厳選!2歳馬情報局(2015年版)
第11回:アラバスター

 サラブレッドの世界では、ケガがつき物だ。たった一度のケガで、引退に追い込まれたり、能力を開花できずに競走生活を終えてしまったりというケースが多々ある。それでも、サラブレッドには"血をつなぐ"という、第2のステージがある。たとえケガで挫折した馬たちも、道半ばに終わった競走生活を、自らの子に託すことができるのだ。

 今年の2歳馬の中にも、ケガに泣いた名牝の子がデビューを控えている。アラバスター(牡2歳/父ハービンジャー)である。

 アラバスターの母は、2010年のGI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)を勝ったレーヴディソール(牝/父アグネスタキオン)。同世代のライバルとは別格の「切れ味」を繰り出し、デビューから3連勝でGI制覇を飾って、一躍脚光を浴びた。

 その翌年、クラシックの前哨戦として挑んだGIIIチューリップ賞(阪神・芝1600m)でも、流したまま後続を4馬身突き放す圧巻のレースぶりを披露。デビューから破竹の4連勝で、2011年の牝馬クラシック制覇は確実と思われた。が、彼女はその後に右前脚を骨折。クラシックに出ることはなかった。

 それからおよそ8カ月後、レーヴディソールは、一度は復帰を果たした。しかし、ケガの影響もあってか、4連勝を飾った当時の面影はなく、復帰してからの2戦は、ともに精彩を欠いて連敗を喫した。

 そして、年が明けた2012年、悲運にも右前脚を再度骨折。ついに引退を余儀なくされた。結局、レーヴディソールは、多くのファンに強烈なインパクトを与えたものの、現役生活はわずか6戦しか走ることができなかったのだ。

 たぐいまれな才能を持ちながら、ケガに泣いたレーヴディソール。彼女が繁殖牝馬となって初めて産んだ仔が、アラバスターである。育成を担当したノーザンファーム早来(北海道)の横手裕二氏は、春の時点で同馬の印象をこう語っていた。

「アラバスターは、順調に成長してきた一頭ですね。育成を始めたばかりの頃は、身のこなしが硬くて(成長には)時間がかかりそうだったのですが、グングンよくなりました。今もまだまだよくなっている過程で、あとひと皮、ふた皮むければ......と、思っています。本当に完成するのはもう少しあとかと思いますが、モノはいいですね。距離適性は、1600mくらいの印象でしょうか」

 レーヴディソールの初仔として注目されるアラバスターだが、同馬には、父ハービンジャーのいい部分も受け継がれているようだ。横手氏が続ける。

「この馬の持っている"柔らかさ"は、まさに父ハービンジャーに近い柔らかさだと思いますね。ただ柔らかいだけでなく、しっかりとした柔らかさ、しなやかさがありますから。父のいいところが出ていると思います」

 昨年から産駒がデビューした種牡馬のハービンジャー。初めてのクラシック戦線では、満足いく結果を残せなかったが、レーヴディソールとの間に生まれた子が、その栄冠に近づくかもしれない。

 アラバスターを管理するのは、母と同じ松田博資厩舎(栗東トレセン)。同馬は札幌競馬場に滞在し、8月16日の2歳新馬(札幌・芝1800m)をデビュー戦に設定している。調教内容こそやや地味だが、母が母だけに、レースにいって変わる可能性は十分にある。

「幻の牝馬三冠(桜花賞、オークス、秋華賞)馬」とさえ言われる女傑・レーヴディソール。その"秘蔵っ子"が、いよいよデビューのときを迎える。

河合力●文 text by Kawai Chikara