専門誌では読めない雑学コラム
【木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第14回】

 かつて、高額なゴルフ会員権を持っていましたけど、あれって何だったんでしょう。

 どんなメリットがあるかと思いきや、ゴルフ場でプレイできる権利だけですよ。あと、月例などの競技に参加できるとか、土日のプレイ代がメンバーフィゆえに安いとか、それぐらいですか。

 もともとは、ゴルフ会員権の値段が右肩上がりに上昇する、という幻想があったから、多少は値段が高くても良かったのです。ところが、バブル崩壊後、多くのコースが値崩れし始めます。

 そんな矢先、会員権相場が急激に下がり、いい頃合いと思って、私も南総カントリークラブ(千葉県)の会員権を1450万円で買いました。1200万円を民間のファイナンスで借りて、当時の金利が9.5%。20年返済の総額が約2400万円って、ほぼ倍じゃん!?

 南総CCは気に入っていましたが、ある年の正月、久々に顔を出してみると、なんとメンバーボードの名札が、ごそっと抜けていたのです。当時の親会社の経営危機説が流れ、みんな(会員を)辞めたのです。こっちも泣く泣く売ることに......。

 それでも、南総CCのいいところは、額面の金額をすぐに払い戻してくれたこと。つまり、額面の1000万円が戻って来たのです。しかも、大きかったのは、間一髪でセーフだったこと。なにしろその後、すぐに名義変更停止となり、払い戻しをしなくなりましたからね。

 お金が戻って来たのを幸いに、今度は鶴舞カントリー倶楽部(千葉県)に入会します。ここは(会員権を)530万円で買って、390万円で売ったかな。ちょっと損したけど、いろいろ試合にも出て、十分に楽しんだので納得ですわ。

 その後、『友の会』(※)にも入ったけど、長続きはしなかったですね。というか、同じコースに何回も行かないし。今後はすごい金持ちにならない限り、ゴルフ会員権は購入しないつもりです。
※各ゴルフ場や、ゴルフ場のグループなどで募集している、年会費制のメンバー。会員ほどの優遇は受けられないが、ビジターメンバーより安くプレイできて、ゴルフ場主催のコンペなどに参加できる。

 こっちは早々とゴルフ会員権引退宣言をしていますが、現在でも会員権に夢中な人もいます。知り合いの某漫画家は、超名門コースの入会審査に落ちてしょげているとのこと。勲何等とか、もらっているんですけどね。逆に言えば、唯一わがままが通らない世界が、超名門会員権のようです。

 ちなみに、某有名企業のオーナー家族の方が、超名門倶楽部に入会した顛末(てんまつ)を語ってくれたので、紹介しておきましょう。

 まず、超名門倶楽部は、ゴルフ会員権相場に価格が載っていません。入会金は1000万円ぐらいからだけど、名義は本人のみで、遺産相続できないことが多いようです。要するに、会員を辞めても、大半はお金が戻って来ないのです。

 入会に際しては、大臣クラスの国会議員の紹介状が2通必要で、その方は知り合いを頼って書いてもらったみたいです。それで、意気揚々と審査を申し込んだところ、書類の段階ではや落選してしまったとか。紹介状に不備はないと本人は思っていたんですが、あとで関係者に話を聞いてみると、申し込んだ全員が、大臣クラスの紹介状を携えており、差がつかなかったらしいです。

 そこで、作戦を変えて、メンバーに頼んで頻繁にそのゴルフ場でラウンドして、理事に顔を覚えてもらうことにしたとか。そうして足しげく通って5年、5回目の審査で「○○さん、よく見かけるね。そろそろ入会してもいいでしょう」と、めでたく入会が決定したそうです。

 でも、60歳過ぎて入会して、通えても15年がいいところでしょう。なんだかなぁ〜、ですよね。

「世界のお金持ち、ベスト100」とかに乗っている人も、ばんばん落ちるのが超名門会員権の奥の深さらしいです。そんな金持ちなら、ゴルフ場を自分で作ればいいと思うんですが、どうやらそれは考えが違うみたい。

 超名門のゴルフ会員権は、すべてのものを手に入れた男が辿(たど)り着く"究極のステイタス"です。バブル時においては、金額が大事でしたが、今は名誉、社会的地位という、見えない自己満足に価値が変わってきているんですね。そうなると、超名門コースの会員権の行き着く先は、正倉院宝物の蘭奢待(らんじゃたい)という香木になるのでしょうか......。

 その香木、過去1000年で、足利義満、織田信長など、わずかな権力者だけが、切り取ることができました。我こそはと思うセレブな殿方は、1000億円ぐらい正倉院に寄付して、挑戦してみてはいかがですか。明治天皇以来の出来事になりますよ。

【プロフィール】
■木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

木村和久●文 text by Kimura Kazuhisa