土屋礼央の「ざっくり聞くと」(第12回)〜新国立競技場を未来あるスタジアムにするには〜
土屋礼央:土屋礼央の「ざっくり聞くと」、今回のテーマは「どうしてこうなった!? 新国立競技場騒動」。この方にうかがいます、よろしくお願いします!
玉木正之:こんにちは。スポーツ評論家の玉木正之です。
◇新国立にこだわりはある?
土屋:今日は新国立競技場について。
玉木:いやあ、今回の新国立競技場の件は日本人にとってはいい薬ですね。
ブラジルのW杯の時は、開催までにスタジアムの建設が間に合わなくて、スタートしても建設資材が周りに積み上がっていたのに、芝生だけはきちんとしてた。
そこがサッカー好きのブラジル人のこだわりだった。日本人は新国立競技場を作る時にどこにこだわったか。
デザインを募集した段階から、それがわからないんです。
土屋:漠然と募集しちゃった。
玉木:競技場で何をやるの?っていう。ぼんやりとわかっていたのは、募集の段階でまだ東京オリンピックが決まっていなかったので、オリンピック招致に向けて「派手なものが欲しい」と。
土屋:プレゼン用のね。新国立競技場、ザハ・ハディドのデザインはよかったですよね。こんなのができるんだったらスゴイな、って。
玉木:俺も思いましたよ(笑)。最高の迫力があったよね。
でもそれで有森裕子さんに「男はバカだね」って怒られたけど。要するに男は、ファントムのジェット戦闘機みたいなものに心惹かれちゃうんだよね。
それと一緒で、ザハの宇宙船が舞い降りたようなデザインにはドキドキするよね。
でも、自分もスポーツのことを忘れていた。見直してみたら、あのデザインはスポーツというものが何もわかってない。
単純なことですけど「聖火はどこから入れるんだろう」「マラソンの出入り口はどこになるんだろう」って思ってしまうんですよ。
そう考えると、スポーツ施設とはどういうものが見えてくる。
土屋:なんのための競技場かってことですね。
玉木:そう。その一方で、スタジアムをコンサート会場にもしようという意見がでてきた。
世界で最初にスタジアムでコンサートをやったのがビートルズ。ニューヨークメッツのスタジアムのピッチにステージを作って、お客さんは観客席にだけ入れた。
それは芝生が傷むからなんです。次に、ロンドンのウェンブリー・スタジアムが天然芝を傷めないアクリル板の敷き方を開発するわけ。
それまで赤字で困っていたんけど、その板の敷き方を発明して特許を取り、マイケル・ジャクソンやマドンナのコンサートをやって儲けた。
これは、スタジアムでコンサートをやるからおもしろいわけで、最初からコンサート会場にするって発想になると何もおもしろくない。
こうして、新国立競技場は何のために作ろうとしているのかわからなくなった。
土屋:コンサートのために遮音の天井をつけるって話もありましたけど。
玉木:あれも「天井」って言っちゃいけないんだけど(笑)。コンサートを1年に12回やったとして純利益が6億円なんです。だけど、その遮音のジャバラを作るのに300億円かかる。
土屋:元を取るのに50年かかる…。
玉木:それっておかしくない?って、誰でも気づくでしょ。
おまけにスポーツに関係ないことだし。
オリンピックのプレゼンで通ったのは外観だけで、細かい話が出てきたのは東京オリンピックが決まって、お金の話になってからなんですけど。