小池栄子 撮影:若林ゆり

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 太宰治が死の直前まで書いていた未完の遺作「グッド・バイ」は、シニカルなユーモアにあふれた軽快なコメディだ。冒頭部分だけでプツリと途切れてしまったこの作品が、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の脚本・演出の舞台として完成。KERA・MAPの第6弾「グッドバイ」として上演される。

 この小説のなかでも最高に魅力的な存在が、キヌ子だ。太宰を思わせるモテ男の田島が何十人もいる愛人と手を切るのを手伝うため、妻役を演じて報酬をせしめる女。闇屋稼業をしているが、着飾って黙っていれば絶世の美女。ただし悪声で口が悪く、やせているのに怪力の持ち主で大食い。このキヌ子を演じるのが小池栄子である。

 当の小池を稽古中に直撃すると「でも私が読んだときは、自分じゃないんじゃないかなって思ったんですよ。『えー、怪力で大食いでって、私まんまじゃん』(笑)。これはもっと線の細い綺麗な女性がやって、イメージ覆すほうが面白いんじゃないかなあって思ったんです」と笑う。

 「美人設定は、早くみんな忘れてくれないかなと思って(笑)。まあすごい美人は世の中にいっぱいいるから、そうじゃない愛嬌、チャーミングな魅力が出せたらいいなと思っています」

 太宰が途中までしか書かなかった物語を、KERAがどう紡いでいくのか?

 「KERAさんご自身が、自分のお芝居の中でもいままでにないくらいストレートで明るい作品になるっておっしゃっていて。ラブコメなんです。お客さまは『田島とキヌ子、くっついちゃえばいいのになー』って思いながら見ることになると思います。原作にはない展開が面白いんですよ。グッドバイをいっぱい告げて歩いてきた男が、水野美紀さん演じる奥様にグッドバイされてしまうという話がけっこう初めのほうにもう出てきて。お金をもらって美味しいものをたらふく食べさせてもらってという、ただ単に契約上の関係だった2人に、物語が進むにつれてラブコメらしい恋心が芽生えるんです」

 キヌ子というキャラクターも深められているのだろうか。

 「どうやら親に捨てられた過去があるみたいで、それを思わせるセリフがあるんですけど、苦労をあんまり表に出さない。担ぎ屋という闇商売をしながら自立して生活しているキヌ子はたくましい女性だなと思いますね。KERAさんは『そのたくましさっていうのは小池に共通してるよね』と言ってくださっています(笑)」

 小池にとって舞台は「恐い、でもその分楽しみも大きい」ものだという。

 「稽古場で失敗を繰り返したりうまく出来なくて指摘されたりするのって慣れないし、恥ずかしいな、嫌だなと思うことはありますよ。役になりきるということがわからなくなっていつも悩むし。でもそこと向き合えなくなったら終わりだなと思うから。しんどいし恐いけどやってみようと踏み込んでみた世界には、自分の知らないことを大いに勉強できる環境や瞬間がある。だから舞台はやめられないんだろうなぁと思います」

 ぐんぐん成長していく小池の作り上げるキヌ子は、きっと客席を魅了するだろう。そんな小池がいま、“グッドバイ”したいのは?

 「“マジメないい子ちゃん”にはグッドバイしないと、新たな自分には出会えないと思っています。先輩たちはよく『わかりましたーってすぐ言う若手、多いんだよね。どういうことですか、ってもっとぶつけてけばいいじゃん』って。疑問も素直にぶつけられる、話し合える自分でいたいから、わかった振りをする自分にはグッドバイしたいな」

 「グッドバイ」は9月12〜27日、世田谷パブリックシアターで上演。その後、5都市で上演される。