった映画と比べたりしないでよ(笑)。あの映画が失敗していると思うのは、本物の森が出てくるべきなのにものすごくニセモノっぽく感じてしまうところ。子どもたちを持ち上げて森を作ったほうがよっぽどマジカルだと思うわ。これは演劇のもつマジックなの。小さな森の精をCGで作って飛ばすより詩的よ」

 「夏の夜の夢」は11月13日からTOHOシネマズ日本橋、大阪ステーションシティシネマで公開。その後、全国で順次公開される予定。