11月1日に行なわれるGI天皇賞・秋(東京・芝2000m)。伝統の一戦を占ううえでカギを握るのは、目下3連勝中の逃げ馬、エイシンヒカリ(牡4歳)だろう。

 昨年4月にデビューした同馬は、ここまで9戦8勝。今年に入ってからは、武豊騎手を背にして、すべて"逃げ切り"勝ちを収めて3連勝を飾っている。豪華メンバーがそろった前走のGII毎日王冠(10月11日/東京・芝1800m)でも、マイペースの逃げで後続を完封。今回も、同じ戦法を取ることは間違いないだろう。

 この注目の逃げ馬に対して、天皇賞・秋における「徹底マーク」を宣言した馬がいる。1番人気が予想される、ラブリーデイ(牡5歳)だ。同馬は、6月のGI宝塚記念(6月28日/阪神・芝2200m)を制して初のGIタイトルを獲得すると、同レース以来となった前走のGII京都大賞典(10月12日/京都・芝2400m)も快勝。今年だけで重賞5勝をマークし、天皇賞・秋でも中心的な存在となる。

 そのラブリーデイが、逃げるエイシンヒカリを早めに射程圏にとらえた競馬を仕掛けていくという。とすれば、考えられるのは"前がかり"のレース展開。人気馬たちの、早め、早めの仕掛けによる消耗戦が予想される。

 そこで思い出すのが、2013年の天皇賞・秋である。

 その年の天皇賞・秋は、実に今年と状況が似ていた。レースのカギを握ると言われていたのは、エイシンヒカリと同じ逃げ馬のトウケイヘイロー。しかも、武豊騎手騎乗で3連勝を飾ってのGI挑戦と、臨戦過程もほぼ同じだった。そしてトウケイヘイローは、レースでも果敢な逃げを打った。

 すると、同馬をきっちりマークする馬がいた。好スタートからややかかり気味にいって、トウケイヘイローの直後につけたジェンティルドンナである。ジェンティルドンナの場合、引っかかったことで図らずも「徹底マーク」する形になったわけだが、前年に牝馬三冠(桜花賞、オークス、秋華賞)を達成し、ジャパンカップ(東京・芝2400m)まで制した同馬は、1番人気に支持された断然の中心馬だった。今年で言えば、まさしくラブリーデイのような存在である。

 はたして、トウケイヘイロー、ジェンティルドンナという人気馬2頭が先手を取ったレースは、他馬の先行意識も煽(あお)って、前半1000mが58秒4という速いペースを生み出した。さらにそのまま後半も、密集する先行馬群が早仕掛けに逸(はや)る"前がかり"の展開となっていったのである。

 その結果、先行馬には苦しい直線となった。逃げたトウケイヘイローは、早々に失速して10着。ジェンティルドンナも2着を死守するのが精一杯だった。息つく暇のない、早め、早めの"消耗戦"が、前行く馬たちの余力を奪ったのだ。

 そんな中、直線で破格のスパートを見せたのは、5番人気のジャスタウェイだった。当時はまだ、伏兵の一頭に過ぎなかった同馬は、前へ急ぐ先行馬群に加わらず、あくまで自分のペースで中団からやや後方を追走。直線では、早仕掛けした有力馬の脚が上がるのを横目に、中央から豪快に突き抜けた。

 人気馬が生んだ前がかりの展開は、結果的に5番人気の伏兵馬が勝利するためのアシストになったのである。

 そして、今年の天皇賞・秋は、このレースと同じ展開が予想される。つまり、「穴馬」を探すヒントは、そこにある。前がかりの消耗戦が想定される中、ジャスタウェイのように後方に待機して、末脚を秘める馬に"金星"をつかむ可能性があるのではないか。

 まずは、当時のジャスタウェイが置かれた状況を振り返ってみたい。天皇賞・秋を迎える前、ジャスタウェイは重賞で3戦連続2着(エプソムカップ、関屋記念、毎日王冠)。「GIでは一歩足りない」と見られていた。

 ただし、同馬はその3戦すべてで、上がり3ハロンの最速タイムをマーク。レースごとに成長を重ね、非凡な能力を秘めていたことは間違いない。敗れた3戦は、「あくまでも展開に左右されてのもの。脚を余して敗れた」という見方もできる。実際、前哨戦となる毎日王冠では、GI2勝のエイシンフラッシュと僅差の勝負を演じて、GIで通用する力は示していた。

 そこから導き出されるキーワードは、「非凡な能力を秘めている」こと、「近走で脚を余して敗れた追い込み馬である」ということだ。浮かび上がるのは2頭、アンビシャス(牡3歳)と、ステファノス(牡4歳)である。

 3歳のアンビシャスはかつて、二冠馬ドゥラメンテや、皐月賞、菊花賞2着のリアルスティールと接戦を演じてきた実力馬。クラシックには出走しなかったものの、オープン特別のプリンシパルS(5月9日/東京・芝2000m)、GIIIラジオNIKKEI賞(7月5日/福島・芝1800m)と連勝。特にラジオNIKKEI賞では、後続を3馬身半突き放す圧勝劇を演じた。

 一方のステファノスも、今年はGII中山記念(3月1日/中山・芝1800m)で、GI馬2頭(ヌーヴォレコルト、ロゴタイプ)に次ぐ3着に入ると、海外GIのクイーンエリザベス2世C(4月26日/香港・芝2000m)で2着と健闘。GIクラスの力があることを見せてきた。

 それぞれ十分な能力を秘めていて、前走の毎日王冠でもその片鱗は見せた。ともにスローペースに屈したものの、アンビシャスは最速の上がりタイムをマークして最後方から6着まで浮上。ステファノスもアンビシャスに次ぐ上がりタイムを記録して、後方3番手から7着まで追い上げた。

 それも、完全に脚を余してのもの。本番の天皇賞・秋が、実際に前がかりの展開になれば、大仕事をやってのける可能性は大いにある。

 さらにもう一頭、ジャスタウェイに似たタイプの馬がいる。ヴァンセンヌ(牡6歳)である。

 ヴァンセンヌは、前走の毎日王冠では2、3番手の好位につけながら、9着と大敗した。しかしこれは、スタート直後に引っかかって先行してしまった結果であって、度外視していい。それよりも、注目すべきは、今春の走りである。

 GII京王杯スプリングC(5月16日/東京・芝1400m)と、GI安田記念(6月7日/東京・芝1600m)に挑んだヴァンセンヌは、ともに後方から追い込んで2着となっている。両レースとも最速の上がりタイムをマークし、しかも後方待機で上位に入ったのは同馬だけ。まさに、僅差の2着が続いたジャスタウェイを彷彿とさせるレースぶりだった。

 もし同馬が本来の追い込みスタイルに徹して天皇賞・秋に挑めば、ジャスタウェイの再現があってもおかしくない。

 有力馬の思惑が交錯する天皇賞・秋。激しい消耗戦が伏兵馬の台頭を招くのか。あるいは、人気馬がその実力を見せつけてタイトルをつかむのか。一線級の馬たちがしのぎを削る戦いを、じっくりと見届けたい。

河合力●文 text by Kawai Chikara