大和証券グループ本社会長 鈴木茂晴氏

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商談、度重なる会議、毎日のように続く会食。忙しさに加え、その肩には重いプレッシャーがのしかかる。社長たちはどうやって、心身をリフレッシュしているのか。

私は大の凝り性で、昔からいろいろなことをやってきました。最近凝っているのはゴルフ、そしてカントリー音楽のベース演奏です。

学生時代は音楽サークルに入っていたのでコードを弾くくらいはできましたが、あの頃は誰でも少しはギターを弾いた時代です。サークルは遊びの会でした。

この年になって再び楽器を手に取ったきっかけは、何かの拍子に妻がギターを弾いたらとても上手かったことです。小さい頃に練習していたんですね。それで「凄いじゃないか。俺も伴奏しよう」と2人で遊ぶようになり、そのうちに学生時代の仲間から「一緒にやってみないか」と声がかかりました。

平日は夜に30分ほど、週末はゴルフの後にベースに触り、月に1回ライブハウスで仲間と演奏しています。「みんなに追いつかなければ」と一生懸命練習したり、「このパートはこんなふうに弾いてみよう」と工夫したり、演奏する楽しみはたくさんあります。

自分が嫌なことをやっているときは1分でさえ非常に長く感じますが、好きなことをやっているとすぐに時間は過ぎていき、1時間が1分くらいに感じます。やはりいかに楽しく過ごすかが大切で、それは人間の幸福そのものであると思います。

どんなに能力が高くても、どんなにお金を持っていても、「幸せな気持ちでいる習慣」がなかったら絶対に幸せにはなれない。よく社員にはそう伝えています。

■バスプロを目指した部長時代

では、どうすれば幸せな気持ちでいられるか。それは仕事も遊びも全力投球すること。私のモットーは「ワーク・ハード、ライフ・ハード」です。余裕を残すより、いろんなことを全力でやっていると道が開けてくるし、何よりそのほうが楽しく取り組めます。

いつ、趣味や遊びに使う時間があるのかと尋ねられることがありますが、私の場合、何かに凝ると一生懸命時間をつくっちゃう。「時間がない」といっても、好きならいくらでも見つかるものです。

部長時代にはバスフィッシングに凝りに凝って、一時はプロになろうと考えたことがあります。トーナメントに勝てばプロになれるだろうとエントリーしたところ、ボートの免許がないと不利だとわかりました。沖に出て釣る人と、岸だけで釣る人では勝負にならないというわけです。

そこで日曜日にスクールに入って勉強し、筆記試験はクリアしたのですが、問題は平日の昼間に羽田沖で実施される実技試験でした。

「2時間ほど出かけてくるから」
「どこへ行くんですか?」
「ちょっと忙しいんだよ」

試験日は部下とそんなやり取りをして会場へ向かいました。もちろん、後から部下に本当のことを話しましたが(笑)。今なら会社に申告して半休を取ればよいのですが、当時はそういう時代だったのです。そんなふうにちょこちょこと時間を見つけて、好きなことをやっていました。

もちろん遊びだけでなく、家族との時間も大切です。私は毎朝、妻と一緒に散歩しています。40分くらいぶらぶらしながら「あれをしよう、これをしよう」と考える。これが私の健康法でもあります。

バスフィッシングに凝っていた頃は、よく妻とまだ小さかった子供を連れていきました。ボートの免許を持っていますから、相模湖などでボートを借りて湖に走り出すと、「カリブの海賊みたいだ」と子供が喜んでくれましたね。休日に家族と出かける機会は今もかなりあります。

■7年前から「19時前退社」に

私がそういう性分ですから、社員にも同じように仕事にも遊びにも全力投球してほしい。そんな思いから当社では2007年から「19時前退社の励行」に取り組み始めました。

私自身が若い頃、朝早く出社し、夜は22時、23時退社がざらという働き方をしていました。毎日夜遅く、いつ帰れるかもわからないので友人と会う約束もできないし、何も自分のことができません。

この問題で支店長とぶつかったこともありました。「こんなに遅くまで仕事をするのはおかしい」といったところ、翌日、定時の17時10分に支店長から「おまえは帰れ」といわれ、「そういうことをいっているのではありません」と大いにもめたんです。そのときは会社を辞めてやろうかと思いました。

自分が社長になったときは、もうそこまでひどい状況ではありませんでしたが、それでも遅くまで社員が仕事をしている実態がありました。

私は女性にもっと活躍してもらう必要があると考えていたので、これではいけないと思いました。毎日帰りが遅い職場では、女性は活躍できずに辞めてしまいます。終業時間をきちんと決める必要がありました。

19時前退社になってみんな飲みにいくのかと思ったら、英語やCFP(ファイナンシャル・プランナー)などの自己研鑽に励む人が増えました。CFPは証券アナリストと同じくらい難しい資格です。会社としてもCFPの取得者数の目標を掲げたところ、10年の約300人から14年の8月には570人に増え、金融機関ナンバーワンになりました。みんな自分のブラッシュアップのために使っているようです。

また、当社は結婚や出産などのライフイベントを迎えても仕事を続ける女性が増えています。それは時間がきちんと管理されていることも関係しています。しかも、女性がたくさん昇進しています。仕事を頑張らなければ昇進はしませんから、その意味では19時前退社の励行が、女性が頑張る原点になっています。

最近、ワーク・ライフ・バランスが注目されるようになりました。これはとてもよいことだと思います。我々の世代が若かった頃は、人生のすべてを会社に捧げる時代でしたが、もはやそれではダメです。働き方も持続可能でなければいけません。

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【QUESTION】残業を減らされると逆に不安です
早朝から深夜まで働きっぱなしなんて、普通できません。みんなどこかでサボってるはず。営業マンに多いのは、5時半頃外出先から戻り、「腹減った」となって、ラーメンを食べにいっちゃうというパターン(笑)。だから、結局21時くらいまでかかってしまう。この時間をなくせばいいだけです。

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大和証券グループ本社会長 鈴木茂晴
1947年、京都府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、大和証券に入社。97年取締役、98年常務などを経て、99年大和証券グループ本社常務兼執行役員、2004年執行役社長。11年から取締役会長を務める。

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(宮内 健=構成 宇佐美雅浩=撮影)