距離がある。



距離ありすぎだろ。前の座席空いてるじゃねえか。




乗り物を変えてもやはり距離がある。


距離ある ☆☆☆☆☆
どう見てもある ☆☆☆☆☆
ありすぎるくらいにある ☆☆☆☆☆



結局、丸一日かけても彼女達と打ち解ける事は無かった。
世間では撮影終わりにナンパして来るカメラマンがいたりすることもあるらしく、モデルさん達が迷惑する事もあるそうだ。

僕もそんな風に思われて警戒されたのかも知れない。合ってるけど。
僕にとっての「夏休み」がこれなら、いつもの日常と変わらないな、と思った。



最後まで僕を見守ってくれていたのは、
結局のところ三太郎の三人しかいなかったのかもしれない。
現場からは以上です。


森翔太さんの場合



映像作家の森翔太です。友達はあまりいません。




そんな夏の日、「サマーランドに三太郎のポスターを撮影しに行ってほしい」と電話がかかってきた。

暑いし、人も多そうだし、一緒に行く人もいないので「今回は断る」と伝えると、「アイドルグループも来ますよ」とのこと。僕は即座に「やります」と答えた。
アイドルとサマーランド?断る理由がない。


「金太郎っぽく、金持ちっぽい格好で行ってください」という事で、それっぽい格好をしてバスでサマーランドに向かう。
お金持ちというよりは中国のマフィアみたいだけど、僕の中のお金持ちはだいたいこんなイメージだ。

金持ちは人が寄ってくるはずなのに、なんだか避けられている気がした。金持ちならタクシーで行けば良かった。



低いテンションのままサマーランドに着いた。




でもすぐにテンションは上がる。
サマーランドでは最高にかわいいアイドルたちが僕を待っていたからだ。
彼女たちは「仮面女子」という地下アイドルの人気グループで、
左端にいるのは彼女たちのマネージャー。
正直言って、マネージャーは邪魔だ。

暑かったので、まずは彼女たちにかき氷を買ってあげてから撮影する。
「金持ちの金太郎」という設定なのでお金持ちっぷりをアピールするしかない。
そもそも「金太郎」の「金」はお金持ちの「金」では無いとは思うんだけど、この際細かい事は気にしないでおくことにしよう。



「ペロペロって感じで舌出して!ペロペロって!」




キャピピピー!最高!

さっきまでの孤独は嘘のようで、まるで彼女たちとデートしているかのようだ。
一気に彼女が4人も出来た。世界で三番目くらいには幸せなんじゃないだろうか。



こちらは急流下りのボートのような体験のできる「スピン・ディンギー」。



彼女たちの笑顔が僕の孤独をふっとばす。
そして遊園地の定番、コーヒーカップ。





彼女たちが僕に見せる笑顔は、まるで恋人のよう。
ひょっとしたら彼女達は僕の事を本気で好きになったのかもしれない。
きっとそうだ。

回りながら僕に微笑んでくれるエンジェルたちは、僕を夏の扉へ連れってくれる。多少酔ってしまったが、それが回転のせいなのか、彼女たちの笑顔のせいなのか分からなくなってしまった。

せっかくなので僕も入れて記念撮影。



「もっとそばに来ないと全員入らないよ」と近づくと、後ろから「キャー」と少女たちの歓声が聞こえてくる。楽しそうでなによりだ。
そしていよいよプールへ。





大勢の人でにぎわうビーチでは、1時間に1度来る大波を楽しむ声が響く。
そして三太郎のポスターは思っていたより大きい。

僕が振り向くと、すでに彼女たちは水着に着替えていた。



ペロペロペローン!キャピピピー!

思わず少女たちに見とれてしまった。
彼女たちはキラキラした瞳で僕を見つめている。
僕は彼女たちにカメラを向けた。



パシャパシャーって!水しぶきあげてパシャーって!





サマーランドは最高だ。
彼女たちは僕の要求に答えてくれる。
カメラを通して彼女たちと目が合うのでドキドキする。
もしかしたら彼女たちもドキドキしているのだろうか?
ひょっとしたら僕の取り合いで殴り合いのケンカを始めるかも知れない。



それにしても撮影中、僕のことを「気持ちワリー」と、周りにいた小学生が大声で言うのにはまいった。嫉妬なのだろうか?




可愛すぎる4人の彼女と、




なぜか不機嫌そうなマネージャー。
もしかしたらこの4人の中に好きな女の子がいるのかも知れない。
好きな子を僕に取られて怒っているのだろうか。




僕がカメラを向けると笑顔になる。
つまり、4人は僕の事が好きなんだろう。
彼女たちの目の輝きに吸い込まれるようにどんどん僕たちは近づいてゆく…。



いろんなアングルから彼女たちを撮影する。
最高の夏が、もう一歩、もうそこまで来ているのだ。



「もっと自由なポーズで!もっとフリーに!」僕は叫び続けた。