2001年の菊花賞(京都・芝3000m)と有馬記念(中山・芝2500m)、そして2002年の天皇賞・春(京都・芝3200m)と、GIを3勝したマンハッタンカフェ(父サンデーサイレンス)。種牡馬になってからも、多くの活躍馬を世に送り出してきたが、8月13日、繋養先の社台スタリオンステーション(北海道)で腹腔内腫瘍(ふくくうないしゅよう)のため死亡した。17歳だった。

 今年の3歳世代の産駒には、GIIIきさらぎ賞(2月8日/京都・芝1800m)を快勝し、GIオークス(5月24日/東京・芝2400m)で2着と好走したルージュバック(牝3歳)をはじめ、3戦無敗でGIIフィリーズレビュー(3月15日/阪神・芝1400m)を制したクイーンズリング(牝3歳)や、GIIフローラS(4月26日/東京・芝2000m)を勝ったシングウィズジョイ(牝3歳)など、豪華な顔ぶれがズラリ。加えて、来年のクラシックを狙う2歳世代にも、8月9日の新馬(新潟・芝1800m)で後続に5馬身差をつけて圧勝したイモータル(牡2歳)などがいて、これからさらに「大物」が続々と登場しそうな状況の中での、突然の出来事だった。

 マンハッタンカフェは、5歳となった2003年に種牡馬として供用を開始。その前年にこの世を去った、父サンデーサイレンスの後継種牡馬として期待された。そして実際、2006年デビューの初年度産駒から重賞勝ち馬を送り出し、2009年には3世代目の産駒となるジョーカプチーノ(牡)がGIのNHKマイルC(東京・芝1600m)を、レッドディザイア(牝)が秋華賞(京都・芝2000m)を制覇。ついにGI馬を出して、この年の種牡馬リーディングにも輝いた。

 その後も、ヒルノダムール(牡。2011年GI天皇賞・春優勝)や、グレープブランデー(牡。2013年GIフェブラリーS優勝)と、GI馬を輩出。2007年以来、産駒が毎年重賞勝ちを収め、種牡馬ランキングでも2008年以降は常にベスト10以内をキープしてきた。

 しかし、レッドディザイアらが重賞12勝(※)を挙げた3世代目(2006年生まれ)、ヒルノダムールらが同10勝を挙げた4世代目(2007年生まれ)以降は、やや低迷。2010年、2011年生まれの産駒に至っては、現在まで重賞馬がゼロと、種牡馬として陰りが見え始めていた。
※重賞はすべて中央競馬のもの。勝利数も同様。また、そのデータは8月17日時点。以下同。

 その要因は、ディープインパクトをはじめ、ハーツクライやダイワメジャーなど、同じサンデーサイレンスを父に持つ種牡馬が次々に台頭してきたからに他ならない。だとすれば、このままマンハッタンカフェ産駒は、低迷の一途をたどってしまうのだろうと思われた――が、2012年生まれの現3歳世代が、急に息を吹き返したように活躍し始めた。

 その勢いは、勝利数にもはっきりと示されている。2010年生まれの現5歳世代産駒が3年あまりで計77勝、2011年生まれの現4歳世代産駒が2年あまりで計66勝に対して、現3歳世代産駒はわずか1年あまりですでに計52勝をマーク。前の2世代との差は歴然だ。また、前述したとおり、現3歳世代はルージュバックをはじめ、重賞勝ち馬も次々に誕生し、重賞未勝利の前の2世代とは明らかに産駒の"質"が違う。

 それにしても、このマンハッタンカフェ産駒の再ブレイクは、どうして起こったのだろうか。

 単純に考えられるのは、種付け頭数の増加である。種付け頭数が増えれば、比例して産駒の数も増え、勝つチャンスも増えるからだ。ところが、マンハッタンカフェ産駒の各世代の種付けの頭数を見ると、現5歳世代は196頭、現4歳世代は207頭、そして現3歳世代は202頭と、現3歳世代が突出して多いわけではない。現4歳世代に比べれば、少ないほどである。

 次に考えられるのは、「種牡馬の好成績は5年ごとに訪れる」という生産界の"定説"だ。それは、種牡馬がある年に好成績を残すと、その翌年の種付け頭数が増し、繁殖牝馬の質も上がって、それら産駒が3歳を迎えたとき、再び好成績を生み出す、というものである。

