スティックやハンディ、ロボットなど掃除機は多様化するとともに、複数台所有して用途や場所にあわせて使い分ける時代になりつつある。近年はスティック型で手軽に掃除する人が増えているとはいえ、“家中をしっかり掃除する”となると、パワーや持続性、集じん容積に優れるキャニスター型が有力。そんなキャニスター型の中でも強い吸引力を誇るのが、2014年に登場した日立のサイクロン式掃除機「パワーブーストサイクロン」だ。小型ながらも吸込仕事率420Wを実現し、“55kgの人を持ち上げる”実力は注目を集めた。

その後継機「CV-SC700」が、7月18日に発売される。「CV-SC700」は前モデル以上に高い吸引力を達成しているが、最大のポイントは“ヘッド”。床面との気密性を高めることで、従来よりも素早くしっかりとゴミを取り除くことができるようになったという。発表会で見てきた、その機構のヒミツと実力をご覧あれ。

ディープレッドとディープシャンパンの2色展開で、市場想定価格は80,000円前後

“しっかり吸じん”にこだわったサイクロン式掃除機「パワーブーストサイクロン CV-SC700」

掃除機を選ぶ際の指針となるスペックに「吸込仕事率」があるが、吸込仕事率はヘッドを外した状態で測定・算出された数値。ゆえに実環境では、いかに吸込仕事率が高くてもヘッド性能が劣れば、パワーを最大限に生かせないほか、吸じんが効率よく行えない可能性もある。つまり、“吸込仕事率が高い=ゴミがよく取れる”とは言い切れない。そこで、日立は“しっかりとゴミを取る”ために、ヘッドを一新。床面との気密性が高まる機構を設けて、目地に詰まった微細じんもキャッチできるようにした。

前モデルとブラシ部分は同様だが、「CV-SC700」のヘッドには中央に大きく開いたスペースがある

新ヘッドのポイントは2つある。まず1つ目は、ヘッド裏に配置された大きな吸込口。この部分が高気密になることで高速風が発生し、ゴミを勢いよく前後から吸引する。しかし、これだけでは操作性に問題が生じてしまう。床面に密着すれば微細じんまで取りやすくなるが、圧力によりヘッドが動かしづらくなってしまうからだ。“気密性を高めたまま、動かしやすい”という相反する状態を両立するために用意されたのが、2つ目のポイントとなるヘッド上部に設けられた空気の取り入れ口。上部から引き込まれた空気の流れが、ゴミなどを吸引する高速風にぶつかることで床面とヘッドの貼りつきを抑える。

写真上の黒色と水色のパーツに挟まれた所が高気密になる。それにより密着度が増す床面とヘッドを緩和するために、写真下の銀色の部分から空気を取り込む

2つの空気の流れを視覚化しすると、ゴミを掃除機に吸い込むための高速風は緑の矢印、床面に吹きつけられる風は青い矢印となる。ヘッド上部から流れる風(青い矢印)は、フローリングなどの目地にあるゴミを浮かせる効果もあるという

新ヘッドと従来ヘッドとの吸い込みの違いを見てみよう(下の動画参照)。深さ20mmの溝に入れた砂を吸ってみると、新ヘッドのほうは上部から風が吹き付けることにより砂が舞い上げられ、素早く除去された。

上の動画で披露された新ヘッドの実力を、会場で実践。従来ヘッドを搭載した前モデル「CV-SA700」と新ヘッド装備の「CV-SC700」で、「穴に詰まった小麦粉の掃除」「フローリング掃除」「カーペット掃除」を行い、ゴミの取れ具合に差が出るかを検証する。

【検証1】穴に詰まった小麦粉は取れる?0.5mm、1mm、1.5mm、2mmの異なる深さの穴に小麦粉を詰め、前モデルと「CV-SA700」で1往復ずつ掃除機がけしてみた。

どのぐらいの深さまでゴミが取れるかを確認する

どのぐらいの深さまでゴミが取れるかを確認する

動画を見ると同じように取れているように見えるが……結果は下の写真をチェック!

従来ヘッドでも0.5mmと1mmの深さの小麦粉は除去できているが、1.5mm以上の深さになると取り残しが目立つ。いっぽう、新ヘッドのほうは1粒もないとまでは言い切れないが、2mmの穴の小麦粉もほとんど取り除かれている。従来ヘッドよりも、高い精度で掃除できることが証明された。

【検証2】フローリング掃除検証1同様の比較を、実環境に近いフローリングでしてみる。フローリングに撒かれているのは小麦粉だ。

掃除し終わったフローリングをチェックしてみると、従来ヘッドのほうは掃除機がけをした向きにある縦の溝はキレイになっているが、横断する溝には小麦粉が残ってしまった。新ヘッドで掃除したフローリングは、縦横の溝ともにしっかり除去できている。

【検証3】カーペット掃除今度はカーペットに小麦粉を撒き、何往復でキレイになるかを比べてみた。

従来ヘッドは2往復、新ヘッドは1往復でキレイになった。ゴミの取れる様子を見ていると、新ヘッドは中心部だけでなくヘッドの幅いっぱいまで均等に吸じんできているようだ。

実際に筆者も「CV-SC700」で掃除機がけしてみたが、使った瞬間に腕に伝わる感覚で前モデルよりも床面との密閉性が高くなったことがわかった。しかし、上部から風が流入する構造や自走式のヘッドの効果もあり、操作がしづらくなったなどの不便さや腕への負担は感じず。

もっとハイパワーになった!

ヘッドの吸じん性能が向上しただけでなく、吸引力もパワーアップしている。モーターの細部設計を見直したほか、集じん部の形状を改善することで吸込仕事率が前モデルより10W高い430Wになった。

モーターのサイズは前モデルと同じだが、内部のパーツ形状を改良することでハイパワー化を実現

モーターのサイズは前モデルと同じだが、内部のパーツ形状を改良することでハイパワー化を実現

パワーが強くなったので、もちろん前モデル同様に55kgの人を持ち上げることができる(下の動画参照)。吸込仕事率200Wの従来モデル(XV-PE9)ではピクリともしないが、430Wの「CV-SC700」で吸うと男性が宙に浮いた!

ここにも注目! 押さえておきたいポイント

進化点ではないが、「CV-SC700」には便利な機能や構造が搭載されているので紹介しておく。

パイプの長さをサッと変えられる持ち手部分のトリガーを引いて、上に引っぱればパイプを簡単に伸ばすことができる。腰を曲げずにサッと変えられるのは、とてもラク。

この仕様は日立独自のもの。全掃除機に採用してほしいほど、便利な機構だ

クルっとピタッとペッタリで掃除できるヘッドが左右90度に曲がるようになっており、家具のすき間の掃除に重宝する。また、パイプを床にくっつけてもヘッドが浮かない構造になっているので、ベッド下などの掃除もしやすい。

軽く手首をひねるだけで、写真左から写真右の状態に

ペタリと床にくっつけた状態にすれば、8cm以上のすき間に入れられる

細やかに清掃できるアタッチメントが充実掃除機に装着しておける「クルッとブラシ」や、付属のノズルを利用すれば高所から細い所までしっかり掃除できる。

「クルッとブラシ」はパイプの下のほう(写真上)か、持ち手に近い所(写真中央)に装着可能

格納式となっているので、ブラシ部分を回転させると写真右のように使用できる

細いすき間に対応できるノズル(写真上)と、高所の掃除に役立つブラシ付きノズル(写真下)が同梱

細いすき間に対応できるノズル(写真上)と、高所の掃除に役立つブラシ付きノズル(写真下)が同梱

軽くて排気がキレイな紙パック式掃除機「かるパック CV-PC500」

発表会では、紙パック式掃除機「かるパック CV-PC500(以下、CV-PC500)」も紹介されたので詳細をお伝えしておこう。日立が紙パック式ユーザーに“次回購入する際に重視するポイント”を調査したところ、「本体の重さ」や「持ち運びのしやすさ」といった項目が吸引力よりも上位にランクイン。また、同時に「排気のニオイ」に不満を抱く声も多く寄せられた。それらを解決するのが、小型・軽量ボディで強力なパワーを保持し、排気もキレイを実現した「CV-PC500」だ。

シャンパン、レッド、ブルーの3色が用意される。9月中旬発売予定で、市場想定価格:65,000円前後。ちなみに「CV-PC500」にも、サイクロン式「CV-SC700」で紹介した新ヘッドが採用されている

小さく軽くなったボディ小型・軽量のモーターを採用したほか、本体にカーボン素材を用いることで、前モデル「CV-PA300」で3.7kgだった重量を「CV-PC500」では2.4kgに減量。

左が前モデル「CV-PA300」、右が「CV-PC500」。約35%軽量化されたボディは、持ってみると「モックか?」と思うほど軽くてビックリ。これなら、持って階段を上り下りするのも苦労しなそう

キレイな排気発売が9月中旬と先なため細部の紹介はされなかったが、高い集じんフィルターを搭載するなど排気構造を見直すことにより捕集性能を強化したという。

上の動画は、煙を吸わせて排気を視認できるようにした実験。従来モデル「CV-PA9」では本体後方の排気口から白い煙が出てしまったが、「CV-PC500」からは煙が出ている様子はうかがえない。また、「CV-PC500」の排気口に付けられたテープを見ると上部になびいていることがわかる。これは、排気風が上方向に出ているという証拠。上向きに放出することで、床にあるホコリが舞い上がるのを低減する。

強力なパワーを搭載吸込仕事率はまだ公表されていないが、サイクロン式掃除機「CV-SC700」と同じように55kgの人を持ち上げることができた。ハイパワーであることは間違いないと言えるだろう。