“素人”自衛官に年80億円投入の無駄遣い

 みなさんは「予備自衛官制度」をご存じでしょうか。陸上自衛隊は、予備自衛官制度を次のように説明しています。「普段は社会人や学生としてそれぞれの職業に従事しながら、一方では自衛官として必要とされる練度を維持するために訓練に応じるものです。そして、予備自衛官と即応予備自衛官は、防衛招集や災害招集などに応じて出頭し、自衛官として活動します」(陸上自衛隊ホームページより)

 最近、予備自衛官制度を充実させるための施策が矢継ぎ早に実施されています。

 例えば7月から、予備自衛官を雇用した建設会社を自衛隊関連の公共事業入札で厚遇するという措置が始まりました。また、予備自衛官雇用による法人税減税も今年度予算に盛り込まれています。前者は、ほとんど天下りの制度化と言うべきであり、防衛省の必死さが感じられます。

 背景には、東日本大震災という国難に際しても、予備自衛官制度がほとんど機能せず、年間80億円の予算に見合った効果が出ていないことがあります。しかも、予備自衛官の定員は常に7割にも満たず、年々減少傾向にあります。

 2011年の東日本大震災では、予備自衛官に対する初の招集命令が発令されました。しかし、打診に対して出頭可能と回答した予備自衛官は4497人とたった17%程度でした。しかも、実際に出頭できたのは103人と全体のわずか0.4%でした。これを受けて、財務省が制度見直しを防衛省に勧告し、対処しなければと慌てている構図なのです。

 では、どのようにすべきなのでしょうか。

予備自衛官制度を廃止すべき4つの理由

 結論は本記事のタイトルの通りです。筆者は即刻廃止すべきだと考えます。

 その第1の理由は、制度自体が社会的に容認されていないからです。通常の訓練への参加は無論のこと、東日本大震災のような危急存亡時でも、予備自衛官が招集に応じなかったのは、職場がそうした行為を是認しなかったからです。つまり、日本社会自体が予備自衛官としての出頭よりも、自らの職場で義務を果たすことを望んでいる以上、予備自衛官制度は無理があるのです。

 第2の理由は、人道的かつ戦力としての問題です。年間5日しか訓練を受けていない人間を、たとえ基地警備等の「後方任務」だけであっても、「実戦」に出すのは、沖縄戦の鉄血勤皇隊や「イスラム国」兵士よりも人道的にも戦力的にも問題なのではないでしょうか。そして、近年の作戦環境に鑑みた場合、有事の基地警備こそが最も重要かつ危険です。

 特に「ストレステスト」をほとんど受けてない人間を、過酷な災害現場等に関与させるのはPTSD患者を増やすだけであって、避けるべきではないでしょうか。これは後々の補償を考えても割に合わない話です。

 第3の理由は、確度の高いシナリオで役に立つかが疑問だからです。予備自衛官を招集しなければならない、もしくは招集する時点では手遅れだということです。

 仮に尖閣諸島などの戦いで自衛隊が壊滅し、人民解放軍の九州などへの上陸が現実化したとして、国民は戦争継続を望まないでしょうし、政治的には「耐え難きを耐え」講和すべきでしょう。

 そもそも、継戦したとしても、沖縄から北九州の拠点は中国からの弾道ミサイル等の攻撃で壊滅し、航空・海上戦力はほぼ払底した状況で予備自衛官を、どこに、どうやって投入するのでしょうか。

 第4は、我が国の自衛隊の役割です。

 中国国内の治安維持を担う人民解放軍、南侵のための北朝鮮の膨大な地上軍、そして、その北朝鮮に備える韓国軍、全世界に展開して戦闘を行う米軍、周囲の巨大な地上兵力と向き合うインド、パキスタン、イスラエルの軍隊・・・。こうした軍隊と自衛隊は違うということです。

 つまり、我が国は、これらの国々のような大規模なPKOや長期にわたる陸戦を想定すらしていないのです。こうしたことを総合して考えると、年間80億円もかける必要はないと言えるでしょう。

5つの反論への回答

 もちろん、こうした主張に対しては、以下のような反論をよく受けます。

 例えば、第1の反論は、現在の予備自衛官の中でも、通訳や医師等の特殊技能者は残すべきというものです。しかし、これは「軍属」なり、他省庁と同じように、あらかじめ契約を結んで、臨時雇いの防衛事務官扱いにすればよいだけです。素人に階級を与えてややこしくするよりも、そちらの方が筋として正しいし、部隊を混乱させないでしょう。実際、米軍も通訳には階級を与えていません。

 こうした意見に対し、それでも予備自衛官の場合は「宣誓」をしているから重要だと言う方もいます。しかし、原発がメルトダウンし万単位の国民が海に流されたにもかかわらず守られない予備自衛官の「宣誓」は、その有効性に疑問符がつくでしょう。

 第2の反論は、日本が直接侵略を受けた際にはとにかく人手が必要である、というものです。しかし、これは極めて蓋然性が低いシナリオです。仮に真剣に考えるとしても、年間10億円の予算で有志の退役自衛官によるNGOの「郷土防衛隊」創設を支援すればいい話で、わざわざ80億円の予備自衛官制度を維持すべき理由にはなりません。

 第3の反論は、「即応予備自衛官制度」は残すべきだという主張です。即応予備自衛官は、一般市民でもなれる予備自衛官とは違い、自衛隊出身者だけが志願でき、戦闘任務にも参加する、より即応性が高い実戦向けの自衛官です。しかし、これも23.7%しか実際には出頭せず、有効性に疑問が付きます。

 第4の反論は、民間企業に危険を冒せとは言えない以上、技能者を予備自衛官として囲い込んでおくべきだというものです。

 民間企業に頼らず、自衛隊だけで戦うというのは、理想論としては素晴らしいでしょう。しかし、これは現実を無視しています。例えば、陸上自衛隊の通信系等は有事でもNTTに相当依存しています。離島への輸送にしても民間のフェリー等を使わざるを得ないでしょう。その意味で「民間活力に頼らない」という発想は現代戦では捨てるべきなのです。民間は信用できない、危険なことをさせない、ではなく、彼らのリスクを下げつつ、どのように巻き込むかが大事なのです。

 第5には、有事に民間船舶を輸送用として危険な地域に突入させるために、船員を予備自衛官にしておくというものです。このために、予備自衛官制度を維持すべきだというものです。確かに自衛隊の輸送能力不足は離島防衛において深刻な課題ですし、もっともな主張に思えます。

 しかし、これについても間違いです。海上自衛隊側は2隻の高速輸送船に専従させる隊員がいないとしているようですが、それならば正面装備を削ってでも、隊員を回すべきですし、予備自衛官制度の予算で正規隊員を増員し、それを専従させるのが筋でしょう。そもそも、その予備自衛官に有事に拒否されたらどうするのでしょうか。

80億円を有効に使うならば?

 このように予備自衛官制度は、現代戦では有効性が低く、社会的に認められていない以上、廃止すべきなのです。

 もちろん、予算を全部廃止するというのは防衛省側として無理があるでしょう。また技能者をプールしておく意味もあるでしょう。ですから、例えば一案ですが、80億円を以下のように振り向けてみてはどうでしょうか。

・元自衛官等を中心とする災害時や有事の避難や救難のための民間防衛NGOへの補助金(47億円)
・日本版「ROTC」(予備役将校訓練課程)に15億円(毎年75人採用)
・臨時事務官として特殊技能者への契約金12億円
・広報費等6億円

 特に2番目のROTCの有効性は高いでしょう。ROTCとは米国の大学の制度で、志願者の大学生に対して将校教育を施し、学費と生活費を支給する代わりに一定期間の任官を義務付けるというものです。予備自衛官には大学生も多く参加していますが、彼らを一兵卒にするよりも将校とする方が有効活用と言うべきではないでしょうか。そして、学費や奨学金という名の借金に苦しむ学生を救うことにもなりますし、自衛隊幹部人材の多様性を確保することもできます。

 無理矢理に予備自衛官制度を延命させるよりも、こうした施策こそ選択するべきです。少なくとも、現状の予備自衛官制度に年間80億円の価値があるとは言えないでしょう。

筆者:部谷 直亮