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自然災害のリスクが高まるなか、特に木造一戸建ての耐震性などの強度が課題となっている。木耐協は、阪神・淡路大震災以降、木造住宅の耐震診断や耐震補強工事を行っているが、アンケートによって、耐震補強の工事では内壁の補強が主流であることなどが分かった。【今週の住活トピック】
木造住宅の耐震性」に関する調査データを発表/日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)

耐震補強工事の実施率は約28%、平均施工金額は約152万円

まず、平成18年4月〜27年6月に耐震診断した2階建て以下の木造住宅2万2626棟を分析したところ、現行の耐震性を満たしている住宅(「倒壊しない」「一応倒壊しない」)は7.9%で、耐震性を満たしていない住宅(「倒壊する可能性がある」16.2%「倒壊する可能性が高い」75.9%)は92.1%に達した。平均築年数は、約34年だった。

このうち、耐震補強工事の金額について回答があったものの平均施工金額は、約152万円(中央値128万円)だった。旧耐震基準(昭和25年〜昭和55年以前の建物)だけで見ると、平均施工金額は約175万円(中央値150万円)と高くなり、新耐震基準(昭和56年〜平成12年5月以前の建物)では、平均施工金額が約133万円(中央値110万円)となった。

内壁側からの壁補強が9割近くで一般的な補強工事に

次に、平成23年9月から平成27年3月までに耐震診断を実施した人に、「耐震補強工事」について木耐協がアンケートを行った結果(有効回答2570名)を見ると、耐震診断の結果は、現行の耐震性を満たしている住宅(「倒壊しない」「一応倒壊しない」)は6.4%で、耐震性を満たしていない住宅(「倒壊する可能性がある」15.1%「倒壊する可能性が高い」78.6%)は93.6%と、耐震診断をした全体の結果と同様の割合だと分かった。やはり、耐震性を満たさない住宅が9割を超える。

これに対して、補強工事を実施した割合は、わずか28.1%で、これは旧耐震基準も新耐震基準も違いがなかった。現行の耐震性を満たす住宅でも補強工事を実施する割合が14.0%ある一方で、「倒壊する可能性がある」では25.6%、「倒壊する可能性が高い」では30.3%しかなく、耐震性が改善されていない住宅が多く残っている点が大きな課題だ。

どういった補強工事を実施しているかを聞いた結果を見ると、最も多いのが85.5%の「内壁側から壁補強をする工事」で、一般的に部屋の中から壁を補強する工事が行われていることが分かる。次に多いのは、36.5%の「基礎補強」で、3番目に多いのは19.2%の「外壁側からの壁補強」だ。(画像1)

【画像1】どのような耐震補強工事を実施されましたか?(複数回答)(出典:木耐協「木造住宅の耐震性」に関する調査)

木耐協によると、耐震補強ではまず壁を補強するが、「壁補強で強くなった耐力壁を支えるために、基礎の補強も必要となるケースが多いため」に基礎補強の割合も高くなっているという。
また、築年が古いほど「屋根の軽量化」の工事が増加する傾向があるが、「古い住宅ほど壁の量が不足しているので、屋根の軽量化を行う必要性が高いためだと考えられる」と見ている。

限られた予算で優先順位を付けた耐震補強工事を

耐震補強工事に、平均で150万円ほどの費用がかかるなら、その費用が捻出できないと断念してしまう人もいるのかもしれない。とはいえ、耐震性は命と財産を守る住宅の重要な性能。疎かにはできない問題だ。

木耐協によると、倒壊する木造住宅には、共通の弱点があるという。
(1)壁の量が少ない
(2)壁の入れ方のバランスが悪い
(3)柱のホゾ抜け対策がされていない
(4)腐朽や蟻害で弱くなっていた
このうちホゾ抜け対策とは、土台と柱を接合する際に、片側に突起(ホゾ)、もう片側に穴を開けて継ぐのだが、地震の揺れで柱が抜けないように接合金物を取り付けることだ。

ただし、すべてを補強しようとすると費用がかかってしまうため、費用対効果の高い補強工事から進めていくことが重要だと、木耐協では指摘している。

【画像2】耐震補強工事の種類と優先順位(出典:木耐協 監修・発行「木造住宅 耐震百科」より)

巨大地震が起こる可能性が高い現状で、住宅の耐震性強化は政府としても力をいれている。多くの自治体では、特に旧耐震基準の木造住宅を対象に、耐震診断の費用を無料にするなどしている。それを受けた耐震補強工事の費用を一部補助する自治体もある。

耐震診断を受診したものの、耐震補強工事の費用が捻出できずに断念するという事例が多いのだろう。だからといって、何もしなければ地震の被害リスクは避けられない。費用がそれほどかからずにできて補強効果が高い工事だけでも実施して、耐震性を少しでも上げることには意味がある。どこまでなら無理なく実施できるのか、自治体などによく相談してほしい。自治体側にも、個別事情に応じた柔軟な対応が求められるだろう。