 これを、マンハッタンカフェに当てはめると、種牡馬リーディングを獲ったのが2009年なので、その影響がもろに出るのは、2010年に種付けされた2011年生まれの産駒となる。つまり、現4歳世代だ。しかし、先に示したとおり、確かに種付け頭数自体はひとつ前の世代よりも10頭ほど増加しているが、レース結果には表れていない。

 ただし、リーディングを獲った翌年、2010年にも種牡馬マンハッタンカフェは評価を高めている。再浮上のカギは、そこにあった。

 2010年、マンハッタンカフェ産駒は、国内のGI勝ちこそなかったものの、レッドディザイアがドバイワールドカップの前哨戦であるGIIアル・マクトゥームチャレンジR3(UAE・AW2000m)を勝利し、ヒルノダムールがGI皐月賞で2着と好走するなどして、前年の好成績がフロックではないことを証明した。それが、翌年の配合相手の質の向上につながり、2012年生まれの現3歳世代の飛躍につながったのではないだろうか。

 配合相手の質の向上については、「ある出来事が影響している」という意外な指摘もあった。その詳細を説明してくれたのは、配合アドバイスなどを行なっている、血統評論家の栗山求氏だ。

「2008年の秋、リーマンショックが発生し、欧米のサラブレッド産業の景気も一気に冷え込みました。セリ市場は、それから数年にわたって低迷していましたね。同時に、この時期の為替レートは、1ドル=80円〜90円台を推移し、一時は70円台を記録するほどの円高状態になりました。その際、日本屈指の生産牧場である社台グループは、これを好機と見て、大量の資金を投入し、海外のセリで良血の繁殖牝馬を数多く購入したんです。アメリカの年度代表馬に輝いた女傑アゼリなどは、その代表格。アメリカの古馬牝馬のチャンピオンに輝いたジンジャーパンチもその一頭で、これがルージュバックの母となりました」

 この、社台グループの積極的な購買活動の裏には、飽和状態になりつつあるサンデーサイレンスの血への対策という事情もあったが、「こうした状況が、マンハッタンカフェにとっては追い風になったのではないか」と栗山氏は言う。

「ディープインパクトもそうですが、マンハッタンカフェも、基本的にアメリカ血統と相性がいい種牡馬なんです」

 また、馬産地事情に明るい関係者によると、生産者の「根強い支持と再評価」という側面が、マンハッタンカフェ産駒の近年の復活につながっているという。

「(マンハッタンカフェは)社台スタリオンステーションの種牡馬ですが、社台グループよりも、日高の生産者たちによる評価がもともと高かったんです。同馬の産駒は、芝もダートもこなすし、距離も問わないうえ、(成績の)アベレージも悪くない。しかも、長い期間現役でいられるタイプが多い。それに、ディープインパクトは(種付け料が)高いけど、マンハッタンカフェ(の種付け料)なら手が届く、ということで重宝されていました。実際、レッドディザイアとグレープブランデーは社台ファームの生産馬ですが、それ以外の過去の活躍馬は、社台やノーザンファームじゃないところがほとんどなんですよ。

 そのうえで、2009年、2010年の活躍があってから、社台グループでも評価を高め、ノーザンファームが所有する優秀な繁殖牝馬への種付けを増やしたそうです。ルージュバックの母ジンジャーパンチにしても、彼女を生んだあとの2年は、続けてディープインパクトを配合するような期待の繁殖牝馬。マンハッタンカフェを付けたときも、それなりの大物を狙ってのものだったと思いますよ」

 冒頭で紹介したイモータルもまた、ノーザンファームの生産馬である。大牧場でも再評価を得た"血"だからこそ、今またマンハッタンカフェ産駒から「大物」が出てきそうなムードにあるのだろう。

 今回の訃報は、マンハッタンカフェ産駒の再ブレイクの要因を探っている最中に飛び込んできた。取材の中で、最近は病魔と戦っているという状況も伝わってきていた。見た目はあばらが浮いたような状態でやせ細っていたという。だが、そのたたずまいは、最後まで気力にあふれていたそうだ。そうした自らを奮い立たせた内面の強さが、晩年の産駒たちにも伝わっているのかもしれない。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu