大水害の直後、ツイッターなどでは「もう大仏建立しかない!」などの意見が多数書き込まれ「大仏建立」がトレンドワードにランクイン…。(C)田中十洋

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今年も日本列島は多くの災害に見舞われているーー。

阿蘇山、桜島、口永良部島などでは大規模な噴火が続発。桜島では噴火警戒レベル4(避難準備)まで達し、さらに阿蘇山中岳の第1火口の大噴火では約60キロ離れた福岡県筑後市でも降灰が確認されたほどだ。

また、首都圏に近い箱根周辺でも観測史上に例をみない頻度で群発地震が発生するなど、まさに日本列島が揺れに揺れた。

天災は空からもやってきた。近年、恒例となり、ますます激しさを増す局地的な大雨。9月に関東・東北を襲った台風18号では、未曾有の集中豪雨により茨城県の鬼怒川の堤防が決壊するなど各地に大きな爪痕を残した。

その大水害の直後、ツイッターなどでは「もう大仏建立しかない!」「大仏だ、大仏を建立すれば全て解決だ」との意見が多数書き込まれ、「大仏建立」がトレンドワードにランクインする事態に…。

突如、噴出した大仏待望論だったが、1ヵ月以上経過した現在でも、SNS上などで同様の声が散見される。

大仏建立待ったなしーーそこで気になったのが建設コストだ。奈良や鎌倉などの歴史的建造物以外にも、日本全国には“新参”の大仏・巨大観音が多々存在するものの、果たしてあれって、いくらぐらいでできるものなのか? ということで、「大仏・巨大観音の建設コスト」についてリサーチしてみたところ…。

■現代の大仏建設コストは奈良時代の100分の1?

「総工費ですか? 40億円かかりました」

サラッとそう話すのは、“杜の都”宮城県仙台市の郊外にそびえ立つ「仙台大観音」(大観密寺)の担当者。1500億円とも2500億円とも言われる新国立競技場の建設費に比べると、かなりリーズナブルなお値段である。

ちなみに仙台大観音の高さは実に100メートル。起工(1988年)の翌年が仙台市制100周年だったことにあやかっているという。つまり、その記念事業的なものとして建立された?

「いえ。地元の実業家が日々、観音さまに手を合わせていたことで、手がけていた宅地開発が成功。これが『観音さまのお陰』ということで、彼が出資し着工したものです」

地元の実業家、すげー。尚、仙台大観音は内部にも入れる構造になっており、1階にはお土産やお守りなどが買えるショップも併設されている。

また、もうひとつ総工費を教えてくれたのが、群馬県高崎市の「高崎白衣大観音」(慈眼院)。

「建立工事費は当時の金額で約16万円といわれております」

えっ…た、たったの16万円ですか! しかし、高崎白衣大観音の建立が始まったのは、1935年。コメ1俵の値段が10円台(現在は約1万3千円)だったことから単純計算で現在の価値に換算すると、その建設費用は2〜3千万円といったところ。とはいえ、激安だ。こちらも地元の有力実業家であった井上保三郎氏が私財を投じたという。

■個人がつくった大仏も!?

続いて、愛知県江南市にある通称「布袋の大仏」は、「大仏シャロン整骨院」の主人が所有する建物と一体化した珍しい構造の大仏だ。

この大仏は、個人所有のものとしては日本最大級の仏像だという。

それにしても、なぜ一整骨院が大仏を建立したのか。同院の主人が次のように教えてくれた。

「建立したのは先代です。先代は戦時中に従軍し、銃の暴発で片目を失明。以後、軍役からは解かれましたが、仲間たちが戦地で命を落としたため、その供養として大仏を建てたのです」(現院長)

建立から60年超。B級スポットフリークの間では有名なこの大仏さまの総工費について聞いたところ、「1950年頃に完成させたものなので、ちょっとわかりませんね…」とのこと。

一方、“ギネスに載った”大仏として、たびたびTVに取り上げられるのが茨城県牛久市にある「牛久大仏」。その高さはなんと120メートルで、都内の東京スカイツリーや六本木ヒルズからも見えることがある。

こちらの広報担当者は建立の理由をこう語る。

「牛久大仏のお寺は浄土真宗(東本願寺)。開祖の親鸞聖人はここ茨城県(常陸国)で20年にわたり根本経典『教行信証』を書かれました。茨城県で浄土真宗が産声をあげたといっても過言ではないくらい、親鸞聖人ゆかりの地であるのです」

では、この120mの超巨大な大仏さまを造るのにどれほどのお金がかかったのだろうか?

「申し訳ございませんが、大仏さまは造られたものではなく、顕(あらわ)れてくださったものなので、それはちょっと…」

なるほど。…って、いやいやそんなウマいこと言われても(苦笑)。

■国家事業として反発、負担のないものを…

最後に、2010年に奈良の大仏の総工費(大仏殿を含む)についての調査を発表したことがある、関西大学の宮本勝浩教授にズバリ、聞いてみた。

「奈良の大仏の建設コストを現在の価値に換算すると4657億円に上ると試算しています。算出の根拠は、銅や鉛などの材料費が3363億円。あと人件費でプラス1292億円となっています。

ちなみに、当時の国家予算の2〜3年分に当たる経費が大仏建立に充てられたという説があり、国民には多額の税が課せられていた可能性も高いですね」

うーん、現代で同じ規模のものを造るとなると、なかなか難しそう。仮に政府がこの金額をかけて大仏を造るとなったら、おそらく日本全国で新国立以上の反大仏建立デモが起きるのは必至?

とはいえ、奈良の大仏(15メートル)より遥かに大きい仙台大観音(100メートル)が100分の1以下の40億円で、高崎白衣大観音(41.8メートル)に至ってはたった16万円(※現在の価値で約2〜3千万円)で完成しているのも事実。それを考えると、少なくとも数十億円のコストで、かなり立派な大仏ができたりするのでは…。

もちろんピンキリであり、単純に比べられるものではないが、それこそ国民からの義援金や寄付・お布施を募り、これくらいだったらという見合った大仏を造るのはアリのはず。

皆の祈りや思いがこもったものこそふさわしいわけで、それで続発する災害が少しでも収まれば、と切に願うが…。

(取材・文 藤麻迪)