新作『イラショナル・マン(原題)』について語ったウディ・アレン監督

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 数々の名作を手掛けた巨匠ウディ・アレン監督が、新作『イラショナル・マン(原題) / Irrational Man』について語った。

 本作は、人生に価値を見いだせない哲学教授エイブ(ホアキン・フェニックス)が、教え子ジル(エマ・ストーン)とキャンパスで恋に落ちるが、ある日エイブとジルは他人の会話をたまたま盗み聞きしたことからある究極の選択をしてしまい、それが殺人事件にまで発展するというストーリー。パーカー・ポージーがエイブの同僚教授リタを演じている。

 これまでも定期的に殺人ミステリー作品を描いていることについて「個人的に(殺人を含めた)シリアスな作品に興味があって、小説『罪と罰』や戯曲『マクベス』などから、ヒッチコック監督作品まで好きだ」というアレン監督は「僕が以前に(殺人を)描いた映画『マッチ・ポイント』は、幾つかの構成で描き、単に飛行機内などで読める書物や犯人捜しを楽しむ推理小説のようなものではなく、メッセージ性のある映画だった。だから『マッチ・ポイント』には製作価値があったし、今作も同様だ。もっともドラマでの殺人はギリシア神話からシェイクスピア作品まで同じで、殺人はある意味ドラマの一部だ」と語った。

 ジルとリタは、二人ともエイブと関係を持つ。「それこそリアルな人生だね。彼らは二人ともエイブが好きで、リタはエイブと不倫関係にあるが、彼女はもともとキャンパスのほとんどの人と(過去に)不倫関係にあった。一方、ジルは、頭は切れるが(少々)神経質で風変わりなエイブに一目ぼれする。こういうタイプの男性には、女性は手助けしたくなるものだ。エイブはとても魅力的な役柄で、チャーミングだが、常軌を逸したこともする。そういった部分は、エイブ役のホアキンにはすでに備わっていた」と明かした。

 映画内の音楽について「映画製作の中で音楽選考が一番好きだ。一度映画を編集してから別の部屋で膨大なレコーディングされた曲をかけてみる。いつもそれなりにアイデアを持って曲をかけるが、全くシーンに適さないこともあって、例えばモーツァルトなら完璧だと思っても、全くヒドいときもあった。今作はラムゼイ・ルイスの曲を使ってから、シーンに息吹が宿った気がした。ほとんどは偶然の産物で、(正しい曲ならば)緊張感を保ったまま、(心臓が)鼓動している感じになる」と説明した。

 映画は、ホアキン演じるエイブの、理念は正論だが、正論から生まれる常軌を逸した行動が魅力の作品。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